サイボウズとネオジャパン(横浜市)の間で争われていたWebグループウエア・ソフト製品の模倣紛争に司法の判断が下った。東京地方裁判所は6月13日,ネオジャパンの製品が,サイボウズの「Office2.0」の著作権を侵害しているとして,同ソフトの販売と使用許諾を,事実上,禁じる仮処分を出した。

 仮処分の対象は,ネオジャパンのWebグループウエア製品「iOfficeバージョン2.43(V2.43)」。東京地裁は「V2.43の画面表示はOffice2.0に酷似しており,当社の著作権を侵害している」とするサイボウズの主張を認め,V2.43の頒布や使用許諾を禁止する仮処分を決定した。

 ネオジャパンがiOfficeの最初の製品を1999年1月に発売した直後から,サイボウズは「著作権侵害の疑いがある」とネオジャパンに通告していた。ネオジャパンはサイボウズの通告に配慮して,「わずかでも著作権侵害の恐れのある部分はすべて改変した」(ネオジャパン幹部)製品(バージョン2.x)を新たに投入したが,東京地裁はネオジャパンの主張を認めなかった。サイボウズは今年1月に,iOfficeの頒布や使用許諾の禁止を求めて仮処分を東京地裁に申請していた()。

 今回の東京地裁の判断は,ソフトウエアの画面表示に関する著作権侵害を認めた点で画期的なものだ。ソフトウエアの画面表示に,著作権の有無の前提となる「創作性」が認められたことは,これまでほとんどなかった。ただし東京地裁は単なる画面の類似性だけでなく,両製品のソースコードや画面遷移などに散見される“不自然”な一致も考慮したと考えられる。

 本誌の取材によると,ネオジャパンの別の製品に関しても,ソフトの類似性を巡るトラブルが起きている。このことが東京地裁の判断に影響を与えた可能性も否定できない。

 システムズナカシマ(岡山市)は昨年半ば,同社が開発した営業支援ソフト「NICE営業支援物語」と,ネオジャパンの同種の製品「iOfficeSSS」の間に,「不自然な類似が見られる」として,内容証明付き郵便で,著作権侵害の疑いを警告している。これに対して,ネオジャパンからは「『著作権侵害に当たるとは考えていないが,誤解を招く部分についてはソフトを改修する』という旨の回答があった」(システムズナカシマ東京支店の齋藤敏信システム営業二課長)という。資金的な問題などもあって,現時点では,システムズナカシマにネオジャパンを訴えるつもりはない。

 東京地裁の仮処分に対して,ネオジャパンは「V2.43は,悪質な模倣や無断複製行為によって作成したものではない。仮処分を決定した東京地裁の見解には疑問を感じる」といった趣旨の文章を同社のWebサイトで公開している。仮処分に対する異議申し立ても準備中だ。システムズナカシマとのトラブルに関しても,本誌はネオジャパンに問い合わせたが,6月22日時点で回答は得られなかった。

 サイボウズはiOfficeの現行製品(バージョン3.0)に関しても,同様の仮処分を求めていたが,東京地裁は認めなかった。サイボウズは今後,バージョン3.0の著作権侵害の有無を法廷で争う方針だ。

(中村 建助)

時期  
1997年10月 サイボウズがOffice1を出荷
1998年8月 サイボウズがOffice2を出荷
1998年12月 ネオジャパンがiOfficeバージョン1のβ版を出荷
1999年1月 ネオジャパンがiOfficeバージョン1を発売。直後にサイボウズから「著作権侵害の疑いがある」との通告があり,同製品の販売を中止
1999年2月 ネオジャパンがiOfficeバージョン2を出荷
1999年9月 サイボウズがOffice3を出荷
2000年10月 サイボウズがOffice4を出荷
2001年1月 ネオジャパンがiOfficeバージョン3.0を出荷
2001年1月 サイボウズが東京地方裁判所に,ネオジャパンのiOfficeバージョン2.43とiOfficeバージョン3.0の頒布や使用許諾の差し止めを求める仮処分を申し立て
2001年6月 東京地裁が,ネオジャパンに対してiOfficeバージョン2.43の各種メディアやオンラインによる販売,頒布,使用許諾を禁止する仮処分を決定
表●サイボウズOfficeとネオジャパンiOfficeの製品リリース時期と,両社の紛争の経緯