ICタグを使ったシステムの開発を効率化するミドルウエア製品が登場した。NTTコムウェアと日本ユニシスが2月に出荷を開始。NECは7月にも出荷する。ICタグからの情報収集や管理、既存アプリケーションとの連携機能などをミドルウエアで提供して、業務分野でのICタグ・システムの利用促進を狙う。

表●ベンダー各社が提供するICタグ・システム向けミドルウエアの概要
図●各社が提供するICタグ・システム向けミドルウエアの主な機能

 ICタグを使ったシステム構築を手がけるベンダー各社は、ICタグを利用したサプライチェーン管理システムやトレーサビリティ・システム、資産管理システムなどの構築を効率化するミドルウエアの製品化を急いでいる。ICタグが本格的な普及期を迎えつつあることをにらんだ動きだ。

 すでに製品を投入したのは、NTTコムウェアと日本ユニシスの2社([拡大表示])。NTTコムウェアは2月2日に「RFIDミドルウェア」、日本ユニシスは2月27日に「Information Wharf」というICタグ・システム用ミドルウエアの出荷を始めた。NECも早ければ7月に製品を出荷する。

開発者はアプリ側に専念できる

 各社が投入するICタグ・システム用ミドルウエアは、ICタグ情報の取得や管理、タグの情報と製品情報とのマッチングといった、ICタグを使う業務システムに共通する機能をまとめて提供する。ミドルウエアを使えばこうした機能を新たに作る必要はないので、システム構築の手間を軽減できる。

 ミドルウエアはICタグと既存アプリケーションとの“仲介役”も果たす。業務アプリケーションからは、ミドルウエアが提供する共通APIを使って、ICタグの情報にアクセスできる。

 この形をとれば、ICタグの情報を格納するデータベース・ソフトを別のソフトに替える、ICタグの情報の読み書きに使うリーダー/ライターの種類を増やす、などの変更を加えた場合でも、アプリケーション側に手を入れなくてすむ。「システムの開発者はアプリケーション側の作業だけに専念できるようになる」と、日本ユニシスソリューションビジネス統括部ユビキタスソリューション部の吉田知加(ちか)部長は話す。

 APIを介することで、アプリケーションを変更した場合でもミドルウエアにその影響が及ばなくなる。結果的に、システムの保守性が上がることが期待できる。

 日本ユニシスの吉田部長は、「顧客がリーダー/ライターを自由に選べることも、ミドルウエアを使うメリット」と指摘する。「リーダー/ライターによって時刻や場所のデータを付加できる、できないといった違いがある。ミドルウエアを使えば、こうした機能差を吸収できる」(同)。

主要3機能とドライバを提供

 各社が提供するICタグ・システム用ミドルウエアに共通する機能は、大きく三つある([拡大表示])。

 一つ目は、ICタグ情報の取得機能。ICタグからリーダー/ライターで読み取ったデータを一時的に保管しておき、適切なタイミングでシステムに取り込む。多くの場合はICタグを一意に識別するためのID情報を取得することになる。ICタグをいつ取得したかを表す「時刻」情報も同時に取り込む。

 二つ目は、取得したICタグ情報をデータベースに格納して管理する機能である。データベースには、ICタグから取得した情報や「時刻」に加えて、タグ情報を取得した「場所」、ICタグに関連した製品情報などを必要に応じて収容する。このほか、誤って読み込んだり、重複しているデータなどを見つけ出して削除することもできる。

 RFIDミドルウェアはデータベース・ソフトとしてOracleとオープンソースのPostgreSQL、Information WharfはPostgreSQLをそれぞれ利用できる。「スーパーなどで数十店舗にシステムを設置する場合、製品コストが大きく響く。そのことを考慮して、PostgreSQLを利用できるようにした。動作OSもLinux、Solaris、Windowsの3種類が使える」と、NTTコムウェア ビジネス創出部の北井敦担当部長は話す。NECのミドルウエアはSQL Serverを利用する。

 三つ目は、取得・格納したICタグの情報から、関連した他の情報を検索して組み合わせるマッチング機能だ。現在使われているICタグには、IDしか持たせない場合が多い。そこで取得したIDから、それに関連した「トマト、高知県産」といった情報をマスター・データベースから探し出して表示するマッチングあるいはひも付けの作業が必要になる。

 ミドルウエアはこれら3種類の機能に加えて、リーダー/ライターを利用できるようにするドライバや、開発者向けのSDK(Software Development Kit)を提供する。リーダー/ライター用ドライバとして、RFIDミドルウェアとInformation Wharfはオムロン製品向けを用意している。SDKはユーザー自身がICタグ・システムを構築できるようにするもので、RFIDミドルウェアとNECのミドルウエアにオプションとして含まれる。

ICカードやGPSを使える製品も

 各社のICタグ・システム用ミドルウエアは、こうした基本機能に加えてそれぞれ特徴を持つ。

 RFIDミドルウェアは、ミドルウエアとアプリケーションとの間でデータをやり取りする際に、SAML(Security Assertion Markup Language)というセキュリティ仕様に基づいた認証をかける仕組みを持つ。

 Information WharfはICタグ以外のデバイスも扱えることが特徴。FeliCa仕様のICカードやGPS(全地球測位システム)のデータを扱うためのドライバを備える。「今後は温度や湿度を測るセンサーのデータや、カメラで撮影した映像データも扱えるようにしていく」と日本ユニシスの吉田部長は話す。

 これから製品を投入するNECは、「データの二重読み込み」や「データ読み込みの失敗」などを検出する機能を重視している。NEC 市場開発推進本部RFID事業推進センタの村山裕樹センタ長は、「これまでの経験から、データ読み込み精度が高くないと、実運用には耐えられないと痛感した」と話す。

(松浦 龍夫)