ベンダー各社がEAの導入支援体制を急ピッチで整えている。関心の高まりを受けて、政府だけでなく、地方自治体や一般ユーザー企業も提供対象とするのが特徴だ。策定したEAに沿ってシステムを構築する実践的な手法/ノウハウの確立に動き出したベンダーもある。

表●システム・インテグレータやコンサルティング会社のEA導入支援に関する主な動き
 EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)が国内で本格的に話題になってから1年余り。国内のシステム・インテグレータやコンサルティング会社から、EAに関する新組織/サービスの発表が相次いでいる([拡大表示])。

 7月に入ってからだけでも、5社で動きがあった。NECは7月1日付でEA専任組織「EA推進室」を新設。日本ユニシスも同日付で、既設の「ビジネスイノベーション本部テクノロジ・イノベーション・オフィス」の役割を「EAの導入推進」に定義しなおした。

 同じく7月1日には、データ総研とNTTソフトウェアがそれぞれEA構築支援サービスを始めた。続く7月7日には、最大手の富士通も「業務・システム最適化コンサルティング」の名称で、支援サービスを発表した。

 先行してEA推進組織を立ち上げたり、支援サービスを始めていたベンダーも、その拡充に余念がない。例えば、昨年10月、国内大手ベンダーで初めてEA専任組織を設立した日立製作所は5月13日、以前から提供してきたコンサルティング・メニューをEAの概念に基づいて整理した。

「What」から「How」に進化

 ベンダー各社が体制整備を急ぐ背景には、国内におけるEAの普及がある。日立ビジネスソリューション事業部の伊藤 泰樹ITソリューション部担当部長は、「お客様に提案する際、最近は必ずと言ってよいほどEA的な観点が求められる」と証言する。同様の発言は、各社の担当者から聞こえた。EAの概念は、国内でも急速に浸透しつつある。

 理解が深まるに伴って、顧客の要求も変化しつつある。「『どうすればEAをシステム最適化に生かせるか』といった中身の議論に入りつつある」。日本IBMが今年1月に立ち上げたEA推進の仮想組織「IBM EAプログラム・オフィス(IEAPMO)」を率いる神庭かんば 弘年理事は、こう指摘する。「1年前は、社内やお客様の興味は『EAって何』というレベルにとどまっていた」。

 こうした変化に合わせてベンダー各社は、より実践的なEA構築支援サービスを整備しつつある。一例を挙げると、富士通の「業務・システム最適化コンサルティング」は、EAの各種成果物の作り方や具体的な手順をまとめたハンドブックを売り物とする。A4判で約50ページの冊子に、各アーキテクチャ・モデルの作成手順や相互の関係、サンプルなどを記載した。「企業・組織がすでに持つドキュメントのどの部分が流用でき、どの部分は新規に作成しなければならないか」や「並行して実施できる作業は何か」などを明らかにするためだ。富士通は「作業の手戻りや重複を防げるので、EA導入にかかる期間を3~5割短縮できる」(共通技術本部でEAを担当する成瀬 泰生プロジェクト統括部長)と見込む。試算では従来12カ月程度かかっていた作業が6~8カ月で終わるという。

 併せて富士通は策定したEAに沿って実際にシステムを構築する手法を提供する。EAの各種成果物を同社のシステム開発体系「SDAS」で使う標準ドキュメント「ComponentAA開発標準」に流用することで実現する。例えばビジネス・アーキテクチャの成果物を、実際のシステムの要件定義に使う方法を明示する。策定したEAを実システムにどう生かすかは、これまで必ずしも明確でなかった。

 日本IBMも、EAとシステム構築の間のギャップを埋める取り組みを加速させている。同社は7月以降、プロジェクト・マネジャの社内資格を持つエンジニアに対して、EAを積極的に教育する。「ものづくりの観点から、EAを使いこなすノウハウも集積する」(神庭理事)。これまで同社のEA教育の対象は、上流設計に携わるコンサルタントやアーキテクトが中心だった。

地方自治体や民間企業を狙う

 各社の支援サービスのもう一つの特徴は、政府(官公庁)だけでなく、地方自治体やユーザー企業の導入を視野に入れている点だ。あるベンダーのEA推進担当者は「官公庁のEA導入が実作業の段階に移った今、ベンダーの関心が地方自治体や民間企業に向くのは当然のこと」と明かす。

 日立は5月から開始したEA構築支援サービスのなかに、金融業と製造・流通業向けのメニューを用意した。業種ごとのニーズに応じて、成果物のひな型や導入手法を変える。従来は官公庁向けのメニューしかなかった。

 富士通のサービスは都道府県や政令指定都市、人口30万人以上の中核都市といった地方自治体を狙う。サービスの利用料金は個別見積もりだが、1件当たり500万円程度に抑える。「地方自治体が支出できる予算金額を配慮して料金を決めた」(コンサルティング事業本部で公共分野を担当する小村 元はじめプロジェクト統括部長)。

 日本政府が定めたEA導入の方法論を消化した上で、自社なりの特色を打ち出そうとする意欲も、各社の動きからは読み取れる。例えば、ベリングポイントが6月7日から開始したサービスは、同社が得意とするビジネス・アーキテクチャの理想(To Be)モデルの策定や、To Beモデルへの移行に向けたマネジメント体制作りに力点を置く。一方、システム基盤関連に強いNTTソフトウェアは、テクノロジ/アプリケーション・アーキテクチャの観点からEA導入を進める。データ・モデリングのノウハウを持つデータ総研やシーエーシー(CAC)のサービスは、データ・アーキテクチャからEA策定を始める。CACの桐山 俊也ESTコンサルティングセンター長は「コンサルティング結果から、データを重複管理しているといった現行システムの実態を把握できる」と主張する。

(星野 友彦、西村 崇)