オブジェクト指向開発のメリットを得るには、「組織のあり方」を規定する必要がある。イーシー・ワンと豆蔵が組織の枠組みやメンバーの役割などを定義した新しい開発方法論を提供する。方法論を導入したユーザー企業は、組織として“成熟”することで、再利用性や拡張性などのメリットを享受できるようになる。

 ソフトウエアの再利用が容易になり(再利用性)、かつ拡張しやすくなる(拡張性)。オブジェクト指向技術を採用すれば、すぐにこの二つのメリットが得られると考える企業は多い。

 「それは大きな誤解だ」。Java開発で定評のあるイーシー・ワンの佐藤 純一コンピテンシー・マネージメント部長と、オブジェクト指向に特化しているITベンダー、豆蔵の萩本順三取締役は異口同音に語る。「再利用性や拡張性といったメリットを獲得するには、まず開発組織の体制を整え、時間と労力をかけて開発メンバーや組織の『成熟度』を高める必要がある」。

 両社はこの問題意識のもと、オブジェクト指向で実現したコンポーネント(ソフト部品)を軸とするシステム開発の方法論を、秋から年末にかけて相次ぎユーザー企業に提供する。

開発組織のあり方について言及

 イーシー・ワンの方法論「cStyle」と、豆蔵の方法論「ビジネス・ドリブン・アーキテクチャ(BDA)」は、どちらも個々のプロジェクトの進め方だけでなく、システム開発に携わる「組織のあり方」を定義している点が特徴だ。

 コンポーネントの再利用性を高めるには、開発プロジェクトの進め方を決めるだけは不十分である。個々のプロジェクトから再利用できそうなコンポーネントを抽出する、共通化したコンポーネントの質を高めて、将来のプロジェクトに適用しやすくする、といった「プロジェクト外」の活動が大切になる。2社の方法論は、このことを視野に入れて「実施するべき活動内容」を定義。さらに、その活動を担うメンバーの役割やスキルを規定する。ともにCMMI(能力成熟度モデル統合)を参考にしている。

図1●イーシー・ワンによるシステム開発組織に関する方法論「cStyle」の要旨

 イーシー・ワンのcStyleを例に取ると、(1)開発プロジェクトを進める上での手順や手段である「プロセス群」、(2)携わるメンバーの仕事内容である「ロール(役割)」の二つによって、あるべき開発組織の姿を説明している(図1[拡大表示])。

 (1)では例えば、特定のプロジェクトで抽出したコンポーネントを改良すること、第三者の視点から個々のプロジェクトを監査すること、といった活動を定義している。(2)としては、個々のプロジェクトを見て共通化できるコンポーネントを抽出したり、それに改良を加えて他のプロジェクトに適用する作業を支援する「コンポーネント・エキスパート」などがある。

 豆蔵のBDAも、cStyleに近い内容を規定している。大枠となる考え方、利用する開発手法や開発プロセス、メンバーの役割と、その役割に必要なスキル表、そして組織の能力を測るための「コンポーネント開発成熟度モデル」などの内容で構成する。

 両社がいま組織に焦点を当てた方法論を提供するのは、「Javaや .NETが牽引してオブジェクト指向開発はより広く普及するはず。なのに、いまだに誤解が多すぎる」という強い危機感を抱いているからだ。豆蔵の萩本取締役は「ユーザー企業はオブジェクト指向に対して過剰な期待を抱いている。今からその誤解を是正しないと、『オブジェクト指向は使えない』という評価につながりかねない。そうなるとユーザー企業にとっても不幸なことだし、日本と海外のソフト開発力の差がより開いてしまう」と話す。

cStyleは活動を詳細に定義

 イーシー・ワンが提供するcStyleの特徴は、活動(プロセス)や役割を細かく定義していることだ。プロセスの数は合計30ある。それぞれ「プロセス定義書」という書類に、そのプロセスで実施するべき作業内容や手順、作成する成果物などの詳細を記している。

 また、会議の種類や目的、決めるべき内容、参加者といった点まで子細に定義する。「これらを着実に実行することで、コンポーネントを再利用・拡張しながら効率よく開発する組織を実現できる」(佐藤部長)。cStyleにはこれまでイーシー・ワンが培ってきたノウハウに加えて、コンポーネント・ベース開発で有名なサントリーのノウハウも盛り込んだという。

 cStyleはイーシー・ワンのフレームワーク製品「cFramework」や、同社のコンサルティング・サービスとセットで提供する。料金は未定だが、cStyle込みで数千万円レベルになる見込み。

BDAは入門書としての側面が強い

図2●豆蔵がシステム開発組織に関する方法論「ビジネス・ドリブン・アーキテクチャ」で定義している、「コンポーネント開発成熟度モデル」

 豆蔵が提供するBDAは、cStyleと比べると「入門者向け」の色彩が強い。豆蔵の羽生田(はにゅうだ)栄一取締役会長は、BDAを「コンポーネント開発を成功させるために必要な技術や考え方を整理したもの」と説明する。「近いうちに、だれもが気軽に手に取れる入門書として出版し、オープンにしていきたい」(同)。豆蔵は、BDAを使って企業にコンサルティング・サービスを提供する。開発能力が高まった企業に対しては、豆蔵が従来から持っている、より高度な方法論の「豆蔵プロセス」を適用する。

 BDAの大きな特徴の一つが、コンポーネント開発成熟度モデルだ(図2[拡大表示])。開発組織の能力を、5段階のレベルに分けて評価。レベルを上げるために実施すべきことを記述した。レベル4や5に到達した段階で初めて、拡張性や再利用性が確保できるとしている。

 この成熟度モデルは、自社の開発能力を測る単なるモノサシではない。萩本取締役は「オブジェクト指向開発のメリットを享受しながら、無理なくレベルアップするためのガイドライン」と説明する。レベル4やレベル5まで到達しなくても、「ソフトの構造が見えやすくなる、保守性が向上する、などオブジェクト指向を採用したことによるメリットは十分に得られる」(同)。

(高下 義弘)