国内最大のITベンダー、富士通がもがき苦しんでいる。V字回復を目指した今年度も、第3四半期(2003年10~12月)までの業績を見る限り状況は厳しい。

 後がないのは、富士通が一番よくわかっている。昨年6月に就任した黒川博昭社長の指揮のもと、急ピッチで自己改革を進めている。

 この3月1日、日経コンピュータとの単独インタビューに応じた黒川社長は、復活に向けた思いを73分間話し続けた。その全文を掲載する。

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 昨年6月に富士通の社長になって以降、これからのITベンダーの役割や、商売のあり方を考え続けています。

 まず「お客様起点」で商売しないとダメだろう、と考えました。

 ITは経営戦略の一つになっています。だから、私たち富士通は経営のパートナー、事業のパートナーになることを目指さないといけない。当然の論理的な帰結です。だから私は、(社内に対して)「お客様の経営や事業のパートナーになるべきだ」、と言いました。

 ところが、自分たちのやっていることをもう一回見直してみると、決してそうはなっていない。「日経コンピュータ」のアンケート(顧客満足度調査)の評価は低いし、(富士通の)プロダクトも、必ずしも受け入れられていない。

 私はずっとフィールド(現場のSE)をやっていました。その後システムサポート本部という顧客サポートの部門や、アウトソーシング部門を担当していました。そうしたお客様と接する部門を担当していくなかで、秋草(会長)が打ち出した方針と、現場とのギャップというのを感じたわけです。

品質と納期という富士通の原点に戻る

 このギャップを埋めるためにはどうするべきか。そうすると、やはりお客様起点で行動する、ということに行き着くわけです。

 富士通は昔、お客様に対して品質と納期をきちんと守ってきました。富士通にとってのお客様起点はこれですよ。品質と納期のほか、スピードも大事です。お客様も、私たちの競合会社も、非常に動きが早くなっているわけですから。

 そのところで富士通は劣っていて、競争に負けているんじゃないかと思ったわけです。だからやることといったら、とにかく、品質と納期という原点に戻ってやると。

 じゃあ、どういう成長戦略を採るかなんですが、私自身昨年の6月末に社長になったので、2003年度はもう予算を含めていろいろ決まってしまっています。だからそのなかでやることと言ったら極めて明快です。ともかく立てた予算を守るということですね。とにかくいろいろなところから、「富士通は業績予想を下方修正ばっかりしている」と言われていましたので(笑)。

 私は、これは冗談じゃないよ、と(社内に)言いました。富士通は、何が何でも立てた目標や、お客様との約束を守るのが良さだったわけですから。

社長みずから顧客に約束

 お客様との約束を守るために何をしなきゃいけないかというと、まずは社員の人心を取り戻すということです。それからもう一つは、お客様に対して「富士通は皆さんのパートナーとしてちゃんとやっていきます」というメッセージを発信することです。

 私は全国で開催している20回以上のお客様向けセミナーで、2000人を超えるお客様と名刺交換をしました。そして「きちっと現場感覚でやりますから、引き続きお願いします、今年は必ずよくしますから」ということを、私自身がお客様に約束して歩いたんです。富士通はいろいろと反省すべきことがあります。皆さんのパートナーになるために、お客様起点で考えて行動します。それから品質と納期、そしてスピードを上げます。そして、現場主義で行動することを約束します、と。

 もう少し具体的なこととして、製品のことも言いました。「TRIOLE(トリオーレ)」という形で良い製品をきちんと出していきますと約束しました。富士通は今後サーバー系で、メインフレームで培ったノウハウや技術を、UNIX(Solaris)やLinuxのサーバーに徹底して入れていきます。

 それからもう一つ申し上げたのは、富士通は技術の会社だということです。要するに、頭数で商売する会社じゃないですと。我々のお客様へのサポートというのは、技術の裏付けがないとだめなんですよ。

