生物のように環境変化に応じて自らを調整できるサーバーの開発を目指すという,米IBMの「eLiza」計画は,同社が進めていた複数の研究・開発プロジェクトを統合したものだ。新しい名称をあえて付け,サーバー事業で快走するサン・マイクロシステムズから,主導権の奪回を狙う。

 IBMは4月26日に,アナリストを集めた会議でeLiza計画を発表した。発表によれば,IBMのサーバー関連の研究所や開発部門の技術者を動員し,「セルフ・マネージング・サーバー」を実現するという。セルフ・マネージングの一例として,アクセスなどワークロード(負荷)の急増に対し自動的にシステム資源を割り当てたり,ハード障害時に故障部分を自動的に切り離す,といった機能が挙げられた。

 本誌の調べでは,eLiza計画は,IBMが進めていたプロジェクト群をまとめたもので,まったく新たな開発が始まったわけではない。研究所やサーバー開発部門で個別に実施してきた研究・開発プロジェクトをeLizaという名称の下にまとめて,加速させようというわけだ。実際,「eLizaの発表と前後して,いくつかの研究プロジェクトについて,開発費や研究員が増強され,製品化を急ぎ始めた」(IBM関係者)。

 eLiza計画には,IBMが全社を挙げてセルフ・マネージングの実現に取り組んでいることを公表し,顧客にIBMの先進性を訴える狙いも込められている。IBMは社内に向けたメッセージの中で,「IBMは技術と思想においてリーダーシップを確立しつつある。セルフ・マネージング・サーバーの領域に,サン・マイクロシステムズは存在しない」と述べた。

表●米IBMのプロジェクトeLizaを構成する主なサブプロジェクトの概要
 IBMの発表を整理すると,eLizaは2種類のプロジェクトに大別できる。複数のサーバー群を一つのシステムとして動かし,セルフ・マネージング機能を実現するものと,1台1台のサーバー自体にセルフ・マネージング機能を持たせるものである(表参照[拡大表示])。

 複数サーバーを対象にしたプロジェクトとして,サーバー部門が進めている「ABC(Advanced e-Business Council)」がある。ABCは,IBMのサーバー群に必要な新機能を開発するためのもので,サーバー部門の技術者に加え,米国の大手ユーザーも参加している。

 ABCの中で,最優先課題となっているのが,「ヘテロジニアス・ワークロード・マネジャ」の開発である。IBMのメインフレームとオフコン,複数メーカーのUNIXサーバーやパソコン・サーバーをネットワーク接続した環境下で負荷を自動分散させるものだ。

 IBMのワトソン研究所では,「Oceano」という研究プロジェクトが進んでいる。ABCが現実の製品群に機能を実装していくのに対し,Oceanoは一から理想的なセルフ・マネージング機能を作り上げるものだ。大量のLinuxサーバーを設置し,このサーバー群の中で負荷分散を実現する。ダウンしたサーバーを切り離したり,必要に応じてサーバーを増設するといった作業を自動化していく。IBMは今年後半以降にOceanoの成果物の一部を顧客に提供する予定だ。

 一方,サーバー単体を対象にした研究プロジェクトとして,「Blue Gene」がある。これは,たん白質を解析する演算処理のために,超高速・無停止スーパーコンピュータを実現するもの。たん白質の解析にあたっては,1年以上も計算を続ける必要があり,Blue Geneの中でハード障害を自動回復する機能を研究する。

 IBMはメインフレームで実現した「インテリジェント・リソース・ディレクタ(IRD)」と呼ぶ負荷分散機能も,セルフ・マネージングの一環としている。IRDの他のサーバーへの移植は年内にも終える。

(谷島 宣之)