日本AMDは4月23日、マイクロプロセサの新製品「Opteron(オプテロン)」を発表、3製品の出荷を開始した。機能、性能、価格でインテルのXeonやItaniumと競合できる製品だが、大手サーバー・メーカーの採用意向表明は今のところ米IBMだけ。サーバー用として普及するには時間がかかる。

 Opteron(写真)はサーバーやワークステーションに向けた64ビットのマイクロプロセサで、1テラバイト(TB)のメモリー領域を利用できる。AMDはこれまでインテルの86系プロセサ(x86)と互換性を持つ32ビットのAthlonやDuronを主力製品としてきた。64ビット・プロセサの開発にあたっては、インテルの64ビット・プロセサ「Itanium」ではなく、x86との互換性を重視して設計をした。その結果出来上がったアーキテクチャを「AMD64」と呼ぶ。今回発表のOpteronは、AMD64仕様の最初の製品だ。

 Opteronには1プロセサ専用の100シリーズ、2プロセサまでのマルチプロセサ構成が可能な200シリーズ、8プロセサまでの800シリーズがある。最初に出荷するのは200シリーズの3製品。具体的には240、242、244で、価格は表1の通りである。今後、6月に800シリーズ、7~9月に100シリーズの出荷を始める予定だ。このほかAMD64仕様の製品として、ノート・パソコンやデスクトップ・パソコン向けの「Athlon 64」を9月に発表、出荷する計画である。

写真●AMDの64ビット・プロセサ「Opteron」
940ピンの専用ソケット(Socket 940)に装着して利用する
 
表1●今回出荷を始めた3製品
価格は1000個ロットの場合の単価

 日本AMDの堺和夫社長は「大手メーカーが、パソコンではすでに当社のプロセサを採用している。Opteronもきっと採用される」と自信を示す。吉沢俊介取締役は「1997年にx86互換のK6を出したときに比べれば、Opteronは楽。ほぼすべての大手ハード・メーカーが評価、準備をしている」という。

大手ハード・メーカーは様子見

 とはいうものの、現時点でコンピュータ・メーカーがOpteronに力を注いでいるとは言いがたい。大手ハードウエア・メーカーで採用意向を表明したのは米IBMだけだ。そのMark Shearer副社長は製品発表会で流れたビデオで「ハイ・パフォーマンス・コンピューティング」という言葉を連発。主力製品に使うのではなく、科学技術計算向けの新シリーズとして製品化する意向である。すぐにインテルの製品を置き換えていくような状況ではない。

 他の大手メーカーは様子見が大勢だ。「パソコンではAMDのプロセサを使っているが、サーバーですぐにOpteronを採用する計画はない。インテルのプロセサ供給に別段不満を感じていない」(NEC)、「ヒューレット・パッカード(HP)もコンパックも以前からインテルと密接な関係を築いて共同開発を行ってきた。その関係は揺るがない」(日本HP)といった具合である。

 ソフトウエアの分野では、オラクルとIBMがデータベース製品で、サン・マイクロシステムズがSolaris、Java、Sun ONEの3分野でOpteronのサポートを表明した。ただ、いずれも既存の32ビット・コードの製品がOpteronで使えることを強調し、Opteron向けの64ビット製品を投入する時期については明言を避けている。

鍵を握るマイクロソフト

表2●インテルの主なデスクトップ/ワークステーション/サーバー用プロセサ製品

 他社に比べると、マイクロソフトの対応は積極的に見える。米マイクロソフトは4月9日に、Opteron用64ビット版Windows XPと同Windows Server 2003を開発しており、2003年半ばにベータ版をリリースすると発表した。

 マイクロソフトの高沢冬樹製品マーケティング本部Windowsサーバー製品部長は、「32ビットのWindows Server 2003とOpteronの組み合わせは驚異的なプライス・パフォーマンスを提供する。サポートもする。64ビット版は、年末から来年にかけて提供できるようになるだろう」という。

 Windows Server 2003のItanium用64ビット版は、32ビット版と同じ6月に出荷が始まる予定なので、Opteron用64ビット版は、それよりかなり遅れることになる。また、パッケージとして流通させるかどうかなどの問題もある。

表3●日本AMDが開催した発表会に参加し、スピーチを行った会社

 Opteronでは、現在市販されている32ビット・オペレーティング・システム(OS)をそのまま利用できるが、1TBのメモリー空間などのメリットを生かすには、64ビット版OSでOpteronを使うのが望ましい。そして今のところ、Opteron用の64ビットOSは、ターボリナックスの「Turbolinux 8 for AMD 64」(8600円、5月16日発売)、ロジカルイフェクトの「Logical Linux True 64A」(6800円から、5月発売)くらいしかない。マイクロソフトがOpteron用の64ビットOSをどのように供給するか、それがOpteronの命運を握ることになりそうだ。

200シリーズはXeonと競合する

 Opteronの競合相手は、32ビットOSを使うならインテルのXeonまたはXeon MPだし、64ビットOSならインテルのItaniumやItanium 2だ(表2[拡大表示])。

 まず、Opteronの200シリーズをXeonと比べると、Opteronの動作周波数は1.4G~1.8GHzだが、Xeonは2G~3.06GHz。周波数ではXeonが高い。しかし、Opteronは2次キャッシュの容量が1MBで、Xeonの512KBを上回る。Opteronはメモリー・コントローラを内蔵して性能改善を図ってもいる。AMDによれば、Opteron 244はXeonの2.8GHz版や3.06GHz版を上回る性能を持つという。Xeonの店頭価格は3万円弱~9万円強。大まかに言って、Opteronの200シリーズは、Xeonと同等の性能と価格を持ち、64ビットという機能面の“おまけ”が付いてくる製品だ。

 200シリーズとItanium 2を比較すると、今のところ周波数ではOpteronの勝ち。Itanium 2は今年後半に1.5 GHz版が出てくる見込みである。Itanium 2の価格は、昨年7月のインテルの発表資料によれば16万6250~52万5080円だ。

 AMDの発表会では、表3の会社が壇上に登って自社のOpteron関連製品をアピールした。なかにはOpteron搭載機に20万円台半ばの価格を付けている会社もある。64ビット・プロセサを身近にしたという点で、Opteronのインパクトは大きい。

(原田 英生)