中小企業のエレクトロニック・コマース(EC)事業を支援するサービスが多様化している。中小企業にとって独力では難しいEC事業への参入や事業拡大を支援するサービスを,ソフトバンクー日本アイ・ビー・エム連合や住友グループが相次いで開始した。大手企業による企業間(B to B)取引が本格化するなか,中小企業も手をこまぬいているわけにはいかない。こうしたサービスを利用することでEC事業への参入が容易になりそうだ。

表1●中小企業によるEC事業の立ち上げや,ビジネスの拡大を支援する主なサービス。今春に相次いで提供が始まった
 中小企業がエレクトロニック・コマース(EC)事業に本腰を入れて取り組める環境が整ってきた。ビジネス・モデル構築のためのコンサルティングや,ECサイトへの集客の支援といった,これまで中小企業が自力ではなかなか対処できなかった問題の解決を支援するサービスが相次いで登場しているからだ(表1[拡大表示])。

 インターネット上での受発注やオンライン・ショップの運営といった基本的なインターネット取引の機能は,すでに多くのASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)が提供を始めている。しかし,インターネット取引が本格化してくると,こうした取引機能を利用するだけではEC事業を成功に導くことは難しくなる。そこで注目されるのが,EC事業を側面から支援するサービスである。このようなサービスは,特に中小企業にとって不可欠なものと言える。

EC事業の立ち上げを支援

 EC関連のノウハウを基にして,新たにEC事業に参入する中小企業向けにビジネス・モデル構築のコンサルティング・サービスなどを提供するのが,ソフトバンク・グループでコンピュータ流通事業を手がけるソフトバンク・コマース(東京都中央区)である。同社は日本アイ・ビー・エムと共同で,4月中にサービスの提供を始める。

 コンサルティングの対象は,インターネットを活用したビジネス・モデルの構築や情報技術(IT)の評価・選択,システムのキャパシティ・プランニングなど幅広い。このうち,ビジネス・モデルに関するコンサルティングをソフトバンク・コマースが,ITインフラに関するコンサルティングを日本IBMが手がける。「大手企業なら,こうした業務を自社の情報システム部門や企画部門に任せることができる。だが,中小企業がEC事業を成功させるには外部の協力が不可欠」(ソフトバンク・コマースの後藤誠二執行役員eBusiness事業部長)と判断した。

 実際のシステム構築はシステム・インテグレータに任せるが,「まったく新しいビジネス・モデルの構築など,内容によってはソフトバンク・コマース自身がシステム構築にまで乗り出すケースもある」(ソフトバンク・コマースの後藤執行役員)。当面はシステム・インテグレーションを前提としたコンサルティングが主体になるが,「将来はインテグレータが手がけるASPサービスを活用することも視野に入れている」(同)。

 そのためソフトバンク・コマースと日本IBMは,4月中にもシステム・インテグレータやコンサルティング会社と提携する予定だ。「EC事業はスピードが勝負なので,広くパートナを募っていく。利用するハードウエアも当社の製品にこだわらない」(日本IBMの宇陀栄次情報サービス産業事業部長)。

 これに先立ち,両社は4月18日に「e-Business Exchange(www.ebiz-ex. com)」と呼ぶWebサイトを開設した(図1[拡大表示])。国内外のEC事業の先進事例を,情報システムの構成も含めて無料で公開したものだ。「EC事業を始めるからと言って,必ずしもビジネス・モデルを一から構築する必要はない。特に中小企業にとっては,米国の事例や他の業種の事例のなかに,参考になるものが数多くある」(ソフトバンク・コマースの後藤執行役員)。

EC事業の運営に伴う問題を解消

 中小企業がEC事業を進めていくうえで考慮すべきことは,ビジネス・モデルの構築・変更や情報システムへの投資,適切な人材の調達や新しい取引先との関係の構築など,多岐にわたる。こうした問題を“ワンストップ”で解消することを狙ったのが,住友グループなどが提供するポータル・サイト(名称は未定)のサービスである。

 このポータル・サイトは,NEC,住友海上火災保険,住友銀行,住友信託銀行,住友生命の住友グループ5社が中核になって構築する。この5社のほか,オービックやNTTコミュニケーションズ(東京都千代田区)などのシステム・インテグレータや,人材派遣のテンプスタッフなどが,このポータル・サイト上でサービスを提供する。

