地図情報システム(GIS)の分野で強力な特許が成立した。Webを使ったGISソフトの多くが特許に抵触する可能性がある。特許保有者のKDDIはこれを機に、独自形式の電子地図にこだわるGISソフトのベンダーをけん制。同社が推す「SVG」を業界標準に押し上げる戦略を明確に打ち出した。

図●KDDIのGIS特許の概要
複数のサーバーから道路、家屋などのデータを引き出し、
1枚に合成する

 「今回の特許についてのKDDIの姿勢に困惑している。真意が知りたい」(あるGISベンダー)。KDDIがGIS関連の国内特許成立を受け、ライセンス交渉に動き出したことに、主要なGISソフト・ベンダーは一様に衝撃を受けている。その内容が、WebベースのGISの基本特許と呼べるほど強力なものだからだ。

 KDDI研究所が取得した特許は「地図表示システム(特許第3503397号)」。同社は「ハイパーレイヤリング特許」と呼んでいる。2000年8月の米国特許に続き、今年2月19日に国内でも成立した([拡大表示])。(1)基本地図や施設データをそれぞれインターネット上の異なる場所に配置する、(2)これらのデータをクライアント側で重ね合わせて地図をダイナミックに生成する、の両方の条件を満たす多くのGIS製品が特許に抵触する可能性が高い。ベンダー各社の今後の製品計画に、大きな影響を与えそうだ。

 ただし、KDDIは「特許料収入を目的にしているわけではない」とする。狙いは、同社が推す画像形式「SVG(Scalable Vector Graphics)」の普及である。2月の発表資料には「SVGでの使用に限り本特許のロイヤルティを無償とする」と明記。独自形式にこだわるGISベンダー各社を特許でけん制し、SVGの採用を働き掛けていく戦略を打ち出した。

 SVGはXMLを使った画像形式で、米アドビ システムズ、米マイクロソフトなどがW3C(World Wide Web Consortium)の場で1998年から標準化に取り組んでいる。SVGは線や文字といった個々の要素をXMLのタグで表現する。このため異なるデータを合成したり、中に含まれる文字列を検索するのが容易で、特に電子地図の加工や配信に向いている。KDDIも携帯電話などでの利用を想定し、子会社のKDDI研究所を通じて早くから規格策定にかかわってきた。

 インターネットで配信される基本地図に、企業や個人が自分自身で作成したさまざまなコンテンツを重ね合わせて、オリジナルのGISデータベースを気軽に作る―。KDDIが目指しているのはこうした世界。現在の多くのGISのように、各ユーザーが高価な地図データを個別に購入する必要はなくなる。地図画像形式の統一は、こうした電子地図やコンテンツの流通を促進するために不可欠というわけだ。

 KDDIは店舗などの位置情報を流通させるための取り組みも進めている。昭文社などと「gコンテンツ流通推進協議会」を結成。携帯電話などのモバイル端末で位置情報データを交換するための規格作りを手掛けている。2004年度末に公開する予定である。

 「旧KDD(国際電信電話)はファクシミリの画像形式の標準化を主導し、国際通信需要を拡大した。SVGは、今後の地図コンテンツ流通にとっての基盤技術。ファクシミリと同様、長い目で見れば大きな利益につながる可能性がある」(KDDI)。

(本間 純)