Linuxで利用できるクラスタ・ソフトが急速に増えてきた。システムの負荷分散や大規模な並列処理を狙った製品が豊富になってきたのに加え,新たにシステムの可用性向上を目的としたクラスタ・ソフトが2000年内に続々と出荷される。これらのソフトを使ってLinuxサーバーを二重化すれば,システムの耐障害性を大幅に高められる。Linuxの用途として,データベースやグループウエアを使う基幹業務システムがいよいよ射程圏内に入ってきた。

表1●Linuxで利用できる,システムの負荷分散や可用性向上を目的とした主なクラスタ・ソフト。稼働プロセサはすべてインテル系
 商用UNIXやWindows NTに続いて,いよいよLinuxが企業活動を支える基幹業務システムの領域に足を踏み入れる。システムの可用性(アベイラビリティ)向上を実現するLinux用クラスタ・ソフトが,2000年内に相次いで登場するからだ。

 コバルト・ネットワークス(東京都江東区)が今年6月下旬に出荷を始めた「Cobalt StaQware」を皮切りに,NEC,東芝,NTTコミュニケーションウェア(NTTコムウェア,千葉市)などが製品を投入する(表1[拡大表示])。いずれも,複数のサーバーをLANなどで接続した環境で使い,1台のサーバーに障害が発生したら自動的に別のサーバーに処理を引き継ぐ「フェイルオーバー」の機能を備えている。

 一方,複数のサーバーにアクセス要求を振り分けることでシステムの「負荷分散」を実現するLinux用クラスタ・ソフトも豊富になってきた。例えば,レッドハット(東京都千代田区)が2000年4月に出荷を始めたLinuxディストリビューション「Red Hat Linux 6.2日本語版」に同梱されているクラスタ・ソフト「Piranha(ピラニア)」だ。ターボリナックスジャパン(同渋谷区)が同2月に出荷したLinuxディストリビューション「TurboCluster Server 4.0」にも同様の負荷分散機能が組み込まれている。このほか,大規模な並列処理の用途を狙ったクラスタ・ソフトも増えてきた。

可用性に対する要求が一気に高まる

 各社が可用性向上を狙ったLinux用クラスタ・ソフトに注力するのは,サーバーを二重化しなければならないような重要な業務システムにLinuxを使いたいというニーズが具体化してきたからだ。

 Windows NTとSolaris向けで1500本の出荷実績をもつクラスタ・ソフト「DNCWARE Cluster Perfect」をLinuxに移植し,年内に出荷を始める東芝は,次のように証言する。「保守的な大企業ユーザーからも,アプリケーション・サーバーやデータベース・サーバーにLinuxを使いたいという要望がかなり来ている。今年後半から来年にかけて,Linuxでクラスタ・システムを構築する需要が高まるだろう」(東芝デジタルメディアネットワーク社の望月進一郎コンピュータ・ネットワークプラットフォーム事業部コンピュータ・ネットワークプラットフォーム商品企画担当主務)。

図1●負荷分散機能を備えるLinux用クラスタ・ソフトの利用形態。複数のWebサーバーの処理負荷を均等化する構成を例にとった。Webサーバーに対するアクセス要求を振り分けるために専用サーバーを使う形態(1)と,専用サーバーを使わない形態(2)がある。(1)の形態をとる製品は,CLUSTERPRO for Linux,Piranha,TurboCluster Server4.0,TurboLinux Cluster Server6.0(仮称)。(2)の形態をとる製品は,Progart/Local Cluster Enterprise(仮称)
 Windows NT用のクラスタ・ソフト「CLUSTERPRO」をLinuxに移植し,今年9月に出荷するNECも同様の考えだ。「早くほしいとユーザーから言われている。今後Linuxを基幹業務に使いたいというニーズが盛り上がるのは間違いない。Webサーバーからデータベース・サーバーまで,業務システム全体をLinuxだけで構築できるようにし,Linux用クラスタ・ソフトの決定版と呼ばれる製品にしたい」と,渡辺敏コンピュータソフトウェア事業本部第二コンピュータソフトウェア事業部第三開発部技術マネージャーは意気込む。

