日本IBMをはじめ,大手メーカーがLinuxビジネスに本気で取り組み始めた。これまで手がけていなかった,Linuxを同梱あるいはプリインストールしたサーバー製品を新たに投入。自社OSと同様,不具合が生じた場合は修正プログラムを提供するなど,責任をもって解決に当たる。サーバーの24時間遠隔監視といったサービスのメニューも拡充した。基幹システムへのLinux導入を支援する体制が整ってきた。

写真1●Linux事業の大幅強化を発表する日本IBMの大歳卓麻社長
 日本アイ・ビー・エムは5月17日,メインフレームやパソコン・サーバーを中心にしたLinux事業の強化策を発表した(写真1[拡大表示])。特に注目されるのはメインフレーム。Linuxディストリビュータと協力し,Linuxが稼働するS/ 390シリーズと,その導入支援・保守サービスを提供する。これまで独自OSにこだわり続けてきた同社が,Linux事業に本気で取り組むことをアピールした。

 日本IBM以外の主要メーカーも相次いで,Linux戦略を強化している。いずれも,Linuxディストリビューションを同梱またはプリインストールしたパソコン・サーバーを投入。Linuxに不具合があった場合は,各メーカーがLinuxディストリビュータと協力し,Linuxのカーネルに手を加えるなどして解決に当たる。つまり,パソコン・サーバーのOSとして,LinuxをWindows NTなどと同等に位置づけ,責任をもってユーザー企業に提供する。これまで多くのメーカーは,Linuxの動作を確認した機種に関する情報をWebサイトで公開するにとどまっていた。

Linux搭載サーバーが続々登場

 各メーカーが提供するLinux搭載サーバーを表1[拡大表示]にまとめた。

 日本IBMはメインフレームS/390のLinux搭載機の出荷を5月に始めた。S/390上でネイティブに動作する「LINUX for S/390」の第1弾として,Linuxディストリビューション「TurboLinux」を採用した。販売や技術サポート(後述)は,ターボリナックス ジャパン(東京都渋谷区)および新日本製鐵と協力する。1台のS/390にLinuxとOS/390を搭載し,それぞれでWebアプリケーションと基幹業務アプリケーションを同時に動かせる。「今後はRed Hat Linuxなど,他のLinuxディストリビューションにも順次対応していく」(日本IBMの中原道紀Linuxビジネス開発担当)計画だ。

表1●大手メーカーが販売する主なLinux搭載サーバー。いずれのメーカーも,稼働中のLinuxに不具合が生じた場合は,Linuxディストリビュータと協力して解決にあたる
 日本IBMが同じ5月に出荷を始めたパソコン・サーバー「Netfinity 1000」もTurboLinuxを同梱する。同社はさらに,オフコン「AS/400」にLinux搭載クライアントとの連携機能を追加したり,UNIXサーバー「RS/6000」とワークステーション「IntelliStation」にLinuxを搭載することも計画している。これほど広範な製品でLinuxのサポートを決めたのは日本IBMだけだ。

 現時点で最も多くのLinuxディストリビューションに対応しているのはコンパックコンピュータ(東京都品川区)のパソコン・サーバー「ProLiant」である。「LASER5 Linux」,「Red Hat Linux」,「TurboLinux」のいずれかを同梱する。インストール作業を容易にするソフトも併せて提供する。コンパックは昨年10月にProLiantの一部機種でLinuxのサポートを始め,その後も対応機種を増やしてきた。「今後出荷するサーバー製品はすべてLinuxをサポートする」(コンパックの古川勝也ソリューション企画推進本部リナックスプログラムオフィスリナックスエバンジェリスト)。

 NEC,日立製作所,富士通の国産3社も,それぞれのパソコン・サーバーにLinuxを同梱して提供する。日立の「HA8000/InterStation」は,パソコン・サーバー3台にルーターなどの周辺機器を加え,さらにLinuxやWebサーバーなど各種ソフトを同梱した製品だ。さらに,サーバー据え付けサービスなども標準で付属しているので,他社製品に比べて価格が高い。日本IBMとコンパックはインストール代行サービスを有償で提供するが,国産3社はいずれも,ユーザーの希望に応じて,同梱したLinuxのインストールを無償で代行する。

