一般家庭まで光ファイバを引き込み,超高速のインターネット常時接続を実現する「FTTH(fiber to the home)」。この3月1日から東京の一部地域で初の商用FTTHサービスを開始した有線ブロードネットワークスの宇野康秀社長は,「動画もストレスなく楽しめるブロードバンドの魅力を,より多くの方に知ってもらいたい」と語る。同社のサービスは通信速度が最大100Mビット/秒で月額4900円と破格の安さ。ブロードバンドの特徴を生かし,娯楽性豊かなコンテンツ・サービスの提供にも力を入れるという。

写真撮影:柳生 貴也

――100Mビット/秒という,まさに「ブロードバンド(広帯域)」と呼べる常時接続サービスを開始されました。宇野社長自身は,その意義をどう考えていますか。

 ブロードバンドの定義はなかなか難しくて,どのくらいの通信速度からがブロードバンドなのか,はっきりしない面もあります。ただ最近は,テクノロジの変化や生活の変化をもたらすキーワードとして,ブロードバンドという言葉が使われていると思います。その変化とは,例えばネットで動画を見たり,非常に大容量のデータを送れるようになることです。中でも象徴的なのは動画の配信ですね。これによって通信と放送の垣根もなくなる。

 動画をスムーズにネットワークで流すには,30Mビット/秒以上の速度が必要だとされています。当社が始めた100Mビット/秒のサービスは,みなさんの期待にこたえるものと意義付けできると思います。

ビジネスは十分に成り立つ

――当初は10Mビット/秒のサービスも考えていたそうですが。

 実は,ネットワーク自体は最初から100Mビット/秒を想定して設計してあります。事業計画をつくる上で,10Mと100Mにメニューを分けて別の料金体系で提供することを検討しました。そのほうがビジネス的に良かろうと考えたからです。

 しかし,10Mだろうと100Mだろうと同じネットワークを使うので,原価コストは変わりません。それなら,わざわざ“通りの悪いもの”を提供することもない。ブロードバンドが待ち望まれている中で,従来のナローバンド(狭帯域)とは明らかに違うことを,より多くの方に体験していただきたい。そう考えて100Mビット/秒にメニューを一本化しました。

――光ファイバを使った超高速のサービスとしては料金が月額約5000円と格安です。本当にこれで事業は成り立つのですか。

 当然,この料金でやっていけると判断して設定しました。きちんと採算が取れるようになっています。ただ,現時点では残念なことに,需要が十分にあって収益の出る地域でしかサービスを提供できません。だからこそビジネスが成り立つと言えるわけですが。

 利用者側から見た場合に,サービスを受けられる地域とそうでない地域がある。これは我々にとって解決すべき最大の課題です。サービスを提供する側としてはできるだけ早く,全国にくまなく展開したいと考えています。当社が手がけている有線放送サービスの提供地域は全国の約98%の市町村をカバーしており,FTTHサービスでも将来的にはそこまで狙っていきたい。そのためにはインフラのさらなるコストダウンを図る必要があります。光ファイバ網の敷設にあたっては,既存の有線放送用のケーブル設備も活用していきます。

――NTTの東西地域会社もFTTHの試験サービスを行っており,近く本サービスを開始する予定です。仮にNTTが料金面などで強力な対抗措置を取ってきたら,どうでしょうか。

 もともとNTTに対抗しようという発想はまったくありません。そもそも会社としての成り立ちが全然違うし役割も違うからです。NTTに対して批判的な意見を言う方も一部にいますが,私はNTTがこれまでやってきたことを評価しています。

 ただし,FTTHというサービスについて言えば,今後はシェアの獲得競争になっていくだろうと思います。NTTと我々のようなコンペティタがマーケットで争うのはごく自然なことです。我々はそのマーケットにおいて,一定のシェアを獲得できればよいと考えています。

