国内初のセキュリティ管理の認証制度「ISMS適合性評価制度」が,4月1日から本格的に始まった。情報漏洩などを防ぐための管理体制を審査する。特徴は,銀行や製造業などを含め全業種を対象にしていること。ISMSの認証取得が,取引先企業から要求されるケースも今後は出てきそうだ。

表●ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)適合性評価制度の概要。安対制度(情報処理サービス業情報システム安全対策実施事業所認定制度)とも比較した
ASP:アプリケーション・サービス・プロバイダ
JIPDEC:日本情報処理開発協会

 4月から正式に始まったISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)で最も注目すべき点は,ISMSの適用対象があらゆる業種に広がったことである。そもそもISMSは,データセンターなどの安全基準を定めた「情報処理サービス業情報システム安全対策実施事業所認定制度」の後継制度として制定された([拡大表示])。そのため2001年度のパイロット事業では,審査対象が情報処理事業者に限られた。

 しかし4月からの本格運用で使われる認証基準「ISMS Ver1.0」では,適用業種の制限がなくなった。ISMS制度を運営する日本情報処理開発協会(JIPDEC)情報セキュリティ政策室の高取敏夫ISMS事務局長は,「官公庁や病院などは,個人情報を扱っているにもかかわらず,セキュリティに関する意識が低い。組織内のセキュリティ管理の必要性は,どの組織にも共通する」と,業種の制限がなくなった事情を話す。

 今後ISMSの取得を希望する事業者は,最初に自社のどの部門で取得したいのかを,JIPDECに認定された審査登録機関に申し出る。例えば銀行でISMSを取得する場合でも,情報システム部門に範囲を絞った時は,全業種共通の情報システム部門対象の基準で審査を受ける。しかし,銀行特有の業務が審査の対象に入っている場合は,銀行業務に詳しい審査員が担当,銀行業務そのものも審査することになる。

 ISMSを取得するメリットは,まず社内のセキュリティ制度を整備できること。きちんと管理体制を構築することで,情報漏洩やハッキングなどの危機を回避できる可能性が高くなる。「最近は内部からの個人情報漏洩が多く,社内全体の情報セキュリティ管理を万全にする必要がある」と,高取事務局長は指摘する。

 対外的には,認証されることで自社のセキュリティの強固さをアピールできる。「製造業や金融業などでは,取引条件としてISMSの取得を求められるケースも増えてくるだろう」とセキュリティ管理のコンサルティングを手がけるNTTデータ インフォブリオ セキュリティコンサルティングの高橋洋介社長は話す。「取引先との情報共有が進んだ場合,ネットワークを通じて機密情報を開示する状況が出てくる。その時に紙1枚の契約書を交わすだけでは,取引先のセキュリティ管理体制をチェックしたことにはならない。そこで,第三者が認証するISMSが重要になってくる」(高橋社長)というわけだ。

 現時点では,ISMSに問題点もある。それは,ISMSが土台としている英国のセキュリティ管理規格BS7799との関係だ。「将来的には,ISMSとBS7799で相互認証をする」(高取事務局長)ことになっているが,しばらくの間は二つの規格が並存することになる。NTTデータ インフォブリオの高橋社長は,「国際的な企業ならBS7799,国内を中心に活動する企業ならISMSというように,使い分ければよい」と助言する。

(島田 優子)