NTTドコモと独SAP,SAPジャパンの3社が,モバイル・コンピューティング分野で提携した。「携帯電話と業務アプリケーションの“巨人”が手を組むことで,携帯電話の業務利用を一気に加速させる」とぶち上げる。だが,提携の成果物をどのようなモノにするかは,ほとんど決まっていない。

 「ワイヤレス分野で先頭に立っているドコモと,ERP市場のリーダーであるSAPが手を組めば,“何か良いもの”ができるはずだ」。4月12日の発表の際の小野伸治NTTドコモ常務の発言が,良い意味でも悪い意味でも今回の提携を象徴している(写真[拡大表示])。

写真●提携の握手を交わすNTTドコモの小野伸治常務(左)とSAPジャパンの藤井清孝社長(右)。下はドコモの次世代携帯電話「FOMA」の試作機

 携帯電話とERPパッケージ(統合業務パッケージ)のそれぞれのトップ企業が手を組むインパクトは確かに大きい。SAPジャパンの藤井清孝社長は「両社のノウハウを組み合わせれば,今までにない新しいモバイル・アプリケーションが生まれる」と自賛する。

 だが,「携帯電話の業務利用を推し進める」というスローガンだけが先行して,提携の細部はほとんど決まっていない。唯一はっきりしているのは,NTTドコモとSAPが,携帯電話から利用できる,業務アプリケーションを共同開発し,今後6カ月から1年以内に出荷する,ということだけである。

 肝心の業務アプリケーションの中身も,期待を大きく裏切る。両社が共同開発を予定しているのは,「R/3」をベースとした営業支援ソフトに,NTTドコモのiモード携帯電話からのアクセス機能を付加しただけのもの。R/3はすでにiモード携帯電話からデータを参照・更新する機能を備えているので,共同開発のアプリケーションに目新しさはまったく感じられない。

 NTTドコモは,「SAPと共同開発した業務アプリケーションを武器に,携帯電話事業の海外展開を推し進める」としている。だが,この構想が実を結ぶのは,かなり先になる。

 確かに,NTTドコモは,海外展開の本命と考えている次世代携帯電話「FOMAフォーマ」のサービスを今年5月から国内で始める(関連記事)。しかし利用可能な地域が限定されることもあって,「しばらくの間はそれほど多くの端末は出回らない」(NTTドコモの小野常務)。

 このため共同開発のアプリケーションは当面,iモード用に作る。FOMAへの移植は,端末がある程度復旧してからになる。どんなに早くてもFOMAの全国展開が終わる2002年春以降だろう。

 ここ数年,NTTドコモはIT(情報技術)業界のトップ・ベンダーとの提携を積極的に進めてきた。しかし,今のところ,その成果はあまり見えていない。その代表が1999年3月に発表した米マイクロソフトとの提携。NTTドコモとマイクロソフトは,携帯電話向けサービスの共同開発などを華々しく発表した。しかし2年間の成果は,Windows CEを搭載した携帯情報端末をNTTドコモのブランドで販売している程度にとどまる。

 今回のSAPとの提携が,単なる「株価対策」に終わってしまう可能性も否定できない。

(栗原 雅)