現実世界の商標が,ドメイン名でも保護されることが明確になってきた。クレジットカード会社のジャックスに続き,今度はジェイフォン東日本(J-フォン)が,他社が先行登録した自社商標名のドメイン名を裁判で取り戻すことに成功した。しかし一方で,「不正使用」の定義が不明確なことを懸念する声もある。

表●ドメイン名「j-phone.co.jp」を巡る紛争の経緯
 J-フォンが「j-phone.co.jp」の使用差し止めなどを求めていた裁判で,東京地方裁判所は4月24日,当該ドメインの登録者にドメイン名の使用停止を命じる判決を出した。J-フォンは昨年4月,登記簿上は東京都港区内に本社を置く大行通商を相手に,ドメイン名の使用差し止めと損害賠償を求める訴訟を起こしていた([拡大表示])。

 「当社のブランド・イメージを傷つけるような行為を看過できなかった」。J-フォン総務部法務グループの宮崎広臣リーダーは,提訴の理由をこう説明する。「大行通商は登記簿上の住所に存在しない,実体のない会社だった。提訴前に再三,内容証明郵便を送り,話し合いを求めたが,回答を得られなかった」という。J-フォンによると,大行通商は「j-phone.co.jp」上に開設したWebサイトに「J-PHONE」と表示したうえで,改造携帯電話を販売したり,NTTドコモを非難するメッセージを掲載していた。

 「今回の判決によって,ドメイン名においても,商標などの知的財産権は保護される,という司法の見方が定着した」。インターネット関連の法律問題に詳しい森綜合法律事務所の横山経通弁護士は,こう語る。政府は現在,「商品等」の名称をドメイン名に不正目的で使うことを禁止できるよう,不正競争防止法の改正準備を進めている。この法改正が実現すれば,商標や商号といった現実世界の規則を,インターネット上のドメイン名に適用する流れは,完全に定着するだろう。

 ただし,一連の動きに対して,「具体的にどういった行為がドメイン名の不正使用にあたるか,明確なガイドラインがないまま判例や法律が積み重なるのは危険」といった声も聞こえてくる。

 もちろん,ドメイン名を悪用されて困っている企業は多く,これを阻止する制度は必要だ。だが,悪意はなくても,企業の商号や商標に関係するドメイン名を以前から保有する企業は多い。例えば,オーストラリア・シドニーに本社を置く企業「J-Phone」は,日本でJ-フォンの商標が利用される以前から,「www.j-phone.com.au」というドメイン名で,豪州を訪れる邦人向けの携帯電話レンタル事業を展開している。同社の浦松亮輔社長は,「当社が苦労して育て上げたブランドが,日本企業のコピーと誤解され,迷惑している。しかし,日本では当社のような企業もドメイン名を後発企業に奪われる可能性がある」と語る。

 JPNICは今後,ユーザーが安心してドメイン名の運用を自由に行えるよう,何が不正使用にあたるのか,明確なガイドラインをユーザーに示す必要があるだろう。JPNICでドメイン名の紛争を担当する丸山直昌副理事長は,「何が不正かという議論は,世の中で深めるべき」と前置きしたうえで,「今後JPNICとして,世の中のコンセンサスをまとめたり,議論の場を提供すべきだろう」とコメントした。

(井上 理)