個人情報が保存されているデスクトップ・パソコンやノート・パソコンの盗難事件が相次いで発覚している。こうした事態を受けて注目が集まっているのが,ハードディスクの内容を丸ごと暗号化するソフトだ。4月にはPDA(携帯情報端末)に保存したデータをすべて暗号化するソフトも登場する。

 ハードディスクの内容を暗号化するソフト「pointsec」を販売するメトロ(東京都品川区)には,最近になって問い合わせが急増している。「毎日のように資料請求や『ソフトを実際に見てみたい』という依頼が来る」(メトロの佐藤潤情報通信システム事業部企画部マネージャー)。

図●パソコン用暗号化ソフト「pointsec」の仕組み
ハードディスク上のすべてのデータやOS,アプリケーションを暗号化する。価格は20ユーザーの場合で25万8000円から。4月にはPocket PC上で動作するソフト(右の画面)も出荷する。パスワードを入力するのではなく,ランダムに表示されたアイコンを設定した順に押すと端末にログインできる
 pointsecはスウェーデンのポイントセック・モバイル・テクノロジーズが開発したソフトで,パソコンの主記憶に常駐し,ハードディスクに書き込むデータを常に暗号化するのが特徴(図左[拡大表示])。このソフトをインストールした時点でディスクの内容はすべて暗号化される。復号化されるのは主記憶に読み出すときだけで,これらは自動的に処理される。ユーザーはパソコンの起動時にパスワードを入力すれば,あとは通常の操作が可能だ。

 これまでファイル単位で暗号化を行うソフトはあったが,ハードディスク全体を暗号化する製品は珍しい。「ファイルを選択して暗号化するソフトでは手間がかかり,必要なファイルが暗号化されていない状況が必ず発生する」と,メトロの國清くにきよ健次情報通信システム事業部長代理企画部長は指摘する。pointsecは,ユーザーが暗号化/復号化の機能をオフにしたり,そのソフト自体をアンインストールすることができないようになっている。パスワードは一定期間が過ぎると,変更しなければならない。

 開発元であるポイントセックのトーマス・ビルCEO(最高経営責任者)によると,「米国などでは,パソコンが盗まれてハードディスクを抜き取られる事件が多発している。ディスクのデータが読み出され,企業の株価に影響を及ぼされたり,盗まれたデータを盾に脅迫を受けるといった例もある」という。国内では昨年末から今年にかけて,大阪府の税務署で納税者の個人情報が入ったノート・パソコンが盗まれた事件や,三菱重工業の名古屋航空宇宙システム製作所(名古屋市港区)で防衛庁関連のデータが入ったデスクトップ・パソコンが盗まれたことが明らかになった。pointsecのようなソフトは,こうした事態に威力を発揮する。

 盗まれやすいといえばPDAもそうだ。ポイントセックは4月をメドに,Pocket PC上で動作するソフトも国内で出荷する(図右の画面)。PDAに保存したデータだけでなく,PDAに挿入したメモリー・カードの内容も暗号化できる。「ほかのPDAにメモリー・カードを挿し込んでもデータを読み出すことはできない」(ビルCEO)。端末にログインするときは,ランダムに表示されるアイコンを,設定した順番に押す仕組みである。

(坂口 裕一)