ソフトバンク・グループの格安サービスの登場後,ADSLの値下げ競争が激化している。ADSL専業事業者と組んだニフティなどの大手プロバイダに続き,最大手のNTT東西地域会社も10月1日から“採算ギリギリ”まで料金を下げる。ADSL事業は早くも体力勝負の消耗戦に突入した。

図●主要事業者がADSL料金を相次いで値下げした
それでもソフトバンク・グループの料金は安い

 「販売にかかる営業費を大きく削ってでも,値下げを決断せざるを得ない状況になった。新しい料金は,まさに採算ギリギリの線だ」。NTT東日本の古賀哲夫取締役営業部長は8月29日,ADSLサービス「フレッツ・ADSL」の値下げを発表する際に,こう漏らした。NTT東西地域会社は7月16日にフレッツ・ADSLの接続料金を月額4050円から3800円に値下げしたばかり。しかし2カ月半後の10月1日から,さらに700円安い3100円へ料金引き下げを余儀なくされた(いずれも電話回線と共用する場合の料金)。プロバイダ料金(最も安価な場合で月額1000円)を足して,月額4100円からADSLサービスを利用できることになる([拡大表示])。

 NTT東西は6月28日に最初の値下げを発表したとき,「赤字を出さないために,現状では250円の値下げが精一杯」(古賀取締役)としていた。だが,NTT東西の予想以上に値下げの圧力は強かった。

 ソフトバンク・グループが6月19日,NTT東西に支払う回線使用料(月額187円)とプロバイダ料金込みで,月額2467円の格安ADSLサービス「Yahoo! BB」を発表して以降,競合各社はこぞって大幅値下げに走った。

 例えば,So-netを運営するソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)は8月15日,ADSLサービスの料金を月額5800円から月額3167円に45%も下げた。ADSL専業事業者のアッカ・ネットワークス(東京都千代田区)と組むことで実現した。ニフティ,NEC,NTTコミュニケーションズの大手3社も9月1日から,そろって月額4167円に値下げした(4社とも回線使用料とプロバイダ料金を含む)。

 中堅プロバイダのなかには,Yahoo! BB並みの料金を設定してきたところもある。例えば,近鉄ケーブルネットワーク(奈良県生駒市)は10月1日から月額料金を2387円に設定した。

 相次ぐ値下げは,ADSL事業者やプロバイダの体力を著しく消耗させる。8月末の加入者が両社合わせて約30万件というNTT東西の場合,今回の値下げは合計25億2000万円の減収要因となる計算だ。これはNTT東西にとって少ない金額ではない。2001年3月期の経常利益をみると,NTT東日本は141億円の黒字だったが,西日本は1057億円の赤字だった。

 企業規模がNTT東西より格段に小さいADSL専業の事業者やプロバイダにとって,状況は一層深刻だ。ソフトバンク・グループのように,コンテンツの販売収入や広告収入によって,ADSL事業の投資回収を目論む企業もあるが,成否は未知数だ。泥沼の値下げ競争が続けば,最後はNTT東西が有利になる,という見方もある。米国ではADSL専業事業者の倒産が相次いでおり,回線を握る通信事業者系のADSLサービスが最後に生き残った。

(川又 英紀)