政府主導による「“日の丸” ICタグ構想」というべきプロジェクトが始動した。経済産業省は来年4月、ICタグの低価格化と機器の互換性確保を狙った研究を本格化する。総務省は9月から医薬品や福祉分野など新たなアプリケーションの研究や950MHz帯を利用するICタグの技術検証に着手した。

表●経済産業省と総務省が進めるICタグ普及への取り組み
 経産省は来年4月をメドに、「響ひびきプロジェクト」と呼ぶICタグ推進プロジェクトを発足させる([拡大表示])。国産ICタグ関連ベンダー約70社と、アパレルや出版といったICタグ導入に積極的な国内のユーザー企業約30社の参加を見込む。

 響プロジェクトの狙いは二つある。第1に、ICタグの低価格化を図ること。ICタグの価格は現在、1個当たり100円前後。響プロジェクトでは「2年後に1個5円にする」(経産省の新原浩朗(にいはらひろあき)商務情報政策局 情報経済課課長)ことを目標に、ICタグの生産技術を研究する。例えば、印刷技術を応用してICチップにアンテナを取り付けたり、既存のロボットを改良するなどして、一度に大量のICタグを生産できるかどうかを検証していく。

 第2の狙いは、950MHz帯で通信可能なICタグとリーダー/ライターの標準化を推進すること。950MHz帯は携帯電話やMCA(マルチチャネル・アクセス)無線がほぼ占有している。だが、KDDIが今年3月にPDC方式のサービスを停止したことで、周波数の一部に空きができた。総務省は、この周波数帯をICタグ専用に割り当てることを検討している。

 こうした経緯から、950MHz帯で通信するICタグやリーダー/ライターを生産する国内ベンダーは、今のところない。響プロジェクトでは、海外で実績があるICタグ関連ベンダーの意見を参考にして独自の生産技術を確立する。それを950MHz帯の標準的な生産技術として、国内企業に公開していく。

 一方、総務省は9月18日、通信業者や電機メーカー計74社と情報通信技術委員会(TTC)、通信総合研究所(CRL)などで構成するユビキタスネットワーキングフォーラムの下部組織として、「電子タグ高度利活用部会」を発足させた。経産省と同様に950MHz帯で通信するICタグの技術検証をするほか、物流以外の分野でのICタグの利用可能性を探る。

 950MHz帯に関しては、利用する周波数が近い携帯電話やMCA無線との干渉による影響の大きさや、干渉を最小限に食い止めるための方法を調べる。干渉が発生するとICタグの読み取り距離が短くなったり、最悪の場合読み取り不能になる。CRL企画戦略担当の渡辺克也主管は、「部会で干渉に関するデータを取って、結果を公開する。そうすることでユーザー企業が実証実験する際に同じ苦労をしなくてすむ」と説明する。2004年度に、950MHz帯でのICタグの利用を制度化する際の基礎データとしても活用する。

 新分野でのICタグの利用検証は、(1)医薬品の誤用を防ぐ、(2)高齢者・障害者を誘導する、(3)洗濯機が衣服のICタグを読み取って素材に合わせた洗濯方法を選択する、といった用途を想定している。「物流の効率化といった用途だけでは市場が頭打ちになる。市場の拡大につながる新分野がないかを探って、先鞭をつける」(渡辺主管)ことを目指す。

(栗原 雅、松浦 龍夫)