実現手法やスケジュールはほぼ同じ

 IBM、HP、サンの3社はそれぞれ別々の言葉を使って自社の自律コンピューティングを説明している。このため、3社の違いは非常にわかりにくい。

 だが、現在明らかになっている情報を整理した限りでは、3社の自律コンピューティング構想の内容や狙いに大きな違いはない。もちろん細かな実装技術や実装の順番に違いはあるが、各社とも(1)仮想化(バーチャリゼーション)、(2)動的な資源(リソース)配分、(3)運用ポリシー(ルール)に基づく資源配分の自動化―の三つの機能によって構想の実現を目指している。

 各社が言う「仮想化」とは、複数のハードを論理的にまとめて一元管理し、指示に従って機器構成を変更できるようにする機能のことだ。自律コンピューティングの当座の目標である「サービス・レベルの自動保証」を実現するために、ケーブルなどをつなぎ変えることなく、ハードの構成を変更できるようにする。

図2●日本ヒューレット・パッカードのユーティリティ・コントローラ・ソフトウェアの一括管理画面
アイコンをドラッグすると構成を変更できる

 HPはこの12月に日本で提供を開始したUDCの最初のバージョン(R1.1)で、仮想化機能を実現した。専用の管理ソフト「ユーティリティ・コントローラ・ソフトウェア(UCソフトウェア)」を使うと、サーバーやストレージ、ネットワーク機器などの稼働状態や使用率を一つの画面で管理し、マウス操作で機器の構成を自由に変更できる(図2[拡大表示])。

 サンは来年3月までに出荷を始めるブレード・サーバーに仮想化用ソフトを標準搭載する。HPのUCソフトウェアとほぼ同じ機能を備える見通しだ。各アプリケーションをどのサーバー(ブレード)で動かすかも自由に設定できるようにする。

 IBMの仮想化に対するアプローチは、HPやサンといくぶん異なる。メインフレームや大型UNIXサーバーを複数の区画に論理的に分割し、各区間の構成を自由に変えることで同様の効果を上げようとしている。論理分割機能はすでに提供済みだ。このほかネットワークで結ばれた大量のコンピュータをまとめて処理を実行するグリッド・コンピューティングを実現する過程で、仮想化機能を盛り込もうとしている。

 3社とも現時点で仮想化できるのは、自社製品が中心だが、他社製品を含めた仮想化も進める。HPは来年秋から、「UCソフトウェア」のドライバ・キットを他のハード・ベンダー向けに提供する。このキットを使うと、他のベンダーは自社のハードをUCソフトウェアの管理対象とすることができる。サンは来年後半以降に、同様のドライバ・キットを提供する予定だ。IBMはグリッド・コンピューティングを構成するためのインタフェース仕様「OGSA」を業界標準とすることで、他社製品を含めた仮想化を実現しようとしている。

 仮想化の次のステップとしてHPやサンは、システムを止めずにハードの構成を変更する「動的資源配分機能」の提供を目指す。動作中のアプリケーションを止めずに、プロセサやメモリーなどの資源を追加できる。HPは来年秋から提供を始める「UDC」の次期バージョン(R2.0)で実現する。サンは来年半ば以降に出荷するサーバーの新製品から実装する。

 最後の三つ目の機能がそろうと、各社の自律コンピューティング構想はいちおうの完成をみる。あらかじめ設定したサービス・レベル(運用ポリシー)を満たすように、各種資源を自動的に配分する機能を盛り込む。例えば「Webアプリケーションの応答時間は3秒以内」と設定しておけば、アクセス要求が増えたときに、仮想化してプールしてあるプロセサをそのアプリケーション向けに割り振る。

 HPは来年秋に提供を始める「UDC」の次期バージョンに、ポリシーに沿ってハード資源を配分し、システムの稼働状況を一定に保つ機能を追加する。サンは2004年後半以降に同様の機能を提供する計画である。

 IBMは運用管理ツール「Tivoli」の強化モジュールとして、(2)の動的資源配分機能と、(3)の資源配分の自動化を実現する。「eWLM(enterprise Workload Manager)」と言う名称で、来年前半にも提供を始める。

(鈴木 淳史)