 一方,あらかじめLinuxをプリインストールして提供するのは,デルコンピュータ(神奈川県川崎市)と日本SGIだ。デルは「PowerEdge」シリーズ6機種にRed Hat Linuxの搭載モデルを用意。日本SGIは,Red Hat Linuxをベースに,独自に機能拡張した「SGI ProPack」を搭載して提供する。

Linuxの安定動作を支援

表2●大手メーカーが最近強化した主なLinux関連サービス
 各メーカーは表1に示した製品について,「Linuxが安定して動作するように,責任をもって対応する」と口をそろえる。「Linuxに不具合が生じたら,Linuxディストリビュータと協力してカーネルに手を加えたり,修正プログラムを提供する」(コンパックの古川氏)。これにより「Windows系OSや商用UNIXを搭載したサーバーと同等のサポートを実現する」(日立)。

 表1以外の製品についても,「Linuxディストリビューションの同梱やプリインストールはしないが,同等のサービスを提供する」というメーカーもある。例えば日本IBMは,今年4月以降に出荷したNetfinityは,すべて「Linuxの動作を保証する」(日本IBMの中原担当)。NECは「動作を保証する」という表現は避けているものの,「Linuxのソース・コードを参照しながら,アプリケーションやミドルウエアにも手を入れて,確実に動作させる」(川井俊弥NECソリューションズマーケティング本部ニュービジネス企画部マーケティングマネージャー)という。

強化が進むLinux関連サービス

表3●大手メーカーのLinux関連組織の強化策
 各メーカーは,Linux関連サービスの内容も着々と拡充している(36ページの表2[拡大表示])。各社に共通の狙いは,企業ユーザーがLinuxを使って,本格的な基幹業務システムや電子商取引システムを構築できるようにすることだ。

 日本IBMは今年第3四半期から,S/ 390向けのLinux導入支援・保守サービス「S/390 Linuxテクニカルサポートサービス」を提供する。さらに,Linuxを使ったシステム構築サービスを強化するため,同社製ミドルウエアのLinuxへの移植も進める。すでにLinux版を提供しているデータベース「DB2 UDB」やメッセージ連携ソフト「MQSeries」に続き,今年7月にはWebアプリケーション・サーバー「WebSphere」のLinux版を投入。年内にもシステム運用管理ソフト「Tivoli Enterprise」のLinux版の出荷を始める。

 Linuxシステムの可用性や安全性を高めるサービスも登場した。NECは今年6月に,Linux搭載サーバーを対象にした24時間のリモート監視サービス「エクスプレス通報サービス」の提供を開始。コンパックも時期は未定だが,NECと同様のサービスや,99.9 %以上の稼働率を保証するサービスを提供する計画だ。日立は今年3月から,表1のHA8000/InterStationを対象にしたセキュリティ・サービス「InterStation システム監視サービス」を提供中。サーバーへのアクセス・ログやIPパケットなどを遠隔監視し,ユーザー企業に対して定期的にレポートを提出する。

 Linux上でグループウエアやデータベースを使ったシステムを構築しやすくするサービスの提供も始まった。富士通はグループ企業を通じ,TeamWareのLinux版の導入支援サービスや,Windows NTベースのデータベース・システムをLinuxベースのシステムに移行するサービスを提供している。一方,日本SGIはシステム・インテグレータのニイウス(東京都江東区)と提携し,5月からDB2 UDBを使ったシステム構築サービスを展開している。

 各メーカーはLinux関連の製品やサービスの提供に合わせて,組織の強化も進める(表3[拡大表示])。NEC,コンパック,日本IBM,日本SGI,富士通の5社は,Linuxに関する技術情報を収集したり,Linuxで動作するソフトを開発するための専門組織を社内に設置した。日立と富士通グループのPFU(神奈川県川崎市)は,Linux向けのサポート専門会社である米リナックスケアと提携。技術情報を互いに交換し合い,技術支援サービスを強化する。

(高下 義弘)