携帯電話で高速通信ができる「FOMAサービス」が正式にスタートしたのを受けて,業務に活用しようとする取り組みが,さまざまな企業で広がり始めた。モバイル環境でも簡単な操作で動画を送受信できるメリットを生かして,遠隔地から作業現場を監視したり保守作業に生かそうとする例が多い。

図●竹中工務店はカメラ付きの携帯電話(FOMA端末)「P2101V」(写真左)を業務に利用することを検討している

 NTTドコモが10月1日に開始したFOMAサービスは,通信速度が最大384kビット/秒と速い。カメラ付きの端末()を利用すれば,簡単に動画を送受信できる。竹中工務店はNTTドコモと共同で,FOMAを使った動画伝送システムを構築し,10月1日に稼働させた。システムは,カメラ付きのFOMA端末や,動画データを送信できる固定の監視カメラ,動画や静止画像を保存するデータベース・サーバーで構成する。FOMA端末で撮影した動画や静止画をサーバーに保存して端末間で共有したり,監視カメラの動画をサーバー経由で複数のFOMA端末へ同時にダウンロードできる。

 このシステムを利用して,竹中工務店はFOMAを業務に活用する方法を検討中だ。例えば,動画伝送機能を動画マニュアルの閲覧に使おうとしている。「モバイルの利点を生かして,機械や操作パネルの前で動画のマニュアルを閲覧できると分かりやすい。これまではビデオを見るために事務所に戻る必要があった」(竹中工務店の後神洋介情報エンジニアリング本部課長代理)。

 建設現場の進ちょく状況や危険な場所を撮影して,本社や関係者への説明に利用することも考えている。「カメラ付きFOMA端末で撮影すると現場の様子を,簡単に画像管理用のサーバーに伝送できる。サーバー上の画像を,複数のFOMA端末で直ちに共有できるメリットがある」(後神課長代理)。ただし,現行のFOMA端末に搭載しているカメラの画素数は11万画素と少ない。「デジタル・カメラは古い機種でも30~50万画素あるので画像がFOMA端末よりもきれいだ。FOMAの粗い画像でどの程度まで使えるかを試していきたい」(後神課長代理)。

 また,工事現場に設置した監視カメラの画像は,サーバーを介してFOMA端末で閲覧できる。「現場を管轄する所長は,複数の現場を受け持ち,常に移動している。遠隔地から現場の様子を把握できるメリットは大きい。画質が粗くても電話だけでやり取りするのとは大違いだ」(後神課長代理)。

 このほか全国農業協同組合連合会(JA全農)は,NTTドコモ,富士通と共同で,FOMAを活用する農家向けのシステムを開発し,実証実験を進めている。農家と農協にいる指導員の間で動画をやり取りして,農作物の病害虫を診断したり,農業機械の故障の相談などをするのに使う。動画を利用すれば,カメラを動かしながら問題の個所を特定することが容易になる。

 さらにNTTドコモは,リアルタイムで複数のFOMA端末に動画を配信するシステムを開発した。インターネット経由で送られてきた動画をサーバーで画像変換して,FOMA端末に配信する。警備会社やガス会社,託児所が利用する予定で,監視や保守などに活用する実験を進める計画だ。

(坂口 裕一)