インターネットの管理組織「ICANN」は,問題が噴出している「多言語ドメイン名」のルール整備にようやく本腰を入れる。2002年6月の総会までに,多言語にまたがるドメイン名紛争の解決方法や,「.com」にあたるトップレベル・ドメイン名(TLD)の多言語化に関するルールを打ち出す方針だ。

表●すでに登録,一部運用が始まっている,主な日本語が使える多言語ドメイン名
括弧内は当該ドメイン名を管理する組織
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 「『現代.com』は,韓国のヒュンダイ財閥と日本の雑誌ゲンダイ,どっちのものか」,「『。会社』『.公司』といったドメイン名の登録も始まっているが,本当に使えるのか」――。日本語や中国語など非英語圏の言語をドメイン名に利用できる「多言語ドメイン名」にまつわる問題が噴出している。

 この問題に関して明確な回答ができる人はだれもいない。多言語ドメイン名に関する統一的なルールが明文化されていないからだ。多言語ドメイン名の技術的なルールの整備は,インターネット関連技術の標準化作業を担当するIETFにより進められている。しかし,運用に関する統一的なルールは,だれも整備してこなかった。

 事態を重く見たインターネットを管理する国際的な非営利民間組織「ICANN(アイキャン)」は2001年11月,「多言語ドメイン名委員会」を設置。委員長に日本の加藤幹之(まさのぶ)理事が就任した。「ICANNは欧米の理事が中心。欧米の理事は,多言語ドメイン名に関する問題を認識していても積極的に取り組もうとしない。欧米諸国にはあまり関係がないし言語知識もそれほどないからだ。だから私がギャーギャー言って,やっと委員会を作ってもらった」(加藤理事)。

 委員会の検討議題は大きく二つある。一つは「ドメイン名紛争の解決方法」,もう一つは「トップレベル・ドメイン名(TLD)の多言語化」である。

 現在,「.com/.net/.org」といった一般ドメイン名の紛争を解決する手段として,「統一ドメイン名紛争処理方針(UDRP)」という明文化されたルールが存在する。「.jp」などの国別ドメイン名についても,このUDRPに基づいたルールが適用されている。

 しかし,UDRPは多言語ドメイン名が登場する前に制定されたもの。同じ漢字表記を使用する日本,韓国,中国間の紛争をどう解決するかといった,多言語ドメイン名ならではの問題に対する細かいルールは明記されていない。

 さらに,WIPO(世界知的所有権機関)など四つの紛争処理機関が,「多言語.com/.net/.org」に関する紛争処理を受け付けているものの,現状では申し立ての書類記入は英語のみ。日本など非英語圏の国々は母国語を使えず,弁護士費用も高くつくという不利がある。そのためICANNは,各国に一般ドメイン名の紛争処理機関を新たに設置し,各機関が連携を図りながら個別の紛争に対処していく手法を模索している。日本については,知的所有権仲裁センターなどに,一般ドメイン名の紛争処理業務を働きかけていく。

 一方,紛争処理以上にやっかいな問題がTLDの多言語化だ。「日本語.com」や「日本語.jp」など,下から二つ目の「セカンドレベル・ドメイン名」については,ICANNとTLDの契約関係がある米ベリサインやJPNIC(ジェーピーニック)などが,それぞれの権限内で多言語化を進めている。しかし,ICANNと何の契約もない民間企業も,「。会社」や「.公司(中国で開始)」といったTLDを作り,ブラウザなどにプラグインを入れたり,独自のルート・サーバーを設置することで,TLDの多言語化を進めている。

 こうしたドメイン名は「オルタネート・ルート(代替ドメイン)」と呼ばれ,ICANN内で大きな問題となっている。加藤理事は,「オルタネートは,インターネットを分断してしまいかねない。TLDの多言語化に関しては,ICANNが主導して『.日本』などを作るべき。オルタネートは勝手にやっているのだから,統一のルールができてつぶれても仕方ない」と指摘した。

(井上 理)