ファミリーマートが伊藤忠商事など6社と共同で設立した電子商取引(EC)事業運営会社「ファミマ・ドット・コム」(東京都豊島区)が,いよいよ10月30日にサービスを開始する。井上史郎社長は,「各店舗がそれぞれの個性を生かしたECサイトを立ち上げ,地域密着型のビジネスを展開する。この戦略で,ライバルのコンビニに対抗する」と宣言。ECを通じて販売した商品の受け渡しサービスでは,異業種との競合も激しくなりそうだが,「24時間サービスを提供できるコンビニには,絶対の強みがある」と自信を見せる。

 --ECサイトのオープンが間近に迫っていますね。現在の進ちょく状況は。
写真撮影:的野 弘路

 順調です。予定通り10月30日に,当社のECサイト「famima.com」でサービスを開始します。famima.comの特徴は会員制度を採ることですが,そのための会員募集を,サービス開始に先行して10月20日に始めます。

 EC事業の立ち上げと並行して,10月中旬にはファミリーマートの10店舗で,(同社と中堅コンビニ4社が共同開発中の)マルチメディア端末「MMK(マルチメディア・キオスク)」の実験に着手します。MMKを設置する店舗を12月から増やして本格展開し,2001年1月には数百店,2001年7月には全5500店に導入する予定です。

「EC フランチャイズ制度」を武器に

--コンビニ業界のEC 事業では,セブンーイレブン・ジャパンとローソンの2社が先行し,すでにサービスを開始しています。後発として,どう戦っていきますか。

 当社独自の戦略であり,famima. comの最大の特徴でもある「ECフランチャイズ制度」を積極的に展開していきます。famima.comでは,各店舗が地域特性や店長のアイデアを生かして,商品の品ぞろえなどに特徴を持たせたECサイトを立ち上げることができます。情報システムの運用管理は当社が一括して行いますが,各店舗はそれぞれのECサイトで,商品の“売り主”として個性を発揮できるのです。

 他のコンビニでは,EC事業運営会社が一つのECサイトを立ち上げ,各店舗は商品のデリバリや決済を代行するだけです。この点で,他社に差を付けられると考えています。

 ECフランチャイズに関連するもう一つの重要な仕組みが,先ほど触れた会員制度です。お客様は,地元や会社の近くにある特定の店舗のECサイトに会員登録し,そのECサイトで商品を購入します。この仕組みにより,ECサイトで地域密着型のビジネスを展開していきます。同時に,購入金額に応じたポイント制度によって,集客力の向上も狙います。

--すべての店舗が特色あるECサイト作りに励む,とは思えませんが。

 もちろん,ECに対する意識は,店舗によって差があります。そこで当初は,ファミリーマートの直営店や意識の高い加盟店を,合わせて数十店選び,地域密着型のECサイト作りの実験を行います。地域の名産品をメニューに加えたり,店長が“お勧め商品”を告知したり,会員がメッセージを書き込む掲示板を用意したり,といったことから始めます。

 実験結果を検証したうえで,2001年初めから対象店舗を増やしていきます。ただ,このような地域密着型のコンセプトが全店舗に行きわたるまでには,1年くらいかかるかもしれません。

4 カ月で66 万人の会員を集める

--顧客の会員制度をマーケティングにどう生かしますか。

 目標は「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」です。個々のお客様が何を買ったのかを把握し,次にどんな商品が必要になるのかを予想して,サービス向上につなげることを考えています。コンビニ業界ではこれまで,お客様の個人属性データを集めていなかったので,このようなマーケティングを行うことは不可能でした。その意味で,EC事業の会員制度が果たす役割は極めて重要です。

 ただし,ワン・トゥ・ワンを実現するには,多数の会員のデータを収集する必要があります。そこで,2000年度末(2001年2月)までに66万人の会員を集める計画を立てました。

