Java開発者の間で急速に普及しているオープンソースのソフト開発環境「Eclipse」。日本IBMや富士通をはじめ、このEclipseを自社製品で利用可能にするソフト開発ツール・ベンダーが相次いでいる。各社は、開発ツールを統合する“プラットフォーム”の役割をEclipseが果たすことに期待をかける。

 「Java開発者と話すと、必ずと言っていいほど『Eclipse(エクリプス)を使っている』と返ってくる」。日本IBMの米持(よねもち)幸寿ソフトウェア事業部主任ITスペシャリストは、Eclipseが普及するペースの速さに驚く。富士通の作田真樹ミドルウェアプラットフォーム事業部JAVA開発部長は、「Eclipseは間違いなくソフト開発環境の世界標準になる」と断言する。

日本IBMと富士通が“基盤”に採用

図●ソフト開発プラットフォーム「Eclipse」を採用した開発ツールの画面例
日本IBMの「WebSphere Studio Application Developer」の最新版V5.1の画面。さまざまなツールを組み込んで、一つの画面から利用できる
表●日本の主要な開発ツール・ベンダーにおけるEclipse採用の動き
 Eclipseは、プログラミングやデバッグをはじめとするソフトウエアの開発作業を効率化するIDE(統合開発環境)の一つである([拡大表示])。同時に、ソフト開発に必要なさまざまな機能を組み合わせて使うための“共通プラットフォーム”としての役割を果たす。ここに目を付けた開発ツール・ベンダーが、Eclipseを共通プラットフォームとして採用した製品、あるいはEclipseから利用できる製品を今年に入って相次ぎ投入している([拡大表示])。

 Eclipseを共通プラットフォームとして全面的に採用したのは日本IBMと富士通。すでに製品を2001年11月から投入している日本IBMに続き、富士通は今年3月にEclipseを採用したソフト開発ツールの出荷を始めた。一方、Eclipseから利用できる製品としては、UML(統合モデリング言語)を使ってシステムの分析/設計を行うモデリング・ツールやテスト・ツールがある。ボーランドと日本IBM(旧日本ラショナルソフトウェア)は8月中に、Eclipseから利用できるUMLツールやテスト・ツールを出荷(一部出荷済み)。キャニオンブルーも9月以降にEclipseから使えるUMLツールを出荷する予定だ。

機能をプラグインとして追加できる

 Eclipseはもともと、米IBMが1999年から進めていた「次世代開発ツール向けプラットフォーム」に関する研究開発の成果を、2001年11月にオープンソース化したものだ。

 Eclipseが日本で急速に普及している理由は大きく三つある。まず、IDEとして優れていること。プログラム・コードを記述しているときに、次に入力すべきコードの候補を自動的に表示する機能を持つエディタやコードの段階的なデバッグを支援するデバッガをはじめ、ソフト開発に必要な機能をひと通り備える。加えて、「開発者にとって、かゆいところに手が届く使い勝手のよさを感じる」(富士通の稲葉博之ミドルウェアプラットフォーム事業部JAVA開発部プロジェクト課長)。

 この機能を持つIDEをオープンソースなので無償で入手できる。これがEclipseが普及している理由の二つ目である。第3の理由は、開発を支援するソフトを自由に抜き差しして使えることだ。Eclipseを開発ツールの共通プラットフォームとして利用できるのは、この仕組みによる。

 Eclipseに組み込んで使えるソフトのことをプラグインと呼ぶ。サードパーティが開発したUMLツールやテスト・ツールなどをプラグインの形で実現してEclipseに組み込むと、開発者はそれらをEclipseの一機能としてIDEの画面から直接利用できる。Eclipseのプラグインは現在、350種類近く存在する。C++やCOBOLといったプログラミング言語のプラグインを使えば、Java以外の開発も可能だ。

ツール・ベンダーにとって“福音”

 Eclipseの登場により、開発者と同じくらい恩恵を受けているのは、開発ツール・ベンダーである。Eclipseを開発ツールの共通基盤として採用した日本IBMや富士通は、両社の長年の課題だったソフト開発ツールの“共通化”をようやく果たすことができた。

 日本IBMは、Eclipseを使うことでそれまで「VisualAge」と「WebSphere Studio」に分かれていた開発ツール群の一体化を図った。「“開発ツールのOS”にあたるプラットフォームを、当社自身も開発者も欲しがっていた」(日本IBMの米持氏)。現在はEclipseを使ったソフト基盤「WebSphere Studio Workbench」に対して、独自に開発したプラグインを組み込む形でWebSphere Studioシリーズを実現している。Javaツールのほかに、COBOLやPL/Iなどによる開発をプラグインで可能にした製品も用意している。

 「これまで数多くのソフト開発ツールを出してきた」(作田部長)富士通は、Javaツール「Interstage Apworks」の5.1版(今年3月に出荷)でEclipseを採用。その結果、同社の開発ツールはマイクロソフトのソフト実行環境である .NETなど向けのCOBOLツール「NetCOBOL」とInterstage Apworksの2系統に集約された。

 作田部長は、Eclipseを採用するまでの経緯を以下のように説明する。「開発ツールを作るのには数十億円近い費用が必要。だが開発ツール単体のビジネス規模は小さいうえ、同じような機能を持つツールが乱立すると開発者の作業効率を下げてしまう。当社は、なんとか開発ツールの共通プラットフォームができないものかと何年も議論していた。Eclipseはその標準になる可能性が極めて高いと判断した」。Eclipseを採用した結果、「顧客からは『使いやすくなった』と言われるなど反応は上々」(稲葉課長)。

 一方、Eclipseから利用できるUMLツールやテスト・ツールを出荷するベンダーは、製品の利用者層の拡大につながると期待を寄せる。8月中にUMLツール「Together Edition for Eclipse」を出荷するボーランドの藤井等マーケティング部部長は、「Javaでプログラミングする際もUMLによるモデリングは役立つ。例えば、プログラム全体の構造を見やすくする手段として、UMLを活用できる。EclipseからUMLツールを利用しやすくすることで、ユーザー層拡大につながるのではないか」との見方を披露する。

(田中 淳)