昨年4月のシステム障害から1年半。みずほ銀行が進めてきたシステム統合の詳細が、本誌の取材で明らかになった。現在2系統あるシステムは、来年12月までにすべて一本化する。投資額は1000億円超。システム統合をやり抜くことで、過去のトラブルと決別、システム関連の自信を取り戻す。

 「現在は経営トップ以下、グループ全員がシステム統合の大変さを骨身に染みて感じている。作業は慎重かつ確実に進めている」。みずほ銀行の持ち株会社であるみずほフィナンシャルグループの川端雅一経営企画部部長は、みずほ銀行や持ち株会社がシステム統合に取り組む姿勢をこう説明する。

 みずほ銀行は着々とシステム統合に伴う開発を進めてきた。オンライン取引や口座振替にかかわる大規模障害はあったものの、昨年4月のみずほ銀行の発足と同時に、国際系や証券系といった一部のシステムは統合を終了。すでにインターネット・バンキングをはじめとする周辺システムの一本化も終わらせている。

 みずほフィナンシャルグループの遠藤正彦IT・システム企画部部長は、「現時点で、システム統合全体のうち、だいたい四分の三が完了している」と説明する。統合がまだすんでいないのは、勘定系システムと情報系システム、EB(エレクトロニック・バンキング)を担う対外系システムの三つである。

 四分の三が終了したのであれば、完了も近いように思えるが、実態は異なる。残り四分の一だけで開発費は1000億円を超え、開発工数は数万人月規模に及ぶ。

 なかでも開発規模が大きいのは勘定系の一本化である。現在はリレー・コンピュータで旧第一勧業銀行と旧富士銀行の勘定系を接続、2系統の勘定系を並行稼働させているが、これを旧第一勧銀のシステムに片寄せしなければならない。同時に、旧富士銀の口座データ3100万件を、旧第一勧銀の元帳に移し替える作業も必要だ。

勘定系は8回に分け移行

図1●みずほ銀行のシステム統合スケジュール

 勘定系の統合がすべて完了するのは来年12月(図1[拡大表示])。もともとは今年4月に完了する予定だったから、完全統合は当初の計画から1年8カ月遅れることになる。「ここまで来たら必要以上に急いでも仕方ない。作業は慎重に慎重を重ねて進めている」(川端部長)。

 勘定系の開発作業は主に三つ。一つは追いつき開発だ。最終的に残す旧第一勧銀のシステムに、破棄する旧富士銀の勘定系が備える機能を追加する。もう一つは情報系と勘定系の接続。情報系は旧富士銀のシステムを使うので、旧富士銀の情報系と旧第一勧銀の勘定系をつなぐ部分の開発が新たに必要となる。そして三つ目が、移行アプリケーションの開発だ。口座データのデータ項目を変換するアプリケーションがこれに当たる。

 勘定系の一本化は、来年7月に着手する。旧富士銀の店舗を対象に、営業店システムやATM(現金自動預け払い機)のソフトウエアを更新するとともに、旧富士銀から旧第一勧銀の勘定系につなぎ替える。同時に、対象店舗の口座データを旧富士銀の元帳から旧第一勧銀へ移す。

図2●みずほ銀行の主要システム構成 左は今年8月現在、右は来年12月の統合完了後

 移行は、合計8回に分けて徐々に進める「店群移行方式」を採用する。「来年7~8月の2カ月は、テストの意味合いを含めて都心の数店舗で移行を行う(遠藤部長)。ここで特に問題がなければ、来年9月から12月までの4カ月間で合計6回の移行を実施。1回で30~60店舗をさばく。作業は店舗の休業日である土曜日と日曜日に実施する。来年12月下旬には、みずほ銀行のすべての店舗が旧第一勧銀の勘定系につながり、勘定系の一本化が完了する(図2[拡大表示])。

