ICタグの国際標準化団体「EPCグローバル」への加入をためらう国内の大手ベンダーが続出している。同団体が会員企業に求める知的財産の取り扱い方針が「自社に不利に働く」との懸念を抱いているからだ。日立製作所や富士通が今年2月に要望を申し入れたが、解決の糸口は見えていない。

図●国内大手ベンダーが問題視しているEPCグローバルによる 知的財産の取り扱い方針

 「今のままではEPCグローバルに加入できない」。世間がICタグの実証実験にわく裏で、こうした国内大手ベンダーの悩みが浮上している。

 EPCグローバルは、旧オートIDセンターの知的財産を引き継ぐ形で、バーコード管理団体の「国際EAN協会」と「ユニフォーム・コード・カウンシル」が昨年11月に共同設立した。すでに100社以上の会員を集めている。

 ところが今年3月中旬の時点で、日立製作所や富士通、NEC、NTTといった大手ベンダーはEPCグローバルに加入していない。同団体による知的財産の取り扱い方針が各社にとって不利に働く可能性があるため、加入したくてもできないのである。

 EPCグローバルで標準規格の策定に当たる会員企業には「関連会社を含め、保有するICタグ関連の知的財産を調査して提出する」義務が課される。これらを有償/無償で同団体にライセンス提供するか、拒否するかも選択する。

 規格策定後に巨額の特許料を要求する企業が現われるのを防ぐために、知的財産の調査が不可欠なのは、各ベンダーも理解している。各社が最も問題視するのは、調査のための期間が短かすぎることだ([拡大表示])。

 昨年12月にEPCグローバルが公開した「知的財産ポリシー」によると、会員企業に与えられる知的財産の調査期間は「規格のドラフト案の完成から30日間」。国際標準化機構(ISO)の90日と比べ、3分の1と短い。30日を過ぎて、EPCグローバルの規格が自社の知的財産に抵触すると分かっても、同団体へのライセンス提供を拒否することは基本的に認められない。

 ある大手ベンダー担当者は、「関連会社を含めると、保有する知的財産は膨大な量。たった30日でEPCグローバルの規格に関連するものを探し、翻訳して提出するのは事実上不可能だ」と指摘する。このほか、関連会社の知的財産まで調査の対象となる点に不満の声を上げる企業もあった。

 そこで富士通や日立製作所など大手ベンダー約10社は2月に、「調査期間を長くできないか」といった趣旨の要望を、EPCグローバルの日本側の窓口である流通システム開発センターを通じて申し入れた。しかし、EPCグローバルの回答は各社の期待に程遠かった。「知的財産に関する明確な回答はなく、『売り上げ規模に応じた会費を支払えば入会できる』という内容だった」(大手ベンダー担当者)。

 EPCグローバルが定めた知的財産の調査期間が短いのは、米ウォルマート・ストアーズの意向が働いている模様だ。同社は来年1月から、物流分野でICタグを実用化すると宣言している。「ウォルマートが計画を守るためにあわてているのではないか」(同)。

 複数の関係者によれば、米国でもEPCグローバルの知的財産ポリシーに対して日本と似た反発が出ている。ただし、すでに100社以上が加入していることもあり、「EPCグローバルが知的財産ポリシーの内容を即座に見直す可能性は低い」と見る向きが多い。

(本間 純、栗原 雅)