公正取引委員会が官公庁システムの超安値落札にメスを入れた。電子政府関連の調達で,極端な安値落札が続出していることを問題視した公取委は1月31日,実態の調査結果を発表。併せて,大手ベンダー4社に対して,「超安値落札を続ければ,独占禁止法に触れる可能性がある」と注意したことを公表した。
公取委が,官公庁システムの調達に関して,民間企業を注意したのは,1989年の「1円入札」事件に対してのもの以来,11年振り。公取委は,今回注意を受けた企業名を公表していないが,NTTデータ,日本アイ・ビー・エム,日本ユニシス,松下通信工業の4社であることが,本誌の調査で明らかになっている。4社は1999年7月から2000年8月にかけて,到底採算のとれない異常な低価格で政府の調達案件をそれぞれ落札していた(表)。
今回の公取委の注意は,「口頭による非公式なもの」で,独占禁止法に基づく公式な処罰ではない。とはいえ,公取委が特定の民間企業に対して,「システム調達案件の超安値落札は,独占禁止法が定める不当廉売に当たる恐れがある」と警鐘を鳴らした意味は大きい。NTTデータ,日本IBM,日本ユニシス,松下通信工業の各社は,本誌の問い合わせに対して,「公取委から注意を受けた事実を重く受け止め,再発防止を社内に周知徹底させる」という趣旨のコメントをそれぞれ出した。
もちろん,4社は“氷山の一角”に過ぎない。ほとんどの大手ベンダーは,常識外れの超低価格で官公庁システムを落札した“実績”がある。特に行政の諸手続きを電子化する「電子政府」関連の調達案件では,大手ベンダー間の価格競争が過熱している。
今回の公取委の動きが,超安値落札を必要悪とみなす大手ベンダーの風潮に一石を投じたことは間違いない。公取委は「今後も大手メーカーが超安値落札を続ければ,中小企業やベンチャー企業が,電子政府関連のシステム構築を受注することが事実上不可能になる危険性がある」と判断して,「口頭での注意」という形の指導に踏み切った。「今後も同様の安値落札が続くようであれば,厳正に対処する」とくぎを刺す。
一方で公取委は,現行の調達制度の改善も求めている。現在,官公庁の調達で一般的な「総合評価落札方式」は,システム提案の評価ポイントを応札価格で割り算する。応札価格によって評価が大きく上下するため,どうしても価格競争になってしまう。
公取委は,今回の実態調査結果の発表と合わせて,調達制度の見直しを中央省庁に要請した。これを受けて経済産業省などは,「ソフトウェア開発・調達プロセス改善協議会」を1月31日付で発足させた。協議会は,米カーネギメロン大学が開発した「能力成熟度モデル(CMM)」と似た評価基準の採用や,総合評価落札方式の見直しを含む改善策を早急に打ち出す方針。早ければ2001年度後半から,改善策に沿った方式で,調達を始める官公庁が登場する見通しだ。
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表●公正取引委員会が不当廉売の恐れがあるとして口頭注意した企業と,問題になった調達案件 |