 やっぱり技術的な基盤というのを、もう一回確認しようということです。SDAS(エスダス、富士通のシステム構築体系)でシステムを半分の時間で作れるように徹底してやり方を変えようとか、いろいろなことをやっています。それから今までSE会社(システム開発を行う富士通の子会社)で、XMLを軸にしてEJBで開発する、という会社を数社設立したんだけど、やっぱりそれらは独立して動いていてはダメだとか。その辺は技術だけじゃなくて仕組み、それから人の教育を併せてやっていきます。

 要素技術ももっと磨いていきます。例えばソフトウエアや半導体、それから光伝送技術など、いろいろとあります。そういった技術をきちっとやっていきますと。

 このようなことをきちんとやっていきますから、引き続き富士通と付き合ってください。それが私がお客様に申し上げたメッセージです。

社内へのメッセージを積極的に発信

 当然、お客様に約束したんだから、社内には「プロダクトやサービスをもう一回きちんと見直そう」ということを言いました。

 プラットフォーム事業はTRIOLEという軸を決めているわけですから、そこに関するプロダクトをどんどん出していけと言いました。(プロダクトが)売れていないというのは、やっぱり単に他社より劣っているんじゃないか。こういうことも言いました。

 それともう一つは、富士通らしいプロダクトを出せということです。通信と情報を融合したものとか、そういうことを言っています。

 ソフト・サービス事業の方は、PROBANK(本誌注:東邦銀行の勘定系刷新プロジェクトおよび適用したパッケージ名称のこと。プロジェクトは難航し、昨年9月に9カ月遅れで稼働にこぎ着けた)です。富士通はどうなっちゃったんだと言われました。もうあれだけマスコミとかに叩かれたんだから、もう意地でも動かそうと(笑)。

 やっぱり富士通の営業もSEも、ずっと金融のお客様を見てきたという自負心がありますからね。やっぱりそれに火をつけて、きちんと仕上げようと言いました。昔から富士通は火だるまになろうが何しようが、お客様との約束を守ってきましたし。

ライフサイクル型のサービスを投入

 また、お客様はTCO(システムの総所有コスト)について、非常に関心が高いです。それと、お客様の関心が、作るということから使うということに変わってきています。そうしたニーズに対応していくということが、やっぱりポイントになってきています。そういう観点で、商品やサービスをライフサイクル型に変えることをやってきました。

 並んで大事なのが、営業とエンジニアの価値観を一つにまとめていく必要があります。営業は営業で考えるし、SEもSEで考える。そこのマネジメントが変わるのは、お客様からすると歓迎すべきことじゃないですよ。お客様に価値を継続的に提供するために、お客様に対する考え方を、営業やSEとですり合わせる必要があるということです。

 これまでも目標共有などいろいろやっているんですけど、それだけでは無理なところがあるなと。そこで、トヨタ自動車さんやみずほ(フィナンシャルグループ)さんなどお客様向けや、医療分野など業種向けの組織を作りました。ここには営業やSEが一緒に入って活動します。

 富士通はこれまで、ずっと営業とSEは別の組織だったわけです。営業は狩猟民族的で、SEはどちらかというと農耕民族的といいますか、価値観が違う。だけどそこを一緒の価値観でまとめないと、お客様との付き合いを強化することにならないというので、それをやったわけです。

みずから動いて社員の動きを促す

 まとめますと、もう一回富士通のマインドをきちんと確認する。そして、プロダクト、サービスをそのマインドに沿って出していく。同時に、組織的な対応をする。そういうトータルで富士通はきちんと変わります、ということを、お客様にコミットしています。

 私がお客様にコミットしますと、社員もそう動かなくてはなりません。

 お客様とのパーティーに私も出るわけですが、だいたい(当社の)営業やSEがいるわけです。お客様が「お前のところの社長はいいことを言う。お客様起点で考えて行動しろと言った。お前、ちゃんとやってるよな」とお客様がにやっと笑っておっしゃったり。あるお客様は、「黒川さん、コイツらちゃんとやってるよ」とほめてくださったりね。いろいろ反応があります。

写真=吉田 明弘