オートIDセンターのコードも使える
ICタグ関連の標準化団体としては、主に欧米の企業や大学が主導する「オートIDセンター」が先行している。ユビキタスIDセンターを、このオートIDセンターの“対抗馬”とみる向きも多い。しかし、坂村教授は「オートIDセンターとケンカはしていない。戦って相手をつぶそうとも思っていない」と、その見方を全面的に否定する。
ユビキタスIDセンターは、オートIDセンターとは大きく二つの違いがあると主張する。第1に、ICタグに格納するコードの仕様を規定するコード体系が異なる。オートIDセンターは、「EPC(エレクトロニック・プロダクト・コード)」と呼ぶ独自のコード体系(コードは96ビット)を使う。ユビキタスIDセンターが利用するのは「uID(ユビキタスID)」と呼ぶコード体系(同128ビット)だが、これも独自仕様。uIDでは流通分野で一般的な「JANコード」のような既存のコード体系を流用できる点が異なる。
uIDでは、ユビキタスIDセンターが規定した識別子を使ってコードの種類を識別する。例えば、企業や商品の特定にJANコードを利用したい場合は、「JANコードを使っている」ことを示す識別子をICタグのコードに書き込んでおけばよい。同じように、オートIDセンターのEPCをuIDで使うことも可能だ。
![]() |
図●ユビキタスIDセンターが描くICタグを活用したシステムの概要 業界団体や企業が定めた既存コードをインターネット経由で流用したり、インターネットを介さずに商品の詳細情報を検索できる仕組みを想定している |
第2の違いは、ICタグのコードを基に商品の詳細情報を検索する仕組みである。オートIDセンターはネットワークを介することが大前提だが、ユビキタスIDセンターはオフラインで利用する仕組みも標準で想定している。
オートIDセンター、ユビキタスIDセンターとも、ネットワークを利用した情報検索の仕組みはほぼ同じだ。ユビキタスIDセンターでは、「リーダー」と呼ぶ装置を使って読み取ったICタグのコードをデータ検索用システムに送信する(図[拡大表示])。データ検索用システムは、インターネット経由でユビキタスIDセンターの「アドレス解決サーバー」にアクセスし、コードを識別する。JANコードであれば、今度はJANコードの開発元である流通システム開発センターのサーバーにある情報を使って、企業や商品の一般的な情報を検索する。さらに、該当する企業の商品情報サーバーから製造場所や流通経路といった詳細情報を入手する。
オートIDセンターもICタグに格納してあるEPCを基に、ネットワーク上の複数のデータベースから次々と詳しい情報を収集することを想定している。
ユビキタスIDセンターはこれに加えて、商品の詳細情報をインターネット接続せずに検索できる仕組みを想定している。具体的には、携帯情報端末(PDA)を使った高機能のリーダーを利用する。リーダーに商品の詳細情報を格納しておくことで、インターネットを介さなくても、リーダーで読み取ったICタグのコードに関連する商品の詳細情報を把握できる。坂村教授は、「どんなときでもインターネットに接続しなければ情報が得られないようだと利便性が悪くなる。せいぜい2万品目しかない医薬品のような商品を特定するだけなら、PDAに必要な情報を入れておけばよい」と話す。
先に実用化した団体がデファクトに
ただし、業務アプリケーションのレベルでは大きな差はないとみるべきだろう。
例えば、北海道の加工食品メーカーの春雪さぶーるは、生ハムの輸送用ケースにICタグを装着。原産地や生産者の情報などを、ICタグのコードと関連づけて自社のサーバーで管理する。小売店の担当者や顧客は品質を確認するためにICタグのコードを読み取り、ネットワーク経由でサーバーの情報を検索する。このアプリケーションは、ユビキタスIDセンターとオートIDセンターのどちらの規格を使っても実現できる。かみそり大手の米ジレットも今年第1四半期から、オートIDセンターの実験としてICタグを活用した商品管理用アプリケーションを構築したが、これもユビキタスIDセンターの規格で実現できるとみられる。
両センターに参加しているキヤノンの近江和明主席研究員は、「ユビキタスIDとオートIDのどちらかが、ある分野でアプリケーションを実用化したら、それがその分野のデファクトになる可能性が高いのではないか。ある用途で一つの規格が使われ始めると、他の規格になかなか移行できない」とみる。