 NECやオービックは,Webサイトやオンライン・ショップといったEC事業に不可欠なシステムの構築を手がける。テンプスタッフ(東京都渋谷区)はEC事業に必要な人材の調達を仲介する。住友銀行などは金融機関のノウハウを生かして,取引先の信用情報の取得を支援する。このように,EC事業に関連する多様なサービスをワンストップで提供する。

 このポータル・サイトを利用するだけで中小企業が即座にEC事業に進出できるわけではない。だが,EC関連の情報を手軽に収集できるだけでなく,中小企業が課題の内容に応じて容易に相談相手を探せる,という利点は大きい。さらに,EC事業とは直接関係ないが,このサイトを通じて財務会計管理や企業年金など経営関連のサービスを受けられるという利点もある。

元手なしでオンライン広告を掲載

図1●ソフトバンク・コマースと日本アイ・ビー・エムが共同で開設する中小企業向けのWebサイト「e-Business Exchange(www.ebiz-ex.com)」。国内外の先進事例を紹介する
 中小企業が手がけるEC事業のうち,特に対消費者向けの事業では,オンライン・ショップへの「集客」も大きな課題だ。中小企業は大手企業に比べて知名度が低いことに加え,高額な料金を支払ってマスメディアに広告を出すことも難しい。マスメディアよりも格段に安価なオンライン広告でさえ,中小企業にとっての負担は決して小さくない。

 こうした点に着目したのが,米国で主に中小企業向けのサービスを提供するスマートエイジの日本法人である。同社は,EC事業を手がける中小企業が元手なしでオンライン広告を他社のサイトに掲載してもらえるようにする仲介サービス「SmartClicks(スマートクリック)」の提供を5月末から開始する。

 SmartClicksの会員企業は,スマートエイジから紹介された他の会員企業などの広告を自社サイトに2回掲載すれば,自社広告を無料で他社サイトに1回掲載してもらうことができる。「中小企業はECのWebサイトを立ち上げても,なかなか集客できないのが共通の悩み。SmartClicksを使えば,この課題を解消できる。さらに,中小企業同士のコミュニティの形成にも役立つ」(スマートエイジの井上健事業開発部長)。

 SmartClicksは,すでにWebサイトを持っている企業向けのサービスである。スマートエイジは今後,「EC事業を手がけるアイデアはあるが,Webサイトを持っていない」という企業向けに,Webサイトの構築サービスも提供する。9月までにWebサイト構築ソフトのベンダーと提携し,「企業が簡単にWebサイトを構築できるようにする」(井上部長)としている。

システム連携サービス向けの製品も

 企業が本格的にEC事業を展開しようとすると,ECシステムを既存の社内システムと連携させることが不可欠になる。中小企業にとっても,こうしたシステム連携の重要性は今後ますます高まりそうだ。通常,中小企業のシステム連携はシステム・インテグレータが手がけるが,こうしたシステム連携サービスの中核になるソフトウエア製品が,ここにきて相次いで登場している。

 富士通は4月11日,中小企業のECシステムの構築を支援するミドルウエアのセット商品「SUCCESS SERVER」の出荷を始めた。Webサイト構築ソフトやアプリケーション・サーバー・ソフト,リレーショナル・データベースなどをセットにして,個別に購入した場合の3分の1程度の価格に抑えた。「企業は今後,インターネットで注文を受け付けるだけでは生き残れない。EC事業で成功するためには,ECシステムを既存の社内システムと連携させ,顧客に高度なサービスを提供することが不可欠になる」(富士通の石井新吾マーケティング本部営業支援統括部中堅市場拡販推進部長)。

 日立製作所も中小企業のEC事業向けに同社のミドルウエアをパッケージ化し,セット商品として今夏ごろまでに提供する見通しだ。これに先立つ今年1月には,ソフト製品を開発するソフトウェア事業部の中に,システム・インテグレーションのサービスを提供する「ソリューション本部」を設置。主として中小企業向けに,同社のソフト製品を使ったECサイトの構築などを手がけている。

 ロータスは4月18日,中小企業のEC事業に向けたソフト製品の出荷を開始した。パートナであるシステム・インテグレータなどを通じて,Webサイト構築・管理用ソフト「EZSite」など,ロータス ドミノ上で動作するアプリケーションの中小企業への導入を推進する。「受注や決済に伴うワークフロー管理の機能についてもドミノ本来の機能で実現可能だ。これにより,インターネット取引システムと社内システムを連携させたECの仕組みを容易に構築できる」(亀田俊マーケティング本部副本部長)。

(関 信浩)