米マイクロソフトがモバイル分野の劣勢ばん回に力を入れ始めた。Windowsの流れをくんだ携帯電話向けOSを来年初めにも投入し,パソコンと同じ環境をモバイルでも再現できるようにする。Webサービス向け基盤も,携帯電話をはじめとするモバイル機器からの利用を視野に入れて開発する。

図●米マイクロソフトが考える,次世代のモバイル環境
各種モバイル端末向けOS,データ変換用のサーバー・ソフト,Webサービス開発用の基本サービス群を,それぞれ提供する
 米マイクロソフトがモバイル分野に本気で取り組んでいる。同社の次世代戦略「.NET」を現実のものにするには,「モバイル分野の強化が不可欠」(米マイクロソフトでモバイル関連製品のマーケティングを担当するユハ・クリステンセン副社長)と判断した。.NETは,「いつでもどこでもだれでも,必要な情報にアクセスできる環境を提供できる」というビジョンを掲げているが,今のところ,マイクロソフトはモバイル市場の“足場”を固め切れていない。PDA(携帯型情報端末)市場ではPalm OS搭載機に後れを取っている。携帯電話の世界で,マイクロソフトの存在感はゼロに等しい。

 巻き返しを狙うマイクロソフトは,来年前半の製品化を目指して,複数のモバイル向け製品を同時に開発している。その基本コンセプトは「Windowsパソコンとまったく同じ機能とサービスを,モバイル環境でも利用できるようにする」ことだ。得意の“リッチ・クライアント”戦略をモバイル分野でも推し進める。

 こうした方針は,同社初の携帯電話向けOS「Stinger(開発コード名)」に端的に表れている。このOSは,パソコンの「Office」で作成した文書用の閲覧ソフトや,「Outlook」類似の電子メール・ソフト,「Media Player」のような動画・音声再生ソフトなどを満載する。いわば「携帯電話版Windows」である。

 マイクロソフトは来年初めの完成を目指して,Stingerを開発している。すでに英ボーダフォンをはじめとする欧米の携帯電話会社4社が,採用を決めている。マイクロソフトのクリステンセン副社長は,日本市場の開拓にも自信をみせる。「Stingerを使えば,Java搭載の携帯電話よりはるかにリッチな環境を実現できる。新技術に敏感な日本の携帯電話会社は無視できないはずだ」と,強気な姿勢を崩さない。

 Stinger搭載の携帯電話が普及すれば,マイクロソフトが来年前半の実用化を目指すWebサービス向け基盤「Hailstorm(開発コード名)」も,がぜん現実味を帯びてくる。Hailstormには,個人認証や電子決済,位置情報表示といった,モバイル端末を意識した機能が多数盛り込まれている([拡大表示])。

 なおマイクロソフトは,日本の携帯電話からサーバー上の業務アプリケーションなどにアクセスするソフト「Mobile Information 2001 Server日本語版」を開発中だ。来年前半にも出荷する見通し。

(玉置 亮太)