「これまでの情報化は“趣味の世界”だった」。食品大手キユーピーでCIO(最高情報責任者)の役割を担う山上 英信氏は手厳しい。「情報システム部門の仕事は構築が2割、残りの8割は稼働後の活用。今は活用の段階で消化不良を起こしている」と率直に語る。そこで山上氏は、システム部員に意識改革を呼びかける。「『モニターの裏側の仕組み』を説明して満足するな」、「システムを使ってユーザーが楽になるよう工夫するのがお前たちの仕事」と檄を飛ばす。

Hidenobu Yamagami
1970年3月、中島董商店に入社。72年12月、中島董商店の販売部門がキューピーに移管されたのに伴い、同社に移籍。営業部門、購買部門を経て、94年に9月、タマゴ商品本部商品管理部長に就任。95年12月、物流情報室長。98年9月、情報物流本部副本部長。99年11月から情報物流本部長を務める。2001年2月、取締役に就任。

――CIOとして、どんなことに気を配っていますか。

 変化が激しく、追いまくられている、というのが正直なところです。

 「情報物流本部」に来て8年ほどになります。最初のころは、「物流」の改革に力を注いでいました。1997年ごろは30日分だった在庫が、今では11~12日分になりました。在庫削減は、8割がた完成したとみています。

 それで昨年ぐらいから「情報」のほうにも本格的に手を付け始めました。キユーピー・グループとしての情報化戦略をもっと考えなければならないと試行錯誤の真っ最中です。

 実は昨年、社長(大山轟介(ごうすけ)氏、2月20日付で取締役相談役に就任)に「IT投資の内容を詳しく説明しろ」と言われましてね。「そんな細かいところまで、俺が知るわけない」と言い返したら、えらい剣幕で怒られた(笑)。

活用段階で消化不良

――かなり厳しく言われましたか。

 ええ。「毎年、何億円も使ってどういうことだ」と。

 社長が怒るのも分かる。IT関連の償却費が年々大きくなっていますから。

 厳しい言い方をすると、これまでのITは“趣味の世界”だった。一つ例を挙げましょう。当社では本社の社員全員にパソコンを持たせています。帳票を法定以外はほぼ全廃して、手元のパソコンから検索できるようにしている。モバイルやワークフローにも取り組んでいる。

 他社に比べても、「進んだシステム」と思いますよ。でも、一方で「やり過ぎではないか」と感じないわけでもない。本当に活用しているのか。

 よく「情報リテラシ」と言いますが、使いこなしているシステムがどれだけあるのだろう。営業なんか、パソコンの苦手なヤツのほうが取引先との関係作りが上手で、成績も良かったりする。そんな人間にパソコンですべてやれというのは窮屈でしょ。

 結局、IT部門の仕事というのは構築が2割、残りの8割は稼働後の活用です。これまでは活用の段階で消化不良を起こしていたと反省している。

 「どのくらい(ユーザーがシステムを)使っているのか」、「どんな使い方をしているのか」、「どのような効果を出しているのか」…。もっともっと考えなければ、ITの投資効果は上がらない。定量化できなかったら、定性でも何でもよい。「とにかく指標を作らなければ」と焦っています。

――そんなに危機感がありますか。

 我々(ユーザー企業のIT部門)の仕事は、「システムを作ること」じゃない。「ユーザーにいかに使ってもらえるか」です。それにより、「ユーザーの仕事にどうやって付加価値を付けていくか」です。

 いつも部内にはそのことを言い聞かせている。「社内のユーザーに、システムの使い方を理解してもらうのがお前らの仕事なんだ」って。

 エンジニアはどうしても、(システムの)後ろのほうばかりに興味を持ち、そこを中心に説明してしまう。ITの専門用語をちりばめて、「モニターの裏側の仕組み」を一生懸命説明していた。説明用のプレゼンテーション一つ見ても、使っている機器の型番とかを丁寧に書き込んでいた。

 ユーザーにしてみれば、「それがどうした」ですよ。それでいてシステムの活用が進まないと、「私が悪いんじゃない。仕様書通りに作っただけです」となる。説明にしたって、「あの人はコンピュータを分かってないから、この程度でいいんだ」と自分を甘やかしていた。

 これではイカンと部内で意識改革を呼びかけた。「営業だったらお客様の無理難題を何とかしようと、頭を使うぞ。もっとお前たちも考えろ」、「ITの素人に分かるように説明するのがプロ。お前らみたいのをセミプロというんだ」と怒鳴り続けました。「システムが使ってユーザーが楽になるように工夫するのがお前たちの仕事だぞ」と活を入れました。

 その甲斐あって、最近はかなり意識が変りました。ユーザーへの説明も、すごく上手になった。「モニターの裏側の仕組み」ではなく、「システムをどう営業に役立てるか」などを語り始めました。

聞き手=星野 友彦(本誌副編集長)