「Palm OS」を搭載した手のひらサイズの携帯情報端末が,今秋までに相次いで登場する。Palm OSの開発元である米パームの日本法人が,国内では初めてPalm OS搭載機を発売。日本アイ・ビー・エムは,WorkPadの新モデルの出荷を始めた。こうした動きに合わせて,Palm OS搭載機を業務システムの端末として利用するためのソフトウエア製品も充実してきた。Palm OS搭載機の業務利用が一気に加速しそうだ。

写真1●パーム コンピューティングのPalm Vx
 Palm OSは,米パームが開発した携帯情報端末向けのOS。今年4月以降,このOSを搭載した携帯情報端末が,国内で続々と登場している(表1[拡大表示])。

 まず,米パームの日本法人であるパーム コンピューティング(東京都文京区)が4月15日に,「Palm Vx」と「Palm IIIc」の2モデルの出荷を開始した(写真1[拡大表示])。同社が日本市場で製品を販売するのはこれが初めてだ。

 「WorkPad」の名称でPalm OS搭載機を昨年から販売してきた日本アイ・ビー・エムも,4月28日にWorkPad c3の新モデルを出荷。続いて,早ければ今年6月にも,PHS機能を内蔵した新タイプのWorkPadを投入する。

 このほか,昨年末から米国で人気を集めているPalm OS搭載機「Visor」も日本に上陸する。開発元である米ハンドスプリングの日本法人が,6月にもVisorの国内出荷を開始する。さらにソニーも今秋にPalm OS搭載機を発売すると表明している。

 これまでは,国内で販売されているPalm OS搭載機といえば,日本IBMのWorkPadに限られていた。しかし,各社が相次いで製品を投入することで,Palm OS搭載機の選択肢は一気に広がる。携帯情報端末の国内市場で,Palm OS搭載機が勢力を拡大するのは間違いない。

Palm OS搭載機の業務利用を促進

表1●6月までに出荷されるPalm OS搭載の携帯情報端末。いずれも8MBの主記憶(RAM)を備える
 各社の製品はいずれも,重さが100~200グラム程度で,価格は4万円前後。このように,Palm OS搭載機はノート・パソコンなどに比べてはるかに軽く,価格が安い。操作も簡単だ。

 これらの点が,Palm OS搭載機を業務に利用する場合の最大のメリットである。企業が営業担当者などに大量に配布するモバイル端末として向いている。これまでWorkPadの販売の9割が個人向けだった日本IBMは今後,「企業向けの販売を全体の4割にまで引き上げる。業務システムの一部としてWorkPadを利用するシステム案件を増やしていきたい」(日本IBMの堀田一芙常務パーソナル・システム事業部長)という。

 Palm OS搭載機には,「あまり複雑な処理はできない」,「多くのアプリケーションや大量のデータを搭載できない」といったデメリットもあるが,使い方を工夫すれば十分に業務利用は可能だ。例えば,営業担当者はサーバーから必要最小限のデータだけをPalm OS搭載機にダウンロードして客先に出向き,帰社後に営業結果のデータをサーバーに格納できる。

 最新のデータはサーバーで管理するので,Palm OS搭載機をなくしたり壊しても業務に大きな支障は出ない。「極端に言えば,端末自体は安いのだから壊れたら捨てればよい。Palm OS搭載機を利用すれば,高価なノート・パソコンを大量に配布することが不要になるケースも多い」(米国でのPalm OS搭載機の利用事例に詳しい米プーマテクノロジーの荒井真成副社長兼日本法人社長)。

 さらに,日本IBMがPHS内蔵のWorkPadを出荷すれば,社外からのデータ送受信も容易になる。従来のように,利用者がPalm OS搭載機とは別にPHSや携帯電話を持ち歩く煩わしさがなくなるからだ。

業務目的のソフト製品が充実

 Palm OS搭載機の選択肢が広がる一方で,Palm OS搭載機を業務システムの端末として利用するためのソフトウエア製品も充実してきた。このことも,Palm OS搭載機の業務利用に拍車をかけそうだ。4月以降に出荷されるPalm OS搭載機は,従来のWork-Padよりも多い8MBの主記憶(RAM)を備えているので,多くのソフトやデータを搭載できるようになった。

 昨年末から今年にかけて出荷されている,Palm OS搭載機向けのソフト製品は大きく分けて3種類ある(表2[拡大表示])。業務アプリケーションの開発ツール,データベース,そしてPalm OS搭載機をサーバーやパソコンと連携させるためのミドルウエアなどである。

表2●Palm OS搭載機を使った業務システム構築に利用できる主なソフト製品
特に最近,新製品の出荷が相次いでいるのはミドルウエアだ。代表的な製品は,Palm OS搭載機からネットワーク経由で社内のグループウエア・サーバーにアクセスし,Palm OS搭載機上の電子メールやアドレス帳に最新のデータを読み込めるようにするゲートウエイ・ソフトである。ロータス(東京都品川区)やプーマテクノロジー(同港区)は今年6月までに,マイクロソフト(同渋谷区)のExchangeやロータス ドミノに対応した製品を出荷する。Exchangeやドミノを導入済みの企業は,社外からのアクセス手段としてPalm OS搭載機を選択べるようになる。

 運用管理のためのミドルウエアも登場した。日本チボリシステムズ(東京都渋谷区)が5月に出荷を始めた製品だ。Palm OS搭載機の大量導入を検討している企業に役立つ。Palm OS搭載機にアプリケーションを配布する機能のほか,Palm OS搭載機のRAMの使用量やアプリケーションのバージョンなどを管理する機能を備えている。

 開発ツールでは,米国で実績のあるプーマテクノロジーの「Satellite Forms」の出荷が昨年末から始まっている。2000年第3四半期には,スタンシステム(徳島市)が同様の機能を持った製品を出荷する。

 データベースには,Palm OS搭載機上で稼働する製品と,Palm OS搭載機と連携するWindowsパソコン上で稼働する製品がある。日本オラクルが昨年11月に出荷した「Oracle8i Lite」は後者の製品。同社は2000年中にも,Palm OS搭載機上で稼働するデータベースを投入する予定だ。

(川又 英紀)

従業員管理にWorkPadを1000台導入

図A●ビルのメンテナンス業務を手がける宮豪が,WorkPadを使って構築した作業管理システム。WorkPadで入力した情報はWindows CE機を経由して基幹系システムのAS/400に集約される
 ビル清掃などのメンテナンス業務を手がける宮豪(横浜市)は6月中旬に,WorkPadを約1000台利用した従業員の作業管理システムを本稼働させる。2~3年以内には,約2200人の全従業員にWorkPadを配布する予定。Palm OS搭載機を利用した業務システムとしては国内最大規模になる。

 宮豪は本社にある基幹系システムのAS/400から毎朝,各拠点(ビル)にある端末のWindows CE機に対して,作業指示情報を送信する(図A[拡大表示])。従業員はWindows CE機につながったクレードルに各自のWorkPadを装着し,作業指示情報を読み込んで,作業に取りかかる。作業の開始時と終了時には,画面にペンなどでチェックする。最後にWorkPadをクレードルに装着すると,その日の作業実績情報がWindows CE機に格納される仕組みだ。各拠点の作業実績情報は毎晩,Windows CE機からAS/ 400に自動送信される。

 宮豪はこれまで,作業管理用のバーコード・カードとバーコード・リーダーを従業員に配布し,作業実績情報を収集。作業指示は各拠点のプリンタで印刷して配布していた。「WorkPadの導入で,作業管理の機能を一つの端末に集約できる。WorkPadを新たに購入しても,全体のコストは安くなる」(的場一博代表取締役)。