前号に続き、2004年のIT業界を展望する。今回はソフト/システム・インテグレータ大手の社長6人に聞いた。情報化投資は「一応の底を脱し、回復基調」との見方が大半を占めた。ソフト各社は中小企業への拡販、システム・インテグレータ各社は得意とする業種の確立を目指す姿勢が鮮明になった。

図●大手コンピュータ・メーカー6社の社長に送った質問の内容
 「2004年はIT業界にとってどんな年になるのか」。前号でのコンピュータ・メーカー7社に続き、今回はシステム・インテグレータ(SI)大手3社とソフト大手のマイクロソフト、日本オラクル、SAPジャパンの計6社の社長にこの質問をぶつけた([拡大表示])。

 ソフト/システム・インテグレータ各社は、2004年の情報化投資について「厳しいながらも一応の底を脱し、回復基調」とみて攻勢をかける。

 日本最大のインテグレータであるNTTデータの浜口友一社長は「2004年は“得意技”を強化する」と意気込む。同社は、2003年9月に日本板硝子の情報システム子会社「日本板硝子ビジネスブレインズ」の経営権を取得。素材加工分野におけるシステム構築ノウハウの獲得を狙った。浜口社長は、「今後も、多様な業種からのITアウトソーシングを進める」とした。

 野村総合研究所(NRI)、TISも同様に“得意分野”づくりに力を注ぐ。NRIの藤沼彰久社長は2004年を、「これまで以上に選択と集中を推し進める。強みを持つ証券、流通分野に加えて、保険や製造、サービス分野での成長を遂げるための橋頭堡(きょうとうほ)を築く年」と位置づける。強みを持つ証券分野では、「The STAR」などのパッケージを切り口にして顧客との接点を増やす。

 TISはクレジットカード業など“得意分野”の強化と海外への開発委託で競争に打ち勝つことを狙う。得意分野を強化する背景について、船木隆夫社長は、「数年前のようにユーザー企業の情報化投資が改善するからといって、業界全体が成長することはもうないだろう。2004年は高品質で独自のサービス提供ができるかという視点から、ユーザーに選ばれるSIとそうでないSIの選別がさらに進む」とする。

 ソフト・ベンダーの日本オラクルとSAPジャパンは、中小企業向けビジネスに注力する姿勢をより鮮明にした。

 日本オラクルはデータベース、ERPパッケージ(統合業務パッケージ)の両面から中小企業向け市場を狙う。低価格ライセンス「Oracle Standard Edition One」と、ERPパッケージを短期間・低コストで導入するための新アプローチ「Oracle NeO」で、「高性能で低コストなシステムを提供していく」(日本オラクルの新宅正明社長)とした。

 SAPジャパンの藤井清孝社長は、「2004年は中小企業向け市場へ本格進攻する基礎固めの年」とコメント。具体的には、2003年に投入した中堅企業向けERPパッケージ「mySAP All-in-One」に続き、小規模企業向け「SAP Business One」を投入する計画だ。「SAP=高級パッケージというイメージを払拭する」(藤井社長)と鼻息は荒い。

 こうした中、世界最大のソフト会社であるマイクロソフトは、多くのユーザーから批判を受けたセキュリティ・パッチの改善を最重要項目に挙げる。「パッチを軽量化したり、適用時に再起動をしなくてすむようにしていく」(マイケル・ローディング社長)とした。

(松浦 龍夫)


「新サービスを創造する」   NTTデータ 浜口 友一 社長

 お客様の情報化投資に対する考え方は厳しくなってきているものの、全体的にはビジネスを強化するための情報化投資は、2004年も引き続き堅調に推移するとみる。ただし、個々の業界・企業の業績によって、投資に積極的なところと消極的なところがある。今後は情報化投資の成否が企業の業績にさらに大きな影響を与えるようになる。中長期的には、各企業がコスト削減から、新ビジネスの創造にITを活用しはじめるのではないか。
 NTTデータは2004年、「ITアウトソーシング」、ERPパッケージやSCM(サプライチェーン管理)などを使った「システム・インテグレーション事業」、ICタグを用いた物流や在庫の管理システム、トレーサビリティ・システムなど「社会インフラ系システムの構築」に注力する。
 ITアウトソーシングでは、2003年9月に日本板硝子の情報システム子会社の経営権を取得した。これは、素材加工分野のシステム構築ノウハウを得ることを狙ったものだ。ICタグは、2003年が様々な実証実験によるトライアルの年とすると、2004年は実用段階の年だとみている。これらの取り組みによって新商品・サービスを積極的に創造して、現在の延長ではない大きな成長に結び付けていきたい。

