最初の製品が出荷されてから半世紀近く経った今、ハードディスクが転換期を迎えている。現行方式のままでは大容量化や高速化に限界が見え始めたからだ。メーカー各社は今後2~3年かけて、「垂直磁気記録方式」や「シリアル・インタフェース」を順次採用し、この壁を乗り越える方針である。一方、携帯電話や家電などへの搭載を狙った製品も登場する。

(高下 義弘)

写真1●IBM350 RAMAC(1957)
図1●過去10年間のハードディスク容量の伸び。デスクトップ・パソコンで一般的に使われる3.5インチ・ハードディスク(1インチ厚)の場合
写真2●Hitachi Microdrive 3K4(2003)
 世界最初のハードディスクが登場したのは、いまから半世紀ほど前。米IBMが1956年に発表し、57年から出荷を始めた「IBM 350 RAMAC」がそれだ。

 写真1からもわかるように、RAMACは巨大だった。大型冷蔵庫2台分ほどもあるきょう体に、直径24インチ(約61cm)のディスクを50枚格納していた。これで容量はたったの4.4Mバイト。今なら、ちょっと大きめの画像ファイルを数枚納めただけで一杯になってしまう。

 しかしハードディスクは、その後の半世紀で、長足の進歩を遂げた。「磁性体を塗布したディスク(プラッタ)を回転させ、その上で浮上する磁気ヘッドが磁性体の向きを読みとる」という基本原理は誕生時から同じだが、より大容量に、より高速に、そしてより小型になった(図1[拡大表示])。

 例えば、日立グローバル ストレージテクノロジーズ(日立GST)が2003年に出荷した「Hitachi Microdrive 3K4」。直径1インチ(2.54cm)のディスク1枚で、RAMACの1000倍近い4Gバイトのデータを記録できる。データ転送速度は最大97.9Mビット秒と、RAMACの57万6000倍に達する。きょう体は名刺の半分ほどの大きさで、厚さは5mmしかない。重さはわずか16gと吹けば飛んでしまいそうだ(写真2)。RAMACから半世紀もたたないうちに、ハードディスクはここまで進化した。

記録方式やインタフェースが変貌

 3年後の2007年、ハードディスクは生誕50周年を迎える。この節目の年をはさんで数年の間に、ハードディスクは誕生以来の大変革を遂げる。

 まず、ディスクにデータを記録する原理(記録方式)が根本的に変わる。RAMAC以来使い続けてきた、現行の「長手磁気記録方式」では、これ以上記録容量を増やすことが難しくなりつつあるからだ。

 そこで今後2~5年後をメドにハードディスク・メーカー各社は「垂直磁気記録方式」という、新しい原理を導入する。これにより、これまでの容量増加のペースを維持する。

 もう一つの変革は、ハードディスクとコンピュータの間を結ぶインタフェースで起こる。複数ビット分のデータを同時に(並行して)やり取りする「パラレル・インタフェース」から、1ビットずつデータを送受信する「シリアル・インタフェース」への移行が急速に進む。ディスクの高速化に伴って、パラレル・インタフェースのデータ転送速度がボトルネックになるのを防ぐ。移行は今年から本格化し、3~5年後にはパラレル・インタフェースはほぼ駆逐される見通しである。

 最後にハードディスクの適用分野が大きく拡大する。コンピュータ(特にパソコン)以外の機器、具体的にはビデオ・レコーダーやカー・ナビゲーション・システム(カーナビ)などへのハードディスク搭載が急増するのを受けて、「ノンPC」での利用を前提としたハードディスクが続々と登場する。東芝が年内に量産出荷を開始する予定の0.85インチ・ハードディスクは、その一例だ。主に携帯電話への搭載を狙う。