国税庁による電子納税・電子申告システムの調達案件をNTTデータが6月末に落札したことが明らかになった。このシステムの実験案件は5億5000万円超の予算だったところを,昨年7月にNTTデータがわずか1万円で落札して話題を呼んだ。今回の入札には同社と沖電気工業しか参加しなかった。
NTTデータは,国税庁による電子納税・電子申告システムの設計と開発を9億8000万円で落札した。同システムの調達案件に応札したのは,NTTデータのほかには沖電気工業だけだった。NTTデータの応札価格は沖電気(13億2600万120円)よりも安かった上に,提案内容の評価でも沖電気を上回ったので,落札に成功した。
これだけならば,よくあるシステム調達案件の一つに過ぎない。だが,このシステムを巡っては,水面下を含めさまざまな動きがあった。
最初は,超安値落札だ。国税庁は昨年7月,本番システムの性能や使い勝手を検証するため,5億5210万円の予算で実験システムを入札にかけた。これをNTTデータが1万円で落札(表)。社会的な批判を浴びた。公正取引委員会からも,「超安値落札を繰り返せば独占禁止法に触れる可能性が出てくる」と口頭で注意を受けた。
こうしたこともあり,国税庁は本番システムでも競争入札を実施した。官公庁のシステムの調達では,実験システムで競争入札を実施するだけで,本番システムは,実験システムを落札したベンダーに随意契約で発注するケースが多い。だが,「国税庁が意識的に随意契約を避けた」(ベンダー幹部)とされている。
しかも「国税庁は入札に積極的に参加するよう,多くのベンダーに呼びかけた」(別の大手ベンダー幹部)。にもかかわらず入札には,NTTデータと沖電気の2社しか参加しなかった。国税庁からの参加要請を受けたベンダーのほとんどが「実験システムを押さえたNTTデータに勝つのは難しい」と判断したことになる。
本番システムの予算額は17億600万円だった。「官公庁向けのシステム開発にかかるコストは,当初予算の半額程度というのが相場」(前出の大手ベンダー幹部)なので,9億8000万円で落札したNTTデータはなんとか赤字を免れそうだ。ただし,1万円で落札した実験システムと合算すると,利益を上げられない可能性が大きい。
本誌の問い合わせに対して,NTTデータは「今回の電子納税システムの応札価格は適切と認識している」(広報)とだけ回答した。
NTTデータが電子納税システムにこだわったのは,今後のビジネス展開に大きな期待を抱いているからだ。国税庁は来年度以降も,電子納税システム関連で,さまざまな調達を予定している。開発・設計業務を受注したNTTデータが,競合他社を大きくリードすることは確実である。すでに官公庁向けのシステムを手がけるベンダーのなかには「今回の落札でレールは敷かれた。来年度以降の調達は,NTTデータに対する随意契約となるのではないか」という見方もある。
国税庁の電子納税システムは税務申告だけに限らず,企業と政府の間の電子商取引の基盤となる可能性も秘めている。「電子納税システムを開発すれば,企業と政府間の電子商取引で新たなビジネスを獲得できる」という読みがNTTデータにもあったはずだ。
国税庁での実績は,全国の地方自治体が利用する地方税の電子納税システムの調達案件でも強力な武器になる。
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表●国税庁の電子申告・電子納税システム関連の政府調達のスケジュール 2002年4月以降の調達に関しては,競争入札なしで落札企業を指名する随意契約になる可能性もある |