 ワン・トゥ・ワン・マーケティングを実施するには,ECサイトに対する顧客のアクセス履歴を分析できるソフトウエアが必要ですが,当社はすでに製品の評価に着手しています。候補を二つに絞りましたが,まだ製品名は公表できません。

--66万人というのは,すごい数字ですね。本当に可能ですか。

 決して不可能な数字ではありません。単純に平均すると,今年10月末からの4カ月間で,全5500店舗がそれぞれ100人強の会員を集めればよいことになります。店舗を訪れたお客様に,店員がECサイトの会員制度を紹介するなどして,積極的に勧誘していくつもりです。

--コンビニ業界がこぞってECに取り組む狙いを,改めて確認したいと思います。ECをきっかけに店舗での物販という本業をテコ入れしようとしているのか,ECを事業として一本立ちさせようとしているのか,どちらの側面が強いですか。

 当社に関しては,どちらとも言えません。まず強調しておきたいのは,当社もファミリーマートも,腹を据えてEC事業に取り組んでいる,ということです。十分にお金をかけ,事業として成功させたいし,お客様から支持を得たいと考えています。

 ベンチャー企業などが取り組むEC事業と違うのは,コンビニのEC事業が加盟店や取引先を含めた“実ビジネス”と連携することを前提にしている点です。本業を無視したEC事業を展開することはあり得ません。

異業種のライバルには負けない

--EC に伴う商品の受け渡しや決済などのサービスでは,鉄道会社や石油会社といった異業種企業がライバルとして名乗りを上げています。脅威と感じませんか。

 全く心配していません。店舗を24時間オープンしているコンビニには,絶対の強みがあると思います。いつでも商品を受け取れるし,いつでも決済できる,という利便性は,お客様にとって非常に重要だからです。

 店内の“明るさ”など,気軽に利用できる環境という面でも,コンビニが勝っています。仮に,駅やガソリンスタンドが24時間オープンしていたとしても,夜中に商品を受け取りに行きたいとは思わないでしょう。

--コンビニのEC事業については,店舗スタッフの教育が大変だとか,商品の設置スペースが足りない,といった問題が指摘されています。

 ECを始めても,スタッフの作業内容は従来とほとんど変わりません。例えば,店頭販売の商品を入荷したときの作業と,ECサイトで受注した商品を入荷したときの作業は,全く同じです。EC専用のマニュアルは用意しますが,店員の教育については特に心配していません。

 店頭渡しの商品は,カウンタの下に設けた専用棚に置くので,もちろん,スペースに限りがあります。そのため,商品のサイズに制約を課します。そのサイズを超える商品については,宅配でお渡しすることになります。

店舗端末で公共サービスを提供する

--店舗に設置するマルチメディア端末「MMK 」についてお聞きします。「あまり使われないでのはないか」と疑問視する声もありますが,どのようなコンテンツで顧客を引きつけるお考えですか。

 まずは10~20歳代の若い人を対象に,音楽や映像,タレント関連のブロマイドといった,エンタテインメント分野のコンテンツを充実させます。MMKはデジタル・カメラを内蔵し,携帯電話も装着できます。デジカメで撮影した画像を携帯電話に取り込み,メールで送信する,といった面白い使い方を考えています。

 若い人に定着したら,少し高い年齢層にも対象を広げます。有望なのは,公共的なサービスでしょう。例えば,住民票や印鑑証明書を発行できるようにしたり,定期券を買えるようにしたり,といった案が挙がっています。

--MMKは,ファミリーマートのほか,サークルケイ・ジャパンやサンクスアンドアソシエイツなど,コンビニ5社が共同開発しています。今後,他のコンビニが参加する計画は。

 可能性はあります。コンビニの店舗にATM(現金自動預け払い機)を導入する事業では,最近この5社に中堅コンビニ2社が加わりました。同じことがMMKのプロジェクトで起きても,不思議ではありません。

(聞き手=本誌副編集長,吉田 琢也)