KPMGコンサルティングとNTTコミュニケーションズが4月半ばに相次ぎ,高い信頼性が要求される基幹系システムを想定した,災害復旧の実験に成功したと発表した。遠隔地の拠点に,ほぼリアルタイムでデータをバックアップできることを示した。危機管理に対する企業の関心の高まりが背景にある。

表●KPMGコンサルティングとNTTコミュニケーションズがそれぞれ主催した,災害復旧に関する実験の概要[表をクリックすると拡大表示]

 “地震大国”の日本では,大企業が基幹系システムの処理履歴を記録したログ・データを,遠隔地にバックアップしている例は珍しくない。しかし,せいぜい1日分のログ・データを収めた磁気テープを夜間にトラックで搬送し,拠点間でデータの同期を取っている,というのが現状だ。

 この問題の解決を狙い,KPMGコンサルティングとNTTコミュニケーションズ(NTTコム)はそれぞれ,関東と関西のセンターにあるデータをほぼリアルタイムで同期させる実験に取り組んだ。「昨年9月に米国で起こったテロ事件によって,災害復旧に対する企業の関心が急速に高まった」(KPMGの原田龍一 シニア マネージャー)ことに加え,「10年前の6Mビット/秒の通信回線と同じ料金で,現在では600Mビット/秒の通信回線を利用できる」(NTTコムSE部門の南宏二担当部長)という通信コストの大幅な低下が背景にある。

 KPMGが実施した実験は三つ。第1は,ディスク装置のデータ(論理ボリューム)の「差分更新」である。コンパックコンピュータのディスク装置「StorageWorks」を横浜と神戸のセンターに配置し,横浜のStorageWorksにあるデータが更新されるたびに,神戸のStorageWorksのデータに反映した。センター間はCRCソリューションズが提供する1.5Mビット/秒の専用線で接続した。「この通信速度では,同じセンター内なら30秒で終了する処理に1分かかる。しかし,もう少し高速な回線を使えば,ほとんど遅延が発生しないことを確認できた」(KPMGの原田 シニア マネージャー)という。

 第2の実験は,データベース・ソフトの「SQL Server 2000」を使ったレプリケーション(複製)。横浜から神戸に1分間隔でログ・データを送信し,双方のSQL Server 2000のデータを同期させた。第3は,バックアップ・データを使った業務アプリケーションの復旧実験である。具体的には,神戸のStorageWorksに格納したSQL Server 2000のデータを,ERPパッケージ(統合業務パッケージ)のR/3に正しく取り込めることを確認した。

 一方,NTTコムは,ディスク装置に日立製作所の「SANRISE2200」を,データベースに「Oracle9i」を使い,KPMGとほぼ同様のテストを実施した。「最大1ギガビット/秒の広域LANで接続した2台のSANRISE2200を使い,1テラバイトのデータをコピーした。実効速度は100メガバイト(800メガビット)/秒以上だったので,1ギガビット/秒の帯域をほぼフルに活用できた計算になる」(NTTコムの南担当部長)。

 このほかNECも3月に,米EMCのディスク装置「Symmetrix 8530」を使い,東京と名古屋を往復する2.5ギガビット/秒の回線を使って,データの差分更新の実験を成功させている。

 災害対策重視の機運は,IT業界で今後さらに高まりそうだ。日本IBMは一足早く,メインフレームを使った基幹系システムの待機系システムを,遠隔地に構築する商用サービスを4月に開始した。障害が発生したアプリケーションの処理を自動的に遠隔地で引き継ぐ「フェイルオーバー」を可能にする。

(森 永輔)