電子政府構築計画が具体化

ITガバナンスの欠如で実現に疑問の声も

日経コンピュータ 2003年7月14日号,16ページより

電子政府の構築計画が固まった。2005年度までに各省庁の業務アプリケーションを共通化し、重複投資をなくす。複数省庁にまたがる手続きの窓口をポータル・サイトに一本化する。ただし、各省庁の担当者の責任が今のところ明確になっておらず、きちんと実行できるのか危ぶむ声は大きい。

 政府のIT戦略本部(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)は、電子政府構築計画の最終案を6月25日に公表した。7月7日まで一般から意見(パブリック・コメント)を募集し、修整した計画を7月中に確定する。

 最終案の特徴は、これまでIT化を進めるための予算を“大盤振る舞い”していたのが一転し、業務プロセスの見直しや情報システム投資の効率化といった目標を掲げたこと。さらに2005年度までの行動計画を明示した。IT政策への意見を頻繁に寄せる経団連(日本経済団体連合会)の原一郎産業本部情報グループ長は、「業務改革まで盛り込んだ点は評価できる。ただ、本当に実行できるのか気にかかる」と述べる。

一つのシステムを複数省庁が共有

図1●電子政府構築計画の主なスケジュール

 電子政府構築計画の主な狙いは二つある。類似の情報システムを各省庁が個別に作る重複投資の回避と、申請者の利便性向上のために政府のポータル・サイトから行政サービスをワンストップで利用できるにすることだ。

 各省庁で共通化できる情報システムについては、担当省庁を決め、余分な決裁過程を省くなど業務を見直したうえでシステムを開発する(図1[拡大表示])。例えば人事院が、人事・給与の共通システムを開発し、それを各省庁が導入する。同様に、物品調達・管理や旅費精算の業務についても各省庁共通のシステムを開発する。ただし、この担当省庁はまだ決まっていない。

 このほか、統計や基準認証(規格審査など)といった業務向けのシステムについても共通化を図る。まず今年8月までに省庁の各部署の業務で、どのような情報システムを利用しているかを調査し、一覧表にする。その結果から複数の省庁で共通化できるシステムを抜き出す。来年1月には共通システムを開発する省庁を確定、最適な業務プロセスを決めシステムを2005年度までに開発・導入する。これらのプロジェクトの技術面を支援するCIO(最高情報責任者)補佐官を、省庁がそれぞれ今年12月までに置く。

 一方、行政サービスのワンストップ化については、複数省庁にまたがる手続きの窓口を一本化する。来年3月末までに窓口になる省庁を決定し、その省庁が受け付けたデータを関連省庁に渡すようにする。申請者は1回の届け出だけですむようになる。

組織体制を整備

図2●電子政府構築計画のプロジェクト推進体制

 IT化を進めるための組織体制も整えた。IT戦略本部の下には、電子政府構築計画に携わる主要な組織が三つある(図2[拡大表示])。全体の計画と各省庁間の調整を担当する内閣官房IT担当室と、実行組織として各省と直接交渉にあたる総務省行政管理局。それに、各省庁のCIOで構成するCIO連絡会議(各府省情報化統括責任者連絡会議)だ。これらが連携して電子政府構築計画を進めていく。

 IT戦略本部の副本部長を務める細田博之 情報通信技術(IT)担当大臣は「全省庁を統括して情報システムの最適化を進める役割はIT戦略本部が担う。CIO連絡会議の設置など組織面の強化は手を打った。各省のCIOに命令し行政改革を進める」と意気込む。

 内閣官房IT担当室の志摩俊臣グループリーダーは「CIO連絡会議に出席する各省庁の代表が電子政府構築計画を了承することになる。もし各省庁のプロジェクトに遅れが出れば、IT戦略本部でなぜ遅れたのか追及される」と説明する。

 さらにIT戦略本部は、電子政府構築などの進ちょく状況を評価する機関を設置する計画だ。評価機関がシステムを事後評価することで、各省庁が実行すると決めた計画を確実に遂行させることを狙う。

プロジェクト推進体制に懸念も

 ただし計画が順調に進むのか、疑問を呈する声がある。大きな問題として指摘されるのは、省庁のプロジェクト担当者の責任が明確にならない可能性があることだ。たとえ計画を立てても、担当者が異動して責任の所在があやふやになると懸念する声は、今回の計画策定にかかわった官僚の中からも出ている。省庁のシステム共通化の足並みが揃わない、IT化はしたものの利用されないといったときに、適任者が責任をもって対処・調整できる組織になっているかどうかを不安視する。

 すでに、共通システムの構築で難航しているところもある。例えば「財務省は職員の保険業務などを処理する共済システムの開発担当になっている。だが、財務省の担当部署は消極的だ。押し付け合いで担当部署がなかなか決まっていないプロジェクトは少なくない」と複数の政府関係者は指摘する。

 電子政府構築の中核となる担当省庁の連携作業がうまくいくかどうかもわからない。総務省行政管理局では、電子政府構築計画の各省庁の進ちょく状況や、共通システムを利用する予定かどうかなどを吟味した資料を作成し、財務省に予算折衝で利用してもらおうと考えている。計画の遂行を監視すると同時に、予算を絡めて電子政府構築計画を最適化しながら推進したいからだ。

 しかし、財務省は「資料の中身を見ないことにはなんとも言えない。真に効率化を実現できる資料であれば利用したい」(財務省主計局の矢野康治主計企画官)と述べるにとどまり、総務省と役割分担しながら連携するという構図はまだ描けていない。現行の政府の枠組みだけではITガバナンス(統治)が適切に働かない可能性は高い。

 電子政府構築計画では前述のように評価機関を設けることを決めている。しかしまだ具体化はしていない。全省庁を見わたせて事後評価できる人材をどのように集めるのか未定だ。経団連の原グループ長は、「実際に業務改革まで踏み込めているのかを事後評価するのは非常に重要だ。政府が内輪で評価して、『やりました、確認しました』にならないようにしてほしい」と評価機関の中身に注目する。

(鈴木 淳史)

本記事は日経コンピュータ2003年7月14日号に掲載したものです。
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