UML(統一モデリング言語)によるモデリング・ツールを販売するベンダーが、UMLの新版「2.0」を利用できるよう製品の強化を急いでいる。3月までに4製品が登場する見込みだ。詳細なシステム分析/設計を可能にするUML2.0を採用することで、製品の需要が拡大すると各社は期待をかける。

表1●UML2.0で規定される図の概要
図●UML2.0を作図可能なツールの画面例
シーケンス図を作成中のEnterprise Architect(左)と、コンポジット図を作成中のDescribe Enterprise
表2●ベンダー各社のUML2.0に関する取り組み
 「UML2.0ではモデリングの表現力が上がるので、ユーザーのメリットは大きい。UMLツール・ベンダーにとっても、きっと追い風になる」。UMLツール「Konesa(コネッサ)」の販売を手がけるオージス総研の正田塁(るい)UMLソリューション部Konesa推進チームマネジャーは、こう期待を寄せる。

 UMLツール「Describe Enterprise」を販売する日揮情報ソフトウェア営業本部営業推進部の深池敏光氏は、「当社の製品を含めUMLツールの多くが、UMLで記述した図(ダイヤグラム)からプログラム・コードを生成する機能を備えている。UML2.0でシステム分析/設計の内容を詳しく表現すれば、コード生成機能の精度を向上できる。それによってユーザーの利便性が上がれば、UMLツールの普及につながる」とみる。

年内に主要ベンダーが投入を計画

 UMLは、業務の流れやシステムの構造を図でビジュアルに表現するための手法(昨年12月1日号特集「UMLの極意」を参照)。UML2.0はその最新版である(表1)。オブジェクト指向の標準化団体である米OMG(オブジェクト・マネジメント・グループ)が策定を進めており、今年4月にUML2.0の正式版が確定する予定だ。

 UML2.0では、組み込みソフトの分析/設計で役立ちそうな「コンポジット図」や「タイミング図」といった図を新たに追加するほか、既存の図も表記法を変更する([拡大表示])。例えば、業務分析やシステムの要件定義がしやすいように、アクティビティ図やシーケンス図の表記法を拡張する。結果的にUML 2.0は、従来の「UML1.x」に比べて大幅な強化が図られることになる。

 UMLベンダーはこれをツール普及の好機とみて、UML2.0の図を作成できるようにするための製品強化を急いでいる(表2[拡大表示])。年内にはUML2.0を使える主要製品が出そろう見込みだ。

日揮情報ソフトウェアが先行

 すでにUML2.0を使える製品は登場している。UML2.0での図の表記法は、昨年半ばにほぼ固まっていたからだ。

 先行したのは、日揮情報ソフトウェア。昨年9月に投入したDescribe Enterpriseの6.1版で、UML2.0で追加/変更されたコンポジット図、シーケンス図、コンポーネント図を作成できる機能を実現した。「ツールを開発した米エンバカデロ・テクノロジーズからは、仕様がどの程度確実か、実業務に対してどの程度有効かを考えたうえで、追加する機能を決めていったと聞いている」(日揮情報ソフトウェア技術本部テクノセンターDBライフサイクル マネジメントチームの趙基済(ちょうぎぢぇ)氏)。

 同社は2月12日には、Enterprise6.1の機能限定版である「Describe Developer」の新版6.1を出荷した。Describe Developer6.1では、クラス図、シーケンス図、ユースケース図をUML 2.0仕様に基づいて作図できる。

すべての図を書ける製品も登場

 この3月には、スパークスシステムズ ジャパン、伊藤忠テクノサイエンス、日本テレロジックがUML2.0の作図機能を備える新版を投入する。

 なかでも注目されるのは、スパークスシステムズ ジャパンの「Enterprise Architect 4.0」。UML2.0が規定する13種類の図すべてを作成できる。伊藤忠テクノサイエンスの「Rhapsody 5.0」と日本テレロジックの「Telelogic TAU Generation2 2.3」は、UML2.0の相互作用概要図とコンポジット図を書くことができる。

 Enterprise Architect 4.0は、1ユーザー当たり1万~2万円台と低価格なのが売り物。作図機能に加えて、図からJavaやVisual Basicなどのソース・コードを生成したり、ソース・コードから図を生成する機能を備える。スパークスシステムズ ジャパンの河野岳史代表取締役は、「Web販売に絞り、サポートもメールのみにして価格を抑えた。UML2.0で何ができるかを、最小限の投資で確かめることができる」と話す。Rhapsody とTelelogic TAUは、組み込みシステム向けの製品だ。

 オージス総研、日本IBM、ボーランドは、UMLツールにUML2.0の作図機能をまだ追加していない。オージス総研の正田マネジャーは「UML2.0の作図機能をなるべく早くKonesaに追加したい。4月ごろに方針を決める」と語る。UMLツール「Rational Rose」を販売する日本IBMや同「Borland Together ControlCenter」を手がけるボーランドは、年内にUML2.0を利用可能にする予定だ。

作図以外の機能はまだこれから

 ただし現段階では、各社のUMLツールが搭載するUML2.0の機能は作図の部分にとどまっている。UML2.0は、図の追加や改変に加えて、(1)UMLツール同士で図のデータをやり取りする仕様や、(2)UMLで作成した図からプログラムを自動生成する仕組みである「MDA(モデル駆動アーキテクチャ)」を実現するためにシステム要件を詳細に記述する仕様を規定している。

 実際には、(1)や(2)の機能をすでに備えているUMLツールも存在する。しかし、UML2.0が定めた仕様にのっとって実現するのは、まだこれからというのが現状である。

 UML2.0の機能を備えたツールを使ったからといって、すぐ効果が出るわけでないことにも注意が必要だ。日本テレロジック技術部の黄盛根(ほぁんさんくん)エンジニアは、「UML2.0で追加された図は『必須ではないが、他の技術者とのコミュニケーションに便利』というもの。その観点で、実際に使うかどうかを検討すべきだ」と話す。

(西村 崇)