6月11~13日にかけて、米国と英国の有力なユーザー企業とベンダーが米シカゴに集結。ICタグの実験例を披露したのに加え、導入効果や課題、実用化のメドについて議論した。年内にICタグの大量導入を予定するユーザー企業も多く、米英ではICタグの普及が秒読み段階に入った。

写真1●RFID Journal Live!の会場風景
写真2●英ウールワースのジェフ・オニール、戦略プロジェクトディレクタ(右)と、同社の技術パートナである米サヴィ・テクノロジーズのディレクタ、マーク・ネルソン氏
写真3●米アクセンチュアのチーフ・サイエンティスト、グローバー・ファーガソン氏
 「当社は確かに5億個のICタグを注文した。半導体の世界ではかなり大きなボリュームかもしれないが、年間110億個の商品を市場に投入している当社にとっては、すぐにでも使う数だ」。米ジレットでグローバル・バリューチェーン担当副社長を務めるディック・カントウェル氏は、米シカゴで開催された「RFID Journal Live!(写真1)」にビデオレターを送り、ICタグに関連する取り組みを説明した。

 ICタグは、ごま粒大のICチップとアンテナからなる超小型装置。ICチップに固有のIDなどを格納して、商品一つひとつに取り付けることができる。RFID Journal Live!は、このICタグに関する米国の専門誌が主催するイベントである。米国や英国のユーザー企業とベンダー、政府の関係者などがパイロット・プロジェクトの結果や実験例、今後の展望などを議論した。

 特にユーザー企業からは、そうそうたる顔ぶれがそろった。米日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P& G)でSCM(サプライチェーン管理)改革を指揮するラリー・ケラム氏、日用品と食品大手の米ユニリーバで次世代SCMプロジェクトを統括するサイモン・エリス氏、英衣料品大手マークス・アンド・スペンサーで物流管理を担当するキース・マホニー氏、英総合小売業大手ウールワースでICタグの導入を牽引するジェフ・オニール氏などが演壇に立った。300人を超える聴講者は講演の合間のわずかな時間も惜しんで、ICタグの最新動向について情報を交換した(写真1)。

ウォルマートのプロジェクトは準備中

 ジレットのカントウェル副社長によれば、同社は5億個のICタグのほとんどを年内に実施するパイロット・プロジェクトで使う。このプロジェクトで、商品にICタグを取り付ける方法を最終確認したり、小売業者と協力してICタグを取り付けた商品の動きを正確に追跡するための方法を検証する。その結果を踏まえて早期実用化を目指す。

 ジレットは現在、世界3カ国でパイロット・プロジェクトを進めている。米ウォルマート・ストアーズとの共同プロジェクトは準備段階である。ジレットの倉庫からウォルマートの物流センターまでの商品の動きを追跡するアプリケーションを開発すると同時に、ICタグの有無を感知できるようにリーダーを搭載した商品棚の導入を進めている。このほか、盗難防止の仕組みを導入する。商品棚から一度に大量の商品を取り出した顧客の写真を撮影し、店員が監視できるようにする。

 ジレットは同様の仕組みを英小売りのテスコとのプロジェクト(6月2日号14~15ページに関連記事)でも実現し、すでに検証結果が出ている。カントウェル副社長は、「ICタグによって万引きを防げることが分かった。商品棚の品切れがリアルタイムで把握できるので、倉庫からの補充も迅速にできている」と語る。品切れを減らす目的で独小売りのメトロと進めているプロジェクトは「今まさに検証を急いでいるところ」(カントウェル副社長)である。

P&Gは小売店の品切れ一掃を図る

 P&GもSCM改革の一環で、ICタグの大量導入をもくろんでいる1社だ。最大の狙いは、小売店における品切れの一掃である。

 P&Gといえば、取引先の小売業者と商品販売情報を共有して需要予測や生産/物流計画を立案する「CPFR」をいち早く導入した企業として知られている。だが、その同社でも「需要予測の精度がまだ不十分なために、完成品と仕掛品の在庫を大量に抱えてしまっている」(ケラム氏)という。大型の販売店におけるP&G商品の品切れ率も高い。売れ筋上位2000品目の品切れ率は、平日の4日間の営業終了時に12 %程度、買い物客が集中する週末の3日間は最大で17%に達する。

 P&Gは現在、ICチップのデータを読み書きする装置であるリーダー/ライターの読み取り距離や角度などに関する、技術的な検証作業を進めている。こうした技術面での検証を年内に終え、順次パイロット・プロジェクトを立ち上げる計画だ。

 まず、商品の箱を積む「パレット」にICタグを取り付けて、P&Gの工場から小売業者への物流や、小売業者の倉庫から店舗への商品運搬の効率化を図る。さらに2010年までに、ICタグを商品一つひとつに取り付けて、需要をより正確に把握できるようにする。

ウールワースは年内に10万個利用

 1999年からパイロット・プロジェクトを実施してきたウールワースは、今年中をメドにICタグを使った物流管理アプリケーションを本格的に立ち上げる。物流センターから店舗へ商品を運ぶときに使うカゴ「ケージ」9万個と、ケージを積む台車1万6000台のそれぞれに、合計10万個超のICタグを取り付ける。

 ウールワースのオニール氏(写真2)は今のところ、「商品一つひとつにタグを取り付ける必要はない」と考えている。「個品」の管理を当面の目的とは考えていないからだ。同社の最大の狙いは現在、物流センターから店舗に商品を輸送する際の物流業務の精度と効率を高めることである。

 ウールワースはケージと台車に取り付けたICタグのデータと、既存の物流管理システムなどに格納してあるデータを連携させる。こうすることで「何番のケージにどの商品をいくつ格納したか」、「何番のケージを何番の台車に載せたか」、「何番の台車をどの店舗向けに輸送したか」といった具合に、店舗に輸送する商品の種類と数量が正確に把握できる。さらにケージと台車に取りつけたICタグを自動的に読み取ることで、物流センターにおける商品出荷時の検品作業を完了することも可能になる。

 このほかRFID Journal Live!では、「ICタグは個人のプライバシ侵害につながるのではないか」という懸念の声も上がった。この意見に対して、米アクセンチュア チーフ・サイエンティストのグローバー・ファーガソン氏(写真3)は、「仮にICタグに格納してあるデータが分かったとしても、すぐにプライバシの侵害にはつながらない。商品管理や顧客管理など、セキュリティ対策が施されている多くのシステムに侵入しない限り、データの意味は分からない」と反論。テレホン・ショッピングを例に挙げて、「買い物の時にも住所や電話番号、名前、欲しい商品を相手に伝えるではないか。要は、消費者が情報を提供した見返りとして、希望する商品が得られるかどうかが論点になる」と続けた。

(栗原 雅)