問1:無回答
問2:BPM(ビジネス・プロセス・モデリング)、ICタグ、データ分析
問3:新製品、サービス創出の年
問4:ITアウトソーシング、ICタグ
問5:中間期業績が当初計画をほぼ達成できた点については、それなりに評価しているが、まだ自己採点をする段階ではない

「様々なソリューションを提供していく」   野村総合研究所 藤沼 彰久 社長

 2004年の情報化投資は回復基調にあるが、先行きは不透明である。勝ち組企業は積極的に情報化投資を実施しており、二極分化はまだ続くだろう。情報サービス産業全体は1995年から2002年は年平均で約11%の伸びを示したが、2008年頃までは年平均5~6 %程度の成長になるとみる。
 2004年は、既存分野では2003年にリリースした次世代証券システム「The STAR」を核に、証券分野におけるソリューション・サービスの拡充を図る。流通分野では、中堅スーパーマーケット向けの「Mastretail」などのパッケージやASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)事業を核に顧客層の拡大を図る。テキスト・マイニング・ツールの「TrueTeller」やR&D支援システム「Webコンテンツプロテクター」などの新規分野にも力を入れていく。
 ミッション・クリティカルなクライアント・サーバー・システムやオープンソースを使ったシステム構築のノウハウも蓄積していく。当社にはこれらのシステムの構築に不可欠なミドルウエアが多数ある。ミドルウエア関連の事業も大きく伸ばしたい。

問1:5~6%増
問2:オープンソース、ICタグなど。「オープンソース・ソリューションセンター」を設立し、全社的にオープンソースの技術力を高めている
問3:保険や製造、サービス分野での成長を遂げるための橋頭堡を築く年
問4:証券や流通など既存分野の深耕と製造業やサービス業などの新分野の開拓
問5:70点(合格点は80点)。2003年3月期は前年同期比で減収減益となり、計画未達となったことは減点要因

「開発委託の20%を海外で」   TIS 船木 隆夫 社長

 2004年の情報化投資は、ユーザー企業の景況感が回復基調にあり、2003年よりは良くなるとみる。具体的な成長率としては、5 %前後の成長だろう。
 産業別で見ると、製造業の投資が活発になるだろう。日系企業の中国進出により、グローバルSCMやERPパッケージ案件の引き合いが活発だ。
 TISは2004年、中国を中心としたアジア戦略が離陸する年と考えている。2003年7月に上海現地法人を設立。オフショア開発基盤として、9月にベトナムのソフト会社と業務委託契約し、10月には中国のデジタルチャイナと日本GE、TISの3社で合弁会社を設立した。2005年度には、海外に500人体制の開発リソースを確保して、グループ全社の開発委託の20%を海外で生産する目標がある。2004年はこれらの施策が花開き始めると考えている。
 注力する事業としては金融、特にクレジットカード分野の基幹システムを考えている。カード業界はセキュリティの向上やマルチアプリケーション化などでシステムが複雑化しており、基幹システムを更新したいというニーズが高まっている。にリリースしたカード業界向けパッケージ「クレジットキューブ」でこのニーズに応える。

問1:5%増
問2:オープンソース、Javaなどのコンポーネント技術
問3:アジア戦略が離陸する年
問4:クレジットカード業界の基幹システム構築
問5:80点(合格点は80点)。全社的に取り組んできた生産性向上施策が奏効し、2003年3月期、2003年9月中間期とも増収増益を実現した。課題は当社独自のコア・ソリューションを確立すること。

