マイクロソフトは10月1日付で製品のライセンス体系を大幅に改訂する。製品価格に応じて決まる一定額を継続的に支払う企業に対して,契約期間内はいつでも製品をバージョンアップできる権利を保証することがポイントだ。3年以上の間隔でバージョンアップをする場合は,事実上の値上げになる。

図●マイクロソフトの「ソフトウエア・アシュアランス」の概念
大量購入の割引制度「Open License」で,サーバー向け製品の場合を例示した。2年ごとに新規ライセンス料の38%を支払えば,契約期間内は自由に何回でもバージョンアップできる
 マイクロソフトは,大量購入ライセンスの契約企業向けに,新制度「ソフトウエア・アシュアランス(SA)」を導入する。SAを契約した企業は,契約期間内はいつでも最新版にバージョンアップする権利を保証される。バージョンアップ回数にも制限はない。その代わり,マイクロソフトは製品価格に一定の料率をかけた金額を定期的にユーザーから徴収する。1年当たりの料率はSQL Serverなどのサーバー向け製品が19%,Officeなどのクライアント向け製品とOS製品が22%である。

 SAの契約期間は,大量購入ライセンスの種類によって異なる。中小企業や部門向けの「Open License」は2年単位,大企業向けの「Select」は3年単位でSAを契約する。契約途中の解約は原則としてできない。

 マイクロソフトの木村務ライセンシング&マーケティング企画室ライセンシング部長は,「SAを利用するかどうかは,お客様が選択すること」とした上で,「あらかじめ決まった金額をお支払いいただくことで,お客様はいつでも最新版の当社製品を利用できる。ライセンス管理も楽になる」とそのメリットを強調する。

 だが,ほとんどの企業にとって,SA制度はバージョンアップ料の値上げになる公算が大きい。今後は割安な「アップグレード・ライセンス」を利用して,新バージョンを購入することができなくなるからだ。

 マイクロソフトはSAの新設に伴って,サーバー製品とデスクトップ製品のアップグレード・ライセンスを廃止する。SAを利用しない企業が,導入済みの製品を最新版にバージョンアップしたい場合は,新規にライセンスを購入し直す必要がある。

 過去の例を見ると,アップグレード・ライセンスの価格は「新規ライセンスの60~70%というのが相場」(中野雅由ソリューションマーケティング部コラボレーション サーバー製品グループマネージャ)だった。つまりSAを利用しても,過去のアップグレード・ライセンスよりも少ない支払い額でバージョンアップできるのは,Open Licenseなら2年以内,Selectなら3年以内に限られる([拡大表示])。

 システムを頻繁に刷新する企業は,SAの登場を歓迎するだろう。JTBで消費者向け電子商取引(EC)サイトのシステムを担当する矢嶋健一氏は「他社との競争上,ECシステムには最新製品を迅速に適用する必要がある。こうした分野では,いつでも自由にバージョンアップができるSAはありがたい」と語る。

 しかし,その一方で一度動き始めたシステムには,できるだけ手を加えたくないと考える企業も多い。こうした企業がSAを,「マイクロソフトが安定的に収益を上げる手段」と見なしても不思議ではない。

(玉置 亮太)