日本語による.COMドメイン名の登録が混乱している。11月10日の受け付け開始直後から,企業名をはじめとする商標関連の文字列に申し込みが殺到。自社名称の日本語ドメイン名を取得できない企業が続出した。登録体制の不備を突き,受け付け開始前にドメイン名を登録したケースも散見される。

図●Yahoo!オークションで,日本語ドメイン名が競売にかけられているところ。11月22日時点で500以上あった
 .COM/.NET/.ORGといった一般ドメイン名(gTLD)は,約2400万と世界最多の登録数を誇る。このgTLDが日本語で登録できるようになるとあって,11月10日午前9時(日本時間)の登録開始時には,全世界の登録業者(レジストラ)のWebサイトに,登録申し込みが殺到した。gTLDの登録は先着順であるため,企業名,商品名,ブランド名といった商標に関するドメイン名を中心に,激しい争奪戦が繰り広げられた。

 この結果,多くの企業が自社ドメイン名などを,無関係の第三者に“先取り”された()。本誌の調べでは,「資生堂.COM」や「三共製薬.COM」などの有名企業名だけでなく,「キティーちゃん.COM」や「広末涼子.COM」などキャラクタや著名人の名前も,第三者が取得していた。マスコミ各社も壊滅状態だ。大手新聞社は全滅。テレビ局も,フジテレビ以外の在京キー局は,すべて第三者が取得していた。

 これらの日本語ドメイン名の一部は,Yahoo!オークションなどで競売にかけられている()。なかには,「近畿日本鉄道.COM」,「国際協力銀行.COM」,「富士通ゼネラル.COM」など23もの企業の名称を冠した日本語ドメイン名をセットで競売サイトに出品する“強者”もいた。この出品者は「遊び半分で取得しただけなので,(取得に)かかった実費に近い額を,競売の開始価格とした」とコメントしている。ちなみに出品者が指定した最低落札価格は,200万円である。

 「フジタ工業.COM」,「北陸電力.COM」,「本田技研.COM」など6個の日本語ドメイン名をそれぞれ1000万円から競りに出している熊本県在住の男性は,本誌の問い合わせに対して,「これらの企業のドメイン名を検索したところ,未登録だったので取得した。企業がどういう対応をするのか探るため,競売サイトに出品している。日本語ドメイン名の価値は高く,1000万円でも安いと思う」と語っている。

 競売サイトに出品された日本語ドメイン名のなかには,実際に落札されたものもある。「iモード.com」は10万円から値が付き,11月22日未明に約50万円で落札された。

【新聞社】 【テレビ局】 【金融】 【メーカー】 【その他の
企業・学校】
【ブランドなど】
●朝日新聞
●産経新聞
●東京スポーツ
●日本経済新聞
●毎日新聞
●読売新聞
●テレビ朝日
●テレビ東京
●東京放送
●日本テレビ
●日本放送協会
●よみうりテレビ
●国際協力銀行
●国際証券
●さくら信託銀行
●三和銀行
●野村證券
●パートナーズ投信
●三井信託銀行
●出光
●オーツタイヤ
●キッセイ薬品
●キョーリン
●グンゼ産業
●コニシボンド
●三共製薬
●資生堂
●蛇の目
●ソニー
●富士通ゼネラル
●本田技研
●NTT東日本
●近畿日本鉄道
●工学院大学
●コジマ電気
●堺引越センター
●静岡大学
●全日空
●日本航空
●フジタ工業
●北陸電力
●iモード
●オールナイトニッポン
●キティーちゃん
●ツーカー
●広末涼子
●ベルサーチ
●ベルファーレ
●ペンタックス
●ライオンズマンション
表●企業名などの商標に関係する日本語.COMドメイン名のうち,当該の商標を保有する法人以外が取得している例。これらは氷山の一角で,.NETや.ORGも含めれば膨大な数に上る

システム・トラブルが混乱に拍車

 自社の商標に関する日本語ドメイン名を第三者に取得された企業が,今回の登録開始を知らなかったわけではない。大半の企業は,日本語ドメイン名を取得しようと努力していた。

 それにもかかわらず多くの企業が,自社の商標に関する日本語ドメイン名の取得に失敗した原因は,転売を目的に他社の商標に関するドメイン名を取得するサイバー・スクワッター(不法占拠者)が増えていることにある。今回,登録が始まった日本語ドメイン名は,サイバー・スクワッターの格好の餌食になった。

 例えば,日本航空は,「日本航空.COM」を取得できなかった。同社は,第三者に取得された「JAL.COM」を取り戻そうと,紛争処理機関に申し立てたが敗訴したことがあるだけに,今回の登録開始にあたっては,「約10人を張り付けて,自社に関連する日本語ドメイン名を取得しようとしたが,失敗した」(日本航空の広報担当者)。

 サイバー・スクワッターの暗躍に加えて,登録システムのトラブルが混乱に拍車をかけた。申し込みのアクセスが殺到したため,登録の受け付け開始後数日間は,日本語ドメイン名の登録を受け付ける世界24のレジストラが,gTLDの登録元締め(レジストリ)である米ベリサイン・グローバル・レジストリ・サービス(ベリサインGRS)のデータベースにアクセスできない状態が断続的に続いた。

 そこでレジストラの一つであるインターキュー(東京都渋谷区)は,「すべての登録希望をいったん当社が預かり,ベリサインGRSのデータベースにアクセス可能になった段階で登録希望を一括投入する」というバッチ処理方式に切り替えた。このため登録希望者には,申し込んだ日本語ドメイン名が正式登録されたかどうかが,すぐにはわからなかった。日本ではインターキューのサービスを利用するユーザーが多かっただけに,影響が大きかった。同社経由で正式に登録された日本語ドメイン名は,登録開始後3日で1万を超えた。

 米ベリサインの子会社であるレジストラ,米ネットワーク・ソリューションズ(NSI)は,他のレジストラのトラブルをよそに,日本時間の11月10日午前9時から正常に機能していた。しかし,同社のサービスを利用したユーザーのなかには,「登録作業を正常に終え取得できたと思ったのに,数日後に取得に失敗したから返金しますとのメールが来てがっかりした」と語る人もいた。

受け付け開始日前のフライングも

 登録受け付けの開始以前に,日本語ドメインに相当する文字列を登録してしまう“フライング”もあった。日本語ドメイン名は,「RACE」というエンコード(符号化)方式により英数字に変換したものが登録される。例えば,「日経.COM」は,実際には「BQ--3BS6K7KM.COM」という文字列で登録される。この変換ルールを事前に把握したユーザーが,受け付け開始以前に,日本語ドメイン名に相当する英数字でドメイン名を登録していたのだ。

 事実,「日経.COM」は10月22日に東京・西新宿にあるウエブジャパンという企業が登録済みだ。「全日空.com」と「野村証券.com」を,この方法で取得した鹿児島県在住の男性は,「RACEコードに変換した後のドメイン名を取得すれば日本語ドメインが取得できなくなるかどうかを確認したかった」と本誌にコメントしている。

 現段階では,フライング登録されたドメイン名が実際に使用できるかどうかは不明だが,ベリサインGRSは,フライング登録分を日本語ドメイン名としては“封印”する方向で検討しているようだ。

 一連の騒動に対して,「準備不足のまま日本語ドメインの登録開始に突入したレジストリである米ベリサインGRSに責任がある」(あるプロバイダの幹部)と指摘する向きは多い。「.COM」陣営は,日本市場で最大のライバルとなるJPドメインよりもひと足早く日本語ドメイン名の登録に踏み切った。しかし,今回の混乱は「.COM」ブランドの信用を大きく失墜させかねない。

(井上 理)