システム構築事業の収益性向上を目指し、大手ベンダーが相次ぎグループ全体の開発力強化に乗り出した。富士通や日本ユニシスは開発子会社の再編で底上げを図る。NECやNTTデータ、日立製作所などはグループ全体での情報共有体制を確立して品質向上や提案力アップを狙う。

図●大手メーカー/インテグレータ各社がグループ開発子会社と進めるシステム開発力向上策とその狙い
表●大手メーカー/インテグレータがグループ開発子会社と進める開発力向上策

 「狙いはずばり『失敗プロジェクト』の削減。本体で得たノウハウを開発子会社と共有できる体制を整えることで、グループ全体で開発力の底上げを図る」。NECシステム技術計画本部の宮下洋一SPIセンター長はこう宣言する。NECのほかにも、日立製作所や富士通、日本IBM、日本ユニシス、NTTデータといった大手コンピュータ・メーカー/システム・インテグレータがこの4月以降、システム開発子会社を巻き込んだグループ全体でのソフト開発力向上策を打ち出している([拡大表示])。子会社を再編して開発手法の統一や周知徹底を進めるほか、本社で蓄積した開発ノウハウをグループ全体で共有する。

 ここにきて大手各社がグループ全体でシステム開発体制の強化に乗り出した背景には、SI(システム・インテグレーション)事業の採算が悪化していることがある。富士通は昨年度(今年3月期)にSI事業で683億円の特別損失を計上。昨年度に3年ぶりの黒字決算になったNECも、主力であるITソリューション事業の営業利益は2002年度の1058億円から100億円以上減少して917億円となった。

 各社のSI事業が苦しいのは、もうけの薄い、あるいはもうけの出ない案件が急増しているからだ。プロジェクトの短期・低価格化に加え、ベンダー側の技術力やプロジェクトマネジメント能力が必ずしも十分でない場合があることが響いている。

 各ベンダーはすでに、外注費のカットや本体の開発力強化といった策を講じている。しかし、開発子会社を含むグループ全体でシステム開発力を底上げしない限り、SI事業の収益性向上は望めない。いま各社がグループ会社の強化に乗り出しているのは、こうした事情による([拡大表示])。

子会社再編で開発手順を周知徹底

 開発子会社の再編を進めているのは、日本ユニシスと富士通である。なかでも日本ユニシスの取り組みは大がかりだ。今年10月に、地域システム開発子会社6社をソフト開発子会社の日本ユニシス・ソフトウェアに統合する。この再編で、地域システム開発子会社6社の開発要員約750人がユニシス・ソフトに異動することになる。

 これに先立ち、4月には日本ユニシス本体にいたプロジェクト・マネジャ、システム・アーキテクト約790人をユニシス・ソフトに異動させた。ここに開発子会社の要員が加わると、ユニシス・ソフトのSI担当者は約3400人になる。ユニシス・ソフトの丸山修代表取締役専務執行役員は、再編の大きな狙いを「ユニシスが標準として掲げるシステム開発体系『LUCINA(ルキナ)』をグループ企業に周知徹底させ、開発効率を向上するため」と説明する。

 富士通が4月に実施したシステム開発子会社の再編も、同社が昨年11月に発表したシステム開発体系「SDAS(エスダス)」の徹底が目的だ。富士通東京アプリケーションズをはじめとするシステム開発子会社3社を、システム設計担当の「富士通アプリケーションズ」(社員数約60人)と、プログラミング作業を請け負う「富士通アプリケーション開発」(同約250人)の2社にまとめた。「今後は設計と開発を分離した形での管理体制が主流になるとにらみ、この2社に分けた」と、新会社2社の社長を兼務する渡辺純氏は話す。

 富士通アプリケーションズと富士通アプリケーション開発は、Javaによるシステム構築プロジェクトを受け持つ。Java開発案件は富士通グループ全体のわずか2~3%程度だが、富士通は技術戦略の面で新会社を重視している。「SDASを開発プロジェクトに適用して得られたノウハウを富士通本体にフィードバックする役割も担う」と、富士通の技術統括部門であるソフト・サービス共通技術センターの薮田和夫プロジェクト統括部長は説明する。

品質、システム提案などの情報を共有

 NEC、NTTデータ、日立製作所、日本IBMは、グループ内でシステム開発に関する情報共有を進めることで、開発力の向上を目指している。

 NECは、CMMI(能力成熟度モデル統合)レベル3を取得したときに蓄積したノウハウを開発子会社に開示する。「グループ会社がこのノウハウを利用すれば、1年でレベル3相当の水準に到達できる」と、NECの宮下SPIセンター長はみる。来年3月までに子会社7社にCMMIを定着させる計画だ。

 NTTデータは今年4月から3年をかけて、プロジェクトマネジメントに関するノウハウを地域システム開発子会社9社で共有できるようにする。SIコンピテンシー本部長を務める澤 源太郎取締役は「各社に遍在しているプロジェクトのノウハウを現場を回って集め、ベスト・プラクティスとして各社で共有できるようにしたい」と話す。

 システム提案や業務分析に関するノウハウをグループ全体で共有することを、今年度の重点項目として進めているのが日立製作所だ。10月にもグループのシステム開発子会社約20社に対して、「業務課題の整理の仕方」や「ある業務課題に対する解決例」といったノウハウ約100件を公開する予定だ。

 まず、専用の情報共有システムを7月に立ち上げる。日立本体で利用を始めてから、システム開発子会社に順次展開していく予定である。「過去の実績や経験に基づいて、ユーザーのニーズに合う提案がしやすくなる」と、生産技術本部システム開発部の石川貞裕部長は説明する。

 日本IBMが7月以降にグループ会社との共有を計画している情報は、ややユニーク。グループ各社のプロジェクト・マネジャやSEのうち、「開発プロジェクトに携わっていない“空き状態”の要員はだれか」に関する情報である。

 日本IBMはすでに社内で「空き要員を探す」、「要員のプロフィールや連絡先を参照する」といったことを可能にする人材管理システムを利用している。これを、日本IBMビジネス・ソリューション、エクサなど24社の連結子会社にも展開していく。すべての子会社が導入すれば、約2万人に達する要員の空き状況をこのシステムで確認できるようになる。「このシステムで探した要員は、日本IBMの担当者とともに顧客への提案活動から合流してもらう。要員の“適材適所”がグループ全体のレベルで可能になれば、開発プロジェクトの運営はよりスムーズになるはず」と日本IBM サービス事業 オペレーションズの上月俊尚(こうづきとしひさ)事業管理担当は期待する。

(西村 崇)