モバイル端末を本格的な業務に適用する企業が増えてきた。「成功の決め手は使いやすさ」と考えたキューサイや紀文フレッシュシステム,岐阜銀行は,それぞれ独自に作り込んだハードやソフトをiモード携帯電話やPalm OS搭載機などに組み込んでシステムを構築。ユーザーの利便性や信頼性を高めて,営業や商品配送といった基幹業務の効率化に挑んだ。各社は,モバイル端末の性能や機能が向上しても,きめ細かな作り込みが不可欠と判断した。

 多くの企業が,iモード携帯電話やPalm OS搭載機,Windows CE搭載機といったモバイル端末を大量導入して,基幹業務の効率化を狙ったシステムの構築に取り組み始めた。これらのモバイル端末は,以前に比べて小型軽量で安価になる一方,主記憶容量や処理速度といった性能面の強化も進んでいる。だが,本格的な業務利用に挑んだユーザー企業各社は,モバイル端末の標準機能だけでは不十分と判断。独自に作り込んだハードやソフトをモバイル端末に組み込むことで,使い勝手やシステムの信頼性をさらに高めようとしている。

 健康飲料「青汁」を販売するキューサイと,紀文食品(東京都中央区)の物流業務などを担当する紀文フレッシュシステム(東京都大田区)は,画面表示やデータ入力などの操作を容易にするための工夫を凝らした。

 第二地銀の岐阜銀行は,データを暗号化するためのソフトを独自開発し,営業担当者が利用するWindows CE機に搭載。手軽に持ち運べる使い勝手の良さとセキュリティ・レベルの高さの両立を図った。

写真1●キューサイはiモード携帯電話用のバーコード読み取りシステムを独自開発した
専用のモジュールを携帯電話下部のコネクタに接続して,バーコード・スキャナにつなぐ。モジュールはバーコード情報を,iモード携帯電話の入力情報に自動変換して,携帯電話に送り込む

iモードの全操作をバーコードで

 キューサイがiモード携帯電話を使って構築したのは,同社が会員制で販売している主力商品の青汁を対象にしたPOS(販売時点情報管理)システム。全国に約1万1000人いる販売員が訪問先の一般家庭などで,iモード携帯電話に販売データを入力し,キューサイの本部にあるサーバーに送信する。「販売員一人ひとりがiモード携帯電話で収集した販売データを,本部で分析することで,販売員ごとに最適な販売計画を立案したり,適切なアドバイスができるようになる」(代表取締役専務営業本部長の長谷川浩氏)。

 2000年10月には,約30人の販売員を選んで,POSシステムのテスト運用を開始。2001年末までに全販売員に展開する計画だ。

 販売員はiモード携帯電話のほか,バーコード読み取りシステムと,バーコードが印刷された2種類の用紙を携行する。販売員は,一方の用紙のバーコードを読み取って,携帯電話に顧客の会員番号を入力。続いて,もう一方の用紙を使い,バーコードで商品の販売数量を入力したり,販売データの送信処理を実行する。iモード携帯電話のキー操作はいっさい不要だ。

 バーコード読み取りシステムは,汎用のバーコード・スキャナと,携帯電話下部のコネクタに取り付けるモジュールから成る(写真1)。このモジュールは,スキャナで読み取ったバーコード情報を,iモード携帯電話の入力情報に変換する役割を果たす。これらの機器と変換ソフトを,キューサイは独自に作り込んだ。

(高下 義弘)