「IBMとの提携の狙いは,お互いの強みを持ち寄り,サーバーの各コンポーネントを共同開発し,高性能で信頼性の高いサーバーを作ること。今後も日立は物作りをきちんとやっていく」。日立製作所の小高俊彦専務は本誌にこう語り,「日立がIBMのサーバーを組み立てる下請けになる」という見方に反論した。

表●日立製作所と米IBMが3月13日に公表した「戦略的提携」の内容
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 日立製作所と米IBMは3月13日に戦略的提携の内容を公表した。しかし,コンピュータ業界では,「共同開発とは名ばかりで,IBMがサーバーのプロセサを日立に供給し,日立はそれを使って製品を組み立てるだけ。日立は事実上,サーバーの開発・製造から撤退する」という見方が主流だった。

 小高専務はこうした見方について,真っ向から反論した。「確かに,プロセサ・コアについては,IBMのものを使う。しかし,プロセサ・コアと組み合わせるキャッシュ・メモリーや,プロセサ・コアとメモリーをパッケージングする技術については日立が貢献する。最終的なサーバー製品に仕上げる工程においても,これまで通り,徹底して品質を追求する」。

 ただし,小高専務は大きな方向性を指摘するにとどまり,詳細については言及しなかった。本誌は独自取材を通じて,日立がどこまで開発に関与しているのかを検証した。その結果,これまで指摘されていたよりも,日立の貢献が大きいことが判明した。

 まず,メインフレームについてはIBMと日立が協力して,複数のプロセサ・コアやメモリーを一つのパッケージに実装したMCM(マルチチップ・モジュール)を開発・製造する。新MCMに搭載するプロセサ・コアやキャッシュ・メモリーはIBMが開発・製造する。IBMは日立と協力して,日立のメインフレームOS「VOS3」向けの命令セットをこのプロセサ・コアに追加する。

 これだけでは共同開発というのは苦しいが,日立は自社のパッケージング技術を使ってMCMを作り上げ,さらにメモリー・カードや電源など各種コンポーネントを用意して,最終的なメインフレームを製造する。このメインフレームを2002年第1四半期(1~3月)から販売する。さらにIBMへOEM供給し,IBMは中型メインフレームとして販売する。より大型機についてIBMはMCMを含め独自開発する。

 この結果,日立はIBMとほぼ同時期に,最新のプロセサ・コアを使ったメインフレームを出荷できる。これまでは「IBMは日立に一世代前のプロセサ・コアしか提供しないのではないか」という見方が出ていた。

 UNIXサーバーについては,日立はいっそう開発に貢献する。POWERプロセサのコアをIBMが,キャッシュ・メモリーを日立が,それぞれ開発するためだ。UNIXサーバーも中小型機は日立が製造し,2002年中にIBMへOEM供給する。

 今後,日立は「共同開発」における日立の比重がより高まるように積極的にIBMへ働きかける。すでにPOWERプロセサ次期バージョンを共同開発することが決まっている。メインフレームでも日立製キャッシュ・メモリーを採用するように提案するとみられる。

(谷島 宣之,森 永輔)