 勘定系と同じく、情報系も来年6月までにシステム開発を完了させる。ただ情報系は旧富士銀のシステムを残すので、勘定系とは反対に旧第一勧銀の店舗で一本化に伴う修整が必要になる。旧第一勧銀の店舗では、営業店システムでソフトウエアの更新を行い、旧富士銀の情報系が使えるようにする。このほか、対外系も情報系と同じく、旧富士銀のシステムを残す。

コストとリスクの間で悩む

 一本化に伴う開発作業は、現時点ですでに実装工程が完了。テスト段階に入っている。「作業は順調」(遠藤部長)だが、当初の予定通り片寄せによる一本化を実施すると決めるまでは苦労した。川端部長は「一本化の実現に当たっては、相当迷いに迷った」と打ち明ける。

 みずほ銀行が一本化のスケジュールを最終的に機関決定したのは今年6月のこと。先行して昨年7月から、「そもそも一本化すべきかどうかについて、コストやリスクなどさまざまな観点で議論を重ねてきた」(遠藤部長)。

 悩む理由は、一本化にメリットとリスクの二つの側面があるということに尽きる。一本化すれば、「システムの維持コストを削減できる。店舗の本格的な統合も可能になる」(川端部長)。一方で正常に動いているシステムに手を入れるリスクが発生する。「システム担当者からすれば、気の抜けない作業」(遠藤部長)。トラブルが起これば、顧客に迷惑をかける。

 いくらリスクがあっても、かならず一本化しなければならないのなら、迷うことはない。やっかいなのは、一本化しなくても顧客サービスの点で致命的な問題があるわけではないことだ。みずほ銀行は昨年4月以降、システムが2系統でも顧客サービスは統一できるように、手直しを進めてきた。

 「すでに取り扱い商品は旧2行の区別なく統一している」(遠藤部長)。今年3月には約7000台のATMすべてで、旧2行の通帳が使えるようになっている。昨年4月のみずほ発足直後は、「旧富士銀の通帳は旧第一勧銀の一部のATMで使えない」といったことがあったが、こうした不便はもうない。

 議論を繰り返した結果、最終的には「リスクを恐れていては、いつまでたっても強固な経営インフラを築けない」(川端部長)と判断。昨年10月の時点で、一本化の実行を決断した。

 遠藤部長も、「一本化の延期は、ただ単に問題の先送りだ」と言い切る。「次回のシステム刷新まで2系統を動かし続けたとしても、いつかは結局一本化しなければならない」(同)。一本化に挑むのは、昨年4月のシステム・トラブル以来、すっかり落ち込んだシステム開発に対する自信を、システム部門が取り戻すためでもある。

四つの対策で障害再発を防ぐ

図3●一本化の完遂に向けてみずほグループが実施している具体的な取り組み

 統合を成功させるため、みずほはグループを挙げて、トラブル防止の手を打っている(図3[拡大表示])。体制面では、みずほ銀行内に工藤正頭取をトップとするシステム統合統括会議を発足。工藤頭取自らが進捗を定期的に確認する。

 テストの終了など開発工程の節目ごとに、持ち株会社の経営会議でも進捗を直接確認する。みずほフィナンシャルグループの前田晃伸社長が、次の工程に進むべきかどうかの最終的な判断を下す。「以前は経営層が『システムは大事』と言ってはいたものの、どうしても概念的なものだった。今は現場の視点で経営層が工程をチェックしている」(川端部長)という。

 開発組織とは独立した「システムリスク管理室」をみずほ銀行の中に設立したり、開発スケジュールに1カ月の余裕を盛り込むなどの対策も講じた。「昨年は『切り替え日ありき』で失敗した。同じことを繰り返さないために、焦らず着実に進める」(川端部長)。

 苦労してシステムを完成させても、ユーザーが使えなければ意味がない。操作ミスも命取りになる。そこで、旧第一勧銀と旧富士銀の近隣店舗を「ペア店」と位置付け、「旧第一勧銀の店舗が旧富士銀の事務研修の習熟度に責任を持つ体制を組んだ」(遠藤部長)という。

(大和田 尚孝)