 米ポリサーブの「Progart/Local Cluster Enterprise(仮称)」を年内に投入する予定のNTTコムウェアには,人事システムのサーバーにLinuxを使いたいという案件や,全国の支店にある「ドミノ」サーバーのOSをWindows NTからLinuxに切り替えたいという案件が持ち込まれているという。これらのLinuxサーバーを二重化するために,フェイルオーバー機能を備えるクラスタ・ソフトが必要になる。

データ・ミラーリングも可能に

 フェイルオーバー機能を備えたLinux用クラスタ・ソフトには,(1)ハードディスク共有型と,(2)データ・ミラーリング型の2種類がある。いずれも,現用機と予備機の双方にクラスタ・ソフトを搭載する必要がある。

 (1)のハードディスク共有型の製品は,一つのハードディスクを複数のサーバーに接続する形態で利用する。正常時は現用機だけでハードディスクを使う。現用機に障害が発生したら,クラスタ・ソフトの機能によって,ハードディスクのアクセス権を予備機に移すことができる。CLUSTERPRO for Linux,DNCWARE Cluster Perfect,TurboLinux Cluster HA6.1(仮称)がこのタイプだ。

 (2)のデータ・ミラーリング型のクラスタ・ソフトは,現用機と予備機でハードディスクを共有せず,それぞれ別個にハードディスクをもつ形態で使う。クラスタ・ソフトは,現用機のハードディスクのデータを逐次,予備機のハードディスクに複写する。Cobalt StaQwareとProgart/Local Cluster Enterpriseがこのタイプだ。

 どちらの方式でも,可用性のレベルは大差ない。(1)のハードディスク共有型では,複数のサーバーに接続できる「共有型ハードディスク」が必要になる。このようなハードディスクは高価なので,低コストを追求したい場合は(2)のデータ・ミラーリング型が適している。NECのCLUSTERPROと東芝のDNCWARE Cluster Perfectは,Windows NT版はいずれの形態も可能だが,Linux版では当面ハードディスク共有型だけに対応する。

負荷分散装置を使うよりも安い

表2●Linuxで利用できる,計算処理の並列化を目的とした主なクラスタ・ソフト。いずれもノード数に制限はない
 負荷分散を目的としたLinux用クラスタ・ソフトは,クライアントからのアクセス要求を複数のサーバーに振り分けることができる。ほとんどの製品は,振り分け専用のLinuxサーバーに搭載して利用する(前ページ図1[拡大表示]の(1))。負荷分散の専用装置と同じ使い方だが,Linuxサーバーを使うほうがコスト面でかなり有利になる。どの製品も,振り分け専用のLinuxサーバーを二重化し,現用機に障害が起こったら予備機に切り替えるフェイルオーバー機能が用意されている。振り分け専用のサーバーがダウンしたら,システム全体が使えなくなってしまうからだ。

 Progart/Local Cluster Enterpriseだけは,振り分け専用のLinuxサーバーを用意する必要がない(図1の(2))。アクセス要求を実際に処理するLinuxサーバーにクラスタ・ソフトを搭載し,相互に負荷を調整し合う。

 並列処理を目的としたLinux用クラスタ・ソフトも品数が豊富になってきた(表2[拡大表示])。(1)大規模な計算処理を複数のサーバーで並列実行するための製品と,(2)ジョブ・スケジューリング機能を使ってバッチ型の計算処理を複数のサーバーで効率的に実行するための製品の2種類がある。

 (1)のタイプの製品は,日本SGI(東京都渋谷区)の「Advanced Cluster Environment1.0」,コンパックコンピュータ(同品川区)の「Alpha Beowulf Cluster」,レッドハットの「Beowulf」,レーザーファイブ(同千代田区)の「RAIKOU」である。(2)のタイプの製品には,ターボリナックスの「enFuzion6.0」,ダイキン工業の「LSF」,ノーザンライツコンピュータ(神奈川県川崎市)の「Universe」がある。

(中村 正弘)