世界最大の小売業,米ウォルマート・ストアーズの情報システム責任者が日経コンピュータのインタビューに応じた。「システムの開発と運用は社内で実施する」,「アベイラビリティ(可用性)の維持が何よりも重要」,「中核業務はIBM製メインフレームで動かす」といった明快な基本方針が明らかになった。

 インタビューに応じたのは,テクノロジ・サポート&オペレーションズ担当バイスプレジデントのダン・フィリップス氏。フィリップス氏は肩書きの通り,ウォルマートの全情報システムの運用およびユーザー・サポートの責任者である。二つのデータセンターやネットワークの運用管理,ヘルプデスク業務,ハードやソフト製品の調達・交換,そしてWebサイトの運用を統括している。

 今回のインタビューのきっかけは,10月15日にあったウォルマートと米IBMの共同発表である。発表内容は,「ウォルマートがIBMの最新メインフレームz900と最新ストレージEnterprise Storage Server(開発コード名Shark)を,テクノロジ・インフラストラクチャとして採用した」というもの。ここでテクノロジとはIT(情報技術)を指すため,以下ITと表記する。

 ウォルマートは,z900やSharkの導入台数や購入金額を公表していない。「ウォルマートにとって,ITは競争優位性を維持するための戦略案件であり,その詳細を公開できない」(フィリップス氏)という方針からだ。実際,ウォルマートがIT関連の発表をしたり,インタビューを受けるのは珍しい。このため米国の主要メディアはこぞって両社の発表を取り上げた。

「ITは競争優位を維持する戦略案件」

 今回のインタビューでフィリップス氏は,「競争優位を維持するためのIT利用」という基本姿勢を一貫して強調した。典型的な発言は,「ウォルマートはITのアウトソーシングは絶対にしない」というものである。

 「戦略案件である以上,ITを外部に委ねることはできない。運用はもちろん,開発も98~99%をウォルマート内で実施している」(フィリップス氏)。情報システム部門の人数も非公開だが,「他の小売業に比べれば少ない。ウォルマート本社にシステム要員を集中させ,効率よく開発・運用をしているからだ」と語る。

 システム責任者の最大課題を問うと,「システムとネットワークのアベイラビリティ(可用性)を維持し,さまざまな変化を取り入れていくこと」という返答だった。z900とSharkを採用したのは課題を解決するためという。

 米メディアの報道を見ると,十数台のz900と50テラバイトのSharkを導入したようだ。ウォルマートはコア・ビジネス・アプリケーションのすべてをz900とSharkに移行した。コアとは,商品の購買,在庫管理,店舗間の調整,マーチャンダイジング,カードなどの決済,会計,人事管理,給与である。

 z900の論理分割機能を利用し,複数アプリケーションをz900上に統合した。トランザクション処理モニターはCICS,データベースはIMSとDB2。従来はコアを複数世代のIBM製メインフレームと,複数メーカーのストレージから成る環境で動かしていた。

 サーバーとストレージの統合作業は今春から始まり8月に完了した。統合の結果,「ものによっては処理時間を半分にできた」。Sharkに性能障害が出ているという情報が米国で流れていたが,「まったく問題ない」と否定した。

 z900をクラスタ接続して可用性を高める並列シスプレックス技術を採用したほか,本社のセンターとバックアップセンターを用意している。コア・アプリケーションを二つの群に分け,それぞれをセンターで本稼働させた。両センター間でデータを交換し,片方のセンターがもう一方をバックアップする。バックアップセンターはほぼ無人で,本社センターから遠隔管理する。

 フィリップス氏によれば,「部門システムやWebサイト,意思決定支援システムについては,オープン・システムを採用している。メインフレーム上のソフトをオープン・システムに移植するつもりはないし,その逆もない」。ただし,Webサイトについては,「今はなんの計画もないが,将来アクセス量がさらに増大したときにz900が代替プラットフォームになるかもしれない」とコメントした。

(谷島 宣之)