「セキュリティが最重要課題」   マイクロソフト マイケル・ローディング 社長

 2004年の情報化投資は、前年比3%の成長とみている。クライアント・パソコンは横ばいだが、PCサーバーはUNIXサーバーやメインフレームからの移行が一段と進み、5 %の成長になるだろう。ソフトウエア市場は、4%の成長を見込んでいるが、ユーザー企業のコスト重視の傾向は変わらず、カスタム・ソフトウエアからパッケージ・ソフトウエアへの指向がますます進むとみる。
 当社は、まずWindows Server 2003の拡販を進めていく。Windows Server 2003は、企業の情報システムに高い信頼性と生産性をもたらすプラットフォームだ。Windows NT 4.0からのアップグレードに加え、コスト・メリットを享受できるUNIXやメインフレームからの移行を積極的に狙う。金融機関の基幹システムなど、ミッション・クリティカルな分野におけるWindowsの採用にも注力する。
 2004年も引き続きセキュリティの強化を続ける。セキュリティ・パッチ自体の改善に加えて、根本的なセキュリティ技術革新に向けた取り組みを継続する。具体的には、Windows XP SP2、Windows Server 2003 SP1で、ウイルスがコンピュータに侵入する前にブロックする「シールドテクノロジー」と呼ぶ新技術を提供する。

問1:ハード5%、ソフト4%、サービス2%、全体では3%増
問2:セキュリティ、XML Webサービス
問3:セキュリティやスパムといった社会的課題に対応した製品、技術の提供および施策の実施に積極的に取り組む年
問4:Windows Server 2003事業、情報家電への取り組み
問5:70点。ニーズの把握と迅速な問題解決を重視した営業体制やサポートへの評価が向上した

「回復から成長へ」   日本オラクル 新宅 正明 社長

 2004年の情報化投資は、横ばい、または微増であるとみている。とはいえ、投資の停滞感は薄れてきており、攻めの一手として情報化投資を増大していく企業は増えていくのではないか。
 2004年の1月末には、「Oracle 10g」を市場に投入する。この製品は、オラクルが得意とする大規模でミッション・クリティカルなコンピューティング環境を実現するものだ。中小企業向けには、低価格ライセンス「Oracle Standard Edition One」を展開し、データベースの普及に注力していく。アプリケーション事業においては、ERPパッケージであるOracle E-Business Suite(EBS)を短期間、低コストで導入するための新アプローチ「Oracle NeO」のような、テンプレートを駆使したビジネスを拡充していく。インターネットを使ったトレーニングを充実させ、オラクルマスターなどの技術者育成にも取り組んでいきたい。
 2003年は、OracleDirectの新設など営業支援体制の刷新、中国拠点の設置などグローバル展開、自社のビジネス・プロセスの効率向上など、1年でビジネス構造を転換し、これから成長する基盤を創りあげてきた。2004年はその基盤を生かし、新たな技術や製品、業界、事業にチャレンジし、回復から成長へ向けてまい進する。

問1:横ばい、または微増
問2:グリッド・コンピューティングやICタグなど
問3:新たな技術や製品、業界、事業にチャレンジする年
問4:Oracle 10gやOracle NeO
問5:無回答

「SAP=高級パッケージ」を払拭する   SAPジャパン 藤井 清孝 社長

 急激な円高の進展などにより景気の先行き不透明感は否定できず、企業の情報化投資の急激な回復は見込めないのではないか。とはいえ、日本企業が再生し国際競争力を強化していくためには、自社のコア・コンピタンスに特化する必要がある。2005年ごろには低迷期を脱するものと期待したい。
 2004年は、「中堅/中小企業向けの基幹業務ソフトウエア・パッケージ」の本格展開に注力する。「SAP=高級パッケージ」というイメージを持たれることが多いが、2003年の年初に中堅企業向けERPパッケージ「mySAPAll-in-One」を投入している。これはソフト、ハード、導入費用を合わせても1億円台だ。さらに2004年には、従業員が100人以下の中小企業向けに、一段と値ごろ感のある「SAP Business One」という製品を投入する。
 技術面では、人、情報、プロセスを統合するプラットフォーム「NetWeaver」を発展させていく。ユーザー企業はNetWeaverを利用することで、R/3以外のシステムが混在する環境でも、業務プロセスを横断するアプリケーションを開発することができるようになる。
 異なるシステムから生成されるデータを統合することも可能だ。今後SAPのすべての製品は、この「NetWeaver」を機軸にして展開していく。

問1:無回答
問2:人、情報、プロセスを統合するプラットフォーム「NetWeaver」
問3:中小企業向けの市場へ本格進攻していくための基礎固めの年
問4:「中堅/中小企業向けの基幹業務ソフトウエア・パッケージ」の本格展開
問5:60点。2003年は市場の動きが予想より遅かったため。