企業間取引などにXML(エクステンシブル・マークアップ・ランゲージ)を本格利用するための基盤が整い始めた。マイクロソフトなどが,異なるシステム間でXMLデータを容易にやり取りするための仕様「BizTalkフレームワーク」を4月に発表。これに対応したさまざまなソフト製品を,国内ベンダーが年内に投入するからだ。電子商取引(EC)システムにおけるデータ交換の仕組み作りが容易になる。
図1●BizTalk Server2000の役割。複数の企業が注文データなどをやり取りする場合に,企業固有のドキュメントとBizTalkドキュメントを相互に変換できる |
BizTalkフレームワークでは,XMLデータの先頭に,データの送信先と送信元を示す“ヘッダ”を付加した「Biz-Talkドキュメント」を,標準フォーマットのデータとして扱う(図1[拡大表示])。商品の注文データなどをXMLで記述し,ヘッダで発注先企業と発注元企業のシステムの所在を記述する,といった使い方を想定しており,企業間ECなどに適用しやすい。BizTalk Serverは,BizTalkドキュメントのヘッダの内容などに基づいて,システム間のデータ交換を仲介する役割を持つ。
XMLはデータの意味や構造を定義できる利点があるが,企業間ECに利用する場合は,各企業があらかじめ定義を共通化しておく必要がある。各企業の定義が異なる場合は,データ変換の機能を作り込まなければならない。BizTalk Serverは,こうしたXMLの課題も解決する。各企業が扱うXMLデータの定義をBizTalk Serverに登録しておけば,XMLデータの意味と構造を自動変換する機能を備えているからだ。
BizTalk Serverで処理できるのは,BizTalkドキュメントだけではない。「EDIFACT」といった標準EDI(電子データ交換)の仕様に準拠したデータや,「CSV」形式のデータなどを,Biz-Talkドキュメントと相互に変換できる。これにより「企業が既存システムに手を加えることなく,BizTalk対応のシステムを持つ企業と取引できる」(マイクロソフトの深瀬正人製品マーケティング本部サーバー製品マーケティンググループプロダクトマネジャー)。
BizTalk対応のECソフトが登場へ
表1●BizTalkフレームワーク対応ソフトを提供する主な国内ベンダー。いずれもBizTalkドキュメントを入出力でき,BizTalk Serverと連携する |
分野は主に,EC,ワークフロー管理,帳票作成の三つである。ECとワークフロー管理のソフトは,BizTalkドキュメントを入出力する機能を備え,BizTalk Serverと連携することによって,異なるシステム間のデータ交換を実現する。
特に注目されるのはEC関連ソフトだ。大塚商会は2000年末にも,中小企業向け業務パッケージ「SMILEα e-Solutions」の企業間EC向け機能を強化し,BizTalkドキュメントを入出力したり,BizTalk Serverと連携できるようにする。「取引に参加する企業が,XML形式の注文データの定義を共通化しなくてもすむことが最大のメリット」(大塚商会の伊藤昇web事業推進部XMLソリューショングループ部長代理)。東芝アドバンストシステム(東京都新宿区)とランセプト(同目黒区)も,それぞれの企業間ECシステム構築ソフトに,同様のBizTalk対応機能を持たせる計画だ。
ワークフロー管理では,日立製作所が2000年内にも出荷するグループウエア「Groupmax」の機能拡張版で,BizTalkドキュメントを使ったワークフロー管理を可能にする。例えば,「備品を購入する際の申請書をBizTalkドキュメントとして記述し,異なるシステムを運用する部門間で申請書をやり取りするワークフロー管理を実現できる」(藤瀬洋ネットワークソフトウェア本部ネットワークアプリケーションソフト設計部長)。
インターネット取引所にも利点
このほか,BizTalkドキュメントを生成できるソフト製品も登場する。ジェットフォーム・ジャパン(東京都新宿区)は2000年中に,帳票作成ソフト「FormFlow 99」で作成した帳票データからBizTalkドキュメントを生成できるようにする。XML関連ソフト大手のインフォテリア(東京都目黒区)も,XMLデータの定義・生成ソフト「XML Authority」にBizTalkドキュメント生成機能を追加する。
企業間ECを仲介するWebサイトであるインターネット取引所もBiz-Talkに対応する。富士ゼロックスは,同社が運営しているオフィス用品調達用のインターネット取引所「x-Plaza(クロスプラザ)」のシステムにBiz-Talk Serverを導入する計画だ。「煩雑になりがちな参加企業間のデータ変換の定義を簡単にする」(軒野仁孝ニュー・ビジネス・センターテクナレッジマネジメントオフィス室長)のが狙い。参加企業にとっては「既存システムに手を加えたり,自らBizTalk Serverを導入することなく,多くの企業との取引に参加できる」(ニュー・ビジネス・センターi-Service開発部ドキュメントサービスグループの菅野透氏)という利点がある。
送信先と送信元はURLなどで指定
図2●BizTalkServer2000のデータ変換機能の設定画面。異なる二つのデータ構造を画面に表示して,それぞれのデータが持つ意味をマウスのドラッグ&ドロップ操作で対応づける。対応関係の定義に,演算ロジックを埋め込むことも可能だ |
BizTalkドキュメント自体も,<biztalk_1>タグで始まる一つのXMLデータである。ヘッダでは,まず送信先を<to>タグで,次に送信元を<from>タグで指定する。具体的には,それぞれのタグの中で,<address>タグにURLやメール・アドレスを記述する。ヘッダに続けて<body>タグに,商品の注文内容などXMLデータの“本体”を記述する。
送受信するデータがBizTalkドキュメントなのか,標準EDIなど他のフォーマットのドキュメントなのかは,あらかじめBizTalk Serverに登録しておく。同様に,XMLデータのタグの名称や意味,データ構造などを定義したDTD(文書型定義)や,使用する通信プロトコルなども登録する。
BizTalk Serverは登録された情報に基づいて,例えば送信元企業から受け取ったBizTalkドキュメントに含まれるXMLデータを,送信先企業の定義に従って変換する。さらに,ヘッダの内容に基づいて,変換したXMLデータを含むBizTalkドキュメントを送信先企業に送る。
BizTalk Serverでは,GUIでデータ変換の定義を登録できる(図2[拡大表示])。データを交換する双方の企業のDTDなどを読み込んでデータ構造を表示し,マウスのドラッグ&ドロップ操作でデータの対応付けを行う。
演算処理を使った変換も可能
企業A社が既存システムに手を加えることなく,BizTalk対応のシステムを利用している企業B社に商品を発注するケースを考えよう。
A社は,既存システムで出力した注文データ(図1の例ではCSV形式)に,送信先と送信元の情報(「to,B」と「from,A」)を付加して,BizTalk Serverに渡す。BizTalk Serverは,登録されている定義情報に基づき,<to>タグと<from>タグを使ってBizTalkドキュメントのヘッダを生成する。発注内容についても同様に,B社のシステムが処理できる<製品名>タグや<単価>タグなどを使ってXMLデータを生成する。最後にヘッダとXMLデータから成るBizTalkドキュメントを生成して,B社に送信する。
A社の注文データに演算処理を加えてから,B社に送信するXMLデータを生成することも可能だ。例えば,A社が注文商品の金額を「価格」と「消費税」という二つの項目に分けて管理している場合,これらを合計した金額を<価格>タグのデータにする,と定義しておけばよい。