2003年4月の完全一本化は延期か

表●みずほホールディングスが6月19日に発表した,システム障害の再発防止策の概要

 ただし,システム障害の発生原因や再発防止策の内容は,管理強化ばかりが目立ち,肝心のシステム開発を前に進めるための施策があまりない。報告書の分量は14ページに及び,再発防止策の説明だけで4ページを費やし,リスク管理や危機管理,監査の体制を強化するとした([拡大表示]参照)。

 確かに管理の強化は重要であるが,それだけでは,みずほ銀行の勘定系一本化を進めることはできない。「今後のシステム開発プロジェクトの管理」の項目は,わずか半ページの記述しかない。みずほ銀行の勘定系システムをいつ一本化するかといった,今後の作業スケジュールについては,「システム・事務の安定化・常軌化,開発の見極めを速やかに行った上で,早期に方針・スケジュールを決定いたします」と記載するにとどまった。

 現在の計画では,来年4月にみずほ銀行の勘定系システムを,旧第一勧業銀行の勘定系に一本化することになっている。しかしみずほはこの3カ月,トラブルの復旧や障害原因の究明,金融庁への報告などのために,一本化作業を進めることができなかった。残された時間は少ない。安全を期して一本化をさらに先送りするのか。それともグループの総力を挙げて,計画通り来年4月の一本化に挑むのか。

 前田社長は,「今回は時間が足りなくて準備不足ということにはしない。入念に実施する」と強調した。この発言から推測すると,来年4月の一本化作業は延期になる可能性が大きい。

テスト不足を認める

 みずほは会見で4月に起こったトラブルの原因も発表した。口座振替の遅延や二重引き落としは,複数のプログラムに不具合があったことと,手作業のミスが重なって生じた。前田社長は,「処理全体を通したテストや運用のリハーサルが不十分だった。東京電力からのテストの申し出を断ったのも,全体を通したテストを実施するための準備ができなかったからだ」と説明した。みずほがトラブルの全容を正式に説明したのはこれが初めてである。

 口座振替にかかわる不具合は,大きく分けて四つあった。まず,口座振替の委託企業の情報を格納するマスター・ファイルの内容が正しくなかった。マスター・ファイルは,「ある企業は,磁気テープに振替依頼データを格納して持ち込んでくる。データの形式は独自フォーマットである」などの情報を含んでいる。このデータに不備があれば,「口座振替処理を正常に進めることはまず不可能」(大手金融機関のシステム担当者)。

 次に口座振替処理の進ちょくを管理するプログラムに誤りがあった。委託企業から受け取った依頼データを口座振替システムに入力してから,最終的な口座振替の結果データを委託企業に返却するまでの間には,引き落としデータの用意や結果の書き込みなど,いくつかの処理を経ることになる。こうした処理の流れをうまく管理できなかった。

 4月に口座振替処理が混乱する中で,「あるカード会社は結果データを受け取ることができたが,別の企業は結果データをもらえない」という具合に,委託企業ごとに差ができたのは,マスター・ファイルや進ちょく管理の一部に不具合があったからだ。

 また,JCL(ジョブ制御言語)にもエラーがあった。JCLの中で入出力データの指定を誤り,二重引き落としが発生したと見られる。さらに,依頼データの受け付け事務を支援するシステムのプログラムの不具合やデータの不備が,事務作業をいっそう混乱させた。

 一方,ATM(現金自動預け払い機)障害の原因は,すでに報道されていたとおり,旧第一勧銀の対外接続系システム上で稼働するプログラムの誤りである。前田社長は,「4月5日の会見では,ATM障害の原因は旧第一勧銀と旧富士銀行の勘定系を結ぶリレー・コンピュータにあると説明してしまった。その後,原因究明を進めたら,実際にはリレー・コンピュータではなく対外接続系に異常があったことが分かった。間違った報告をしてしまい申し訳ない」と述べた。

(大和田 尚孝)