企業で狙うのは中小とSOHO

――今回のFTTHサービスでは,インターネットへの接続だけでなく,映画や音楽,ゲームなどのコンテンツ・サービスも合わせて提供しますね。その理由は何ですか。

 近い将来,ブロードバンドを生かしたコンテンツは,インターネット上にもたくさん出てくると思います。ただ現状では,ナローバンド向けのコンテンツしか流通していません。そこで我々が,ブロードバンドのインフラと一緒にさまざまなコンテンツも用意することにしました。コンテンツ・サーバーは我々のネットワークの内部に置くので,サービスの利用者は動画もスムーズに見ることができます。

 商用サービスに先立って東京・世田谷区で行った実験では,モニターの方々から驚きや喜びの声がたくさん寄せられました。我々が100Mビット/秒のサービスを始めると発表したとき,「100Mなんて使いこなせない」という意見もあったのですが,大容量のコンテンツに対する関心や要望は,着実に高まっていると言えます。

 コンテンツとして動画を用意することには,もう一つ大きな意味があります。一般の方々にブロードバンドのメリットを知ってもらうには,サービスに「エンタテインメント性」が必要だからです。確かにインターネットには便利な面がありますが,その便利さを享受しているのは主にビジネス・ユーザーでしょう。一般の人々はどちらかというと,便利さよりもエンタテインメント性を求める傾向にあります。

――コンテンツはどのように揃えていくのですか。

 全部を自前でつくることは考えていません。我々は基本的に「プラットフォーマー」という位置付けで,コンテンツをつくる事業者のお手伝いをします。ブロードバンドのインフラを提供し,コンテンツの課金やユーザーの認証を代行することで,コンテンツ事業者がよりビジネスをしやすいようにします。ブロードバンド向けコンテンツの開発・普及を促すという狙いもあります。コンテンツが増え,利用者が増えれば当社の収入も増えていく。ビジネス・モデルとしては「iモード」に似ていますね。

――利用者が増えてネットワークが混雑すると,スループットが落ちることもあるのでは?

 少なくとも我々のネットワーク内においてはその心配はありません。トラフィックが増えてきたらバックボーンの回線を増強したり,コンテンツ・サーバーを利用者に近い場所に置いたりして,混雑を回避していきます。

――企業ユーザー向けにはどのようにサービスを展開するのですか。

 当社のFTTHサービスは,大企業向けに専用線のような環境を提供するものではありません。企業でも個人ユーザーと同じネットワークを使ってもらいます。セキュリティ対策についても個々の企業の責任でやっていただくことになります。このためメインのターゲットと考えているのは,中小の法人やSOHOのユーザーです。

 そうした中小法人に対しては,インフラと同時に業務上のソリューションも提供する必要があると思います。我々は以前から,グループ会社やパートナ企業と協力して中小法人向けの様々なサービスを提供しています。例えばサーバーのホスティングやモールの構築,ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ),マーケットプレイスといったサービスです。FTTHサービスの開始を機に,これらをさらに充実させていきます。

「オールジャパン」のインフラをつくる

――通信事業子会社のユーズコミュニケーションズはどのような役割を果たすのですか。

 ユーズコミュニケーションズは第一種電気通信事業者としてFTTHサービスのインフラを提供し,有線ブロードネットワークスは第二種電気通信事業者としてそのリセールを行います。つまり,有線ブロードはリセールとコンテンツをパッケージにしてユーザーに提供する形になります。

――ユーズコミュニケーションズは最近,総額70億円の第三者割当増資を行い,国内の大手ベンダーなど24社から出資を受けました。その狙いは?

 一つには,今回のインフラをつくるにあたって「オールジャパン」でやりたいという構想を持っていたからです。特定のだれかのものというよりも,日本の公共インフラという位置付けにして,みんなで協力し合ってつくっていきたい。そう考えて,各業界の方々に幅広く出資を呼びかけました。資本参加された各企業には今後,ネットワークの設計,システム開発,光ファイバの供給・敷設,コンテンツ,広告,中小法人向けアプリケーションといった,それぞれの得意分野ごとに協力をしていただく考えです。

(聞き手=本誌副編集長,杉山 裕幸)