5月7日に誕生した新生ヒューレット・パッカード(HP)の前途は多難だ。製品の統合やサービス事業の維持・強化といった課題の解決に手間取るようだと,「コンパックによるDEC買収」の轍を踏みかねない。米国本社の上級副社長は,幅広い品ぞろえとスケール・メリットを強調する発言に終始した。

 「新生HPは顧客が求めるあらゆるソリューションと製品を提供する」,「旧HPと旧コンパックの製品は補完関係にあり,規模のメリットが生きる」,「重点分野のソフト/サービスでは2万5000人のエンジニアを抱え,超大手企業のニーズに応えられる」―。新生HPで企業戦略と技術部門を統括するシェーン・ロビソン上級副社長(写真)は5月10日,本誌の取材でこのように力説した。

 だが,ロビソン上級副社長の発言からは,新生HPの“強さ”はあまり伝わってこない。それどころか幅広い品ぞろえとスケール・メリットを強調するコメントには“危うさ”さえ漂う。

 今回のロビソン上級副社長の発言は,旧コンパックコンピュータが1998年6月にDECを買収した際の主張を彷彿(ほうふつ)させる。当時のエッカード・ファイファー社長兼CEO(最高経営責任者)は「コンピュータに関するニーズをすべて満たす会社が誕生する」と力説し,「サーバーからクライアントに至る幅広い品ぞろえと,世界規模の一貫したサービス」というスローガンを掲げていた。しかし旧コンパックは業績が伸び悩み,今回の合併で社名が消えた。

表●新生HPの企業向け製品の統合計画

 確かに新生HPは売上高で,世界2位のITベンダーになった。しかしプリンタを除けば,圧倒的な競争力を持つ分野はない。昨年9月の合併合意当時の目論見では首位に立つはずだったパソコンは,米デルコンピュータの猛追を受けている。米国市場に限れば,デルに抜かれた。旧HPと旧コンパックを合わせれば,シェア・トップになるサーバー分野も,苦戦は必至だ。製品系列の完全な統合は,インテルの64ビット・プロセサ「Itaniumアイテニアム」を全面採用する2004年以降になり,その間は二重投資が避けられない([拡大表示])。

 重点分野と位置づけるソフト/サービスも課題が多い。新会社は「5000人のマイクロソフト認定技術者と1万8000人のJava関連技術者を擁する」(ロビソン上級副社長)が,成長性の高いコンサルティング部門は弱い。人材の流出も懸念材料の一つである。

 なお,日本HPとコンパック日本法人も今年7~8月ごろをメドに合併する。新会社の社長には,コンパックの高柳 肇社長が就任する。日本HPの寺澤正雄社長は代表権を持つ会長になる。

(星野 友彦,西村 崇)