図●沖電気がUML導入のために採った主な手段と目的
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 沖電気工業は2002年度から,新規のシステム開発案件にモデリング言語「UML(ユニファイド・モデリング・ランゲージ)」を全面採用した。システムの開発生産性と保守性向上が狙い。今後1年で,200件を超えるプロジェクトにUMLを適用。2000人の開発要員全員にUMLの教育を施す。

 「今年度からは,すべての新規システム開発プロジェクトに何らかの形でUMLを導入する」。沖電気工業の八重倉修 金融ソリューションカンパニービジネスサポート本部副本部長は,こう宣言する。沖電気が1年間で手がけるシステム開発プロジェクトの数は300件を超える。このうちメインフレーム向けアプリケーションの改修などを除く約200件のプロジェクトで,UMLを利用した開発に踏み切る。国内コンピュータ・メーカー大手でUMLを全面採用したのは,同社が初めてである。

 UMLは,オブジェクト指向に基づくシステム分析や設計を実施するためのモデリング言語。八重倉副本部長は,「UMLは日本ではまだそれほどポピュラーではないが,将来的にソフト開発の上流工程のデファクト・スタンダードになる可能性が高い。他社に先んじて対応すれば当社のセールス・ポイントになると判断した」と話す。

 沖電気はUMLの全面採用により,今後1年間でシステムの開発生産性を10%以上向上させることを目指す。「これまで,当社における開発生産性の伸びは年間3~5%程度。UMLを使うと,一気に2,3年分の生産性向上を達成できる」(八重倉副本部長)。

 これだけの伸びが見込めるのは,UMLを使うとソフトの再利用が容易になるからだ。「特にWebシステムでは機能の共通部分が多い。確かにJavaなどで実現したソフト部品を使えば生産性を向上できる。しかし,より高い開発生産性を達成するには,UMLを使ってシステムを統一した形式で客観的に記述することが不可欠だ」(同)。

 沖電気はUMLを導入することで,システムの保守性が大幅に向上する点についても期待を寄せている。UMLを使えば,ドキュメントの内容が開発の当事者以外でも理解しやすくなるからだ。加えて八重倉副本部長は,「当社は中国やインドにソフト開発を外注する場合が多い。その際も仕様をUMLで記述しておけば,コミュニケーションがスムーズになる」と予想する。

 UMLを広げるための施策にも抜かりはない。まず2001年4月にUML推進チームを設置した。8人いる同チームのメンバーは,隔週の社内講習会を企画するほか,実際の開発プロジェクトにUMLを採用するメンバーに対して,導入支援活動などを行う。

 さらに同社のすべての開発者に対して,オージス総研(大阪市西区)のUML関連の認定資格を取得するよう命じている。沖電気の技術者は,開発部隊である沖ソフトウェアを含めて総勢2000人。すでに2001年度末には,延べ約700人が同認定資格のゴールドとシルバーのいずれかを取得した。UML本格展開の年となる2002年度には,「2000人の技術者全員が,最低でもシルバーの資格を取得しているようにしたい」(八重倉副本部長)。このほか新入社員に対する教育も進めている。同社ではUMLをJavaと並ぶ最重要項目と位置づけて,必須科目として全員に教育を施している。

 UMLツールとして,日本ラショナルソフトウェアのRational Roseを利用している。数億円をかけて100ライセンス以上を購入した。

(中村 建助)