中堅自動車部品メーカーのミクニは2004年4月、基幹系システムで利用しているメインフレームを他社製オフコンにリプレースする。バッチ処理にかかる時間を大幅に短縮するとともに、運用コストの半減を狙う。既存のアプリケーション・ロジックはいっさい変更せずに、新ハードに移行する。

図●ミクニの新旧基幹系システムの主な違い
写真●NECのメインフレーム撤去前(左)と撤去後(右)のコンピュータ・ルーム

 ミクニは、小田原と盛岡にある二つの事業所に8年前に設置したNEC製メインフレーム「PX7500(OSはACOS-4)」で基幹系システムを運用している。現在進めている刷新プロジェクトでは、2拠点のホスト機をともに日本IBMのオフコン「eServer iSeries(同OS/400)」に替える。

 今回のプロジェクトではハードを刷新するだけで、既存システムのプログラムのロジックには原則として手を入れない。PX7500で動作するCOBOLプログラムをiSeries向けに変換して、そのまま利用する。営業所や工場など国内約20カ所、海外15カ所の生産/販売拠点にいる社員は、従来通りネットワーク経由で小田原または盛岡の基幹系システムにアクセスする。

 こうした方法を採用した理由を、神山(かみやま)秀一 執行役員管理本部情報システムセンター長は次のように説明する。「購買管理や生産管理といった基幹系システムの機能は20年間にわたり追加や修整をしているので完成度が高く、現状でも業務に支障はない。今回は処理性能の向上と運用コストを下げることが目的だったので、アプリケーションはそのまま利用することに決めた」。

 既存システムでは、バッチ処理に要する時間が大きな問題になっていた([拡大表示])。資材の発注計画を立案するために日次で実行するバッチ処理は、午前2時や3時にようやく終わる。毎週金曜日の深夜に始める1週間分のMRP(資材所要量計画)のバッチ処理も、完了するのは土曜日の明け方である。このため、情報システムセンターの社員は、当番制で夜勤や休日出勤することを余儀なくされていた。

 iSeriesを使った新システムでは、バッチ処理時間を従来の約20分の1に短縮できる。日次で実行する夜間バッチ処理は10分足らず、毎週金曜日の夜間バッチ処理は約15分で完了できる。

 新システムでは、ハードとソフトの保守費用を削減できる、ハードの設置スペースを縮小できるといった効果もある。こうしたコストを合計した基幹系システムの運用コストは「年間で従来の約2分の1に減る」と、神山執行役員は予想する。

最新ACOS-4機への入れ替えは断念

 ミクニのプロジェクトで最もユニークなのは、NEC製メインフレームをIBMのオフコンに替えた点だ。「iSeries以外の選択肢は、事実上なかった」と神山執行役員は打ち明ける。

 ミクニは2002年1月にプロジェクトを正式に発足させるまでの半年間、基幹系システムの処理性能の向上と運用コストの低減を両立する方針で、使用するハードを検討した。当初は、NEC製メインフレーム「i-PX7600」の最新機種に入れ替える案が有力だった。i-PX7600はPX7500と同じくACOS-4を搭載しており、「更新のリスクが最も小さい」(神山執行役員)と考えた。

 ところが、i-PX7600に替えるという方針は断念せざるを得なかった。ミクニがNECに問い合わせたところ、「ハードウエアを入れ替えても処理速度は1.4倍しか向上しない」という回答が返ってきたからだ。神山執行役員はこのときに、「8年前の機種と最新機種の性能がそれほど変わらない事実を知り、基幹系に国産ハードを使い続けることに危機感を持った」。この一件で、ミクニは外資系ベンダーのハードを採用することを決めた。

 そうなると主な選択肢は、(1)メインフレームに既存資産を移行、(2)UNIXなどのオープン系ハードに既存資産を移行、(3)オープン系ハードでアプリケーションをERPパッケージで再構築する、となる。(2)や(3)では、オープン系にすることで追加の開発が発生する、分散型のシステムにすると「遠くの拠点で障害が発生したときに現地に出向いて復旧する手間がかかる」(神山執行役員)といった問題があった。

 特に(3)では、プロジェクトの期間やコストがネックになった。ミクニの既存システムの機能をERPパッケージで過不足なく実現するとなると、大幅なカスタマイズが必要になる。プロジェクトはそのぶん長引くことが予想できた。コストも「既存のCOBOLプログラムを流用する方法に比べて、3倍になる試算だった」(神山執行役員)。

 一方(1)では、運用コストが問題になった。結局、ミクニは(1)のパターンで、メインフレームではなくオフコンを選ぶことに決定。性能と運用コストを考えて、iSeriesを選択した。

コンピュータ・ルームが“空っぽ”に

 ミクニはプロジェクトを開始した2002年1月から8月まで、小田原事業所内に設置した基幹系システムで動くプログラムのうち、iSeriesで利用するために変換が必要なものを洗い出した。既存のCOBOLプログラムは合計4000本。これらについて「過去1年以内に使用したかどうか」を調べ、変換対象のプログラムを3000本に絞り込んだ。

 この3000本のCOBOLプログラムを2002年10月までに、専用のツールを使ってiSeries向けに自動的に変換。2003年5月までかけてiSeries上で実行して、従来のプログラムの実行結果と違いがないかを検証した。プログラムの変換後にデータを移行した。一連の作業は中堅システム・インテグレータの日本ビジネスコンピューターと共同で進めた。

 2003年6月には、小田原事業所内のPX7500とプリンタや磁気テープ装置などの周辺機器を撤去した。その結果、コンピュータ・ルームは“空っぽ”の状態になった。実際には、ハードの設置に必要なスペースが2平方メートルと、従来の約30分の1になった(写真[拡大表示])。続けて2004年4月まで、盛岡事業所にある基幹系システムのハード入れ替え作業を進める。

(栗原 雅)