Linux関連で最大のイベント「LinuxWorld Conference & Expo」が2月1~4日,米国ニューヨークで開催された。今回の目玉は,米インテルの次世代プロセサ「IA-64」に対応するLinuxカーネルが公開されたこと。Linux用アプリケーションも充実してきた。中小規模サーバーとデスクトップだけでなく,機器組み込み用途,モバイル,3次元グラフィックス,大規模な科学技術計算など,Linuxの適用分野が大きな広がりを見せてきた。
写真1●LinuxWorldの展示会には185の企業と団体が出展。1999年8月に開催された第2回の158社・団体を上回った |
今回のLinuxWorldのハイライトは,米インテルの次世代64ビット・プロセサ「IA-64」に対応するLinuxを開発しているTrillianプロジェクトが,IA-64版Linuxのソース・コードを初めて公開したことだ(URLはhttp://www.kernel.org/)。1999年8月時点では公開予定時期を「2000年第1四半期」と表明していたので,開発作業は順調に進んでいることになる。
競合ベンダーが協力して開発
Trillianプロジェクトの目的は,(1)IA-64に最適化したLinuxを開発する,(2)IA-64版Linuxの乱立を防ぐ,(3)最初のIA-64プロセサ「Itanium」が出荷される前にIA-64版Linuxを完成させる,の3点。1999年5月から活動を始め,これまでは同プロジェクトの参加企業だけで開発を進めてきた。今後は,だれでも自由に参加できるオープン・ソースの開発体制に移行する。
Trillianプロジェクトの参加企業は,米ヒューレット・パッカード(HP),米IBM,インテル,米SGI,米VAリヌクス・システムズの5社と,米カルデラ・システムズ,米レッドハット,独SuSE,米ターボリナックスのLinuxディストリビュータ4社,そしてCERN(欧州核物理学研究所)の合計9社1団体。これらの企業が,オープン・ソースと同様の開発手法で共同開発した。具体的には,「最も良いソース・コードを書いた者のアイデアを採用する」(Trillianプロジェクトのシュリ・チルクリ計画ディレクタ)という,きわめて単純かつ現実的なルールで開発を進めた。IBM,HP,SGIなど,本来なら競合するベンダーによる共同開発だったわけだが,「参加企業の協力関係はパーフェクトだった」(同)という。
32ビット互換機能も装備
拡大表示])。Linuxの基本コマンドはすでに実装が完了している。動的リンク機能をもち,浮動小数点演算にも対応済み。現行の32ビット版Linuxで動くアプリケーションを再コンパイルなしで実行する(バイナリ互換)機能もほぼ完成している。64ビットのアプリケーションでは,Webサーバー・ソフトApache,メール・サーバー・ソフトsendmail,XウインドウXFree86,グラフィックス・ソフトGimpの移植が済んでいる。
現在は,マルチプロセサ対応,32ビット・バイナリ互換機能の改善,コンパイラとライブラリの安定性向上などに取り組んでいる。今後,完成までに,スレッドと性能監視の機能を追加し,デスクトップ環境のKDEとGNOME,運用管理ソフトEnlightenment,ファイル共有ソフトSambaなどを移植していく。
Trillianプロジェクトはオープン・ソースの開発コミュニティに対して,カーネルやコンパイラ,ライブラリの最適化,各種デバイス・ドライバやアプリケーションの移植などの点で協力を期待しているという。IA-64版Linuxが完成したら,前述のLinuxディストリビュータ4社がItanium搭載機の出荷に合わせてそれぞれ製品化する。
写真3●2月2日の基調講演に登場したリーヌス・トーヴァルズ氏。「Linuxの本質は反商用(アンチコマーシャル)であることではない。Linuxの開発コミュニティと商用ベンダーが反発し合うんじゃないかなんて,まったく考えたことがない」と,Linuxを商業目的で利用することに前向きの姿勢を示した |
バージョン2.4のカーネルは現行の2.2と同じ32ビット仕様だが,最大8プロセサに対応し,最大16GBの主記憶を使えるようにする。「これで中規模サーバーまでカバーできる。デスクトップ用途での利用が活発になるように,使いやすさも重視する」(同)。
小型RDBが続々と登場
今回のLinuxWorldでは,Linuxで稼働するアプリケーションが質量ともに充実してきたと感じられた。現在Linuxの主要な用途である中小規模サーバーとデスクトップの分野にとどまらず,機器組み込み分野や,スーパーコンピュータ級の演算能力を必要とする科学技術計算分野を狙ったアプリケーションが数多く出展された。
今回のイベントに合わせて発表された主な新製品を表1[拡大表示]にまとめた。データベースとWebアプリケーション・サーバーは,これ以外にも多くの製品がすでに出荷されている。
表1●LinuxWorldに合わせて発表された主なアプリケーションの新製品 |
正式な製品ではないものの注目を集めたのは,サイベースがモバイル用途と機器組み込みに向く小型RDB「SQL Anywhere Studio」を,米トランスメタのインテル互換プロセサ「Crusoe」搭載機器で動かしたシステム。Crusoeはトランスメタが1月に発表したばかりのプロセサで,低消費電力を売り物にする。展示した機器のOSは,同社社員であるトーヴァルズ氏が自ら開発した機器組み込み向けLinux「Mobile Linux」だ。
米センチュラ・ソフトウエアは機器組み込み用RDBの新製品「bd.linux」を発表した。オープン・ソースのRDBであり,200KBの主記憶で動作するという。インフォミックスは,モバイル用途と業務パッケージ組み込み用のRDB「Informix Cloudscape 3.0」を投入した。この製品はJavaで開発した。同社は最新のオブジェクト・リレーショナル・データベース(ORDB)「Informix Internet Foundation.2000」のLinux版も発表した。
このほか業務パッケージに組み込むタイプのRDBでは,米インプライズの「InterBase6」と米パーベイシブ・ソフトウエアの「Pervasive.SQL2000」が出展された。インプライズはInterBase6をオープン・ソースにする。
3次元グラフィックスWSも登場
写真4●Linuxで稼働する3次元グラフィックス・ワークステーション。Windows NTワークステーションと同様にインテルのプロセサを搭載する。OpenGL対応の3次元グラフィックス・カードとして,HPの製品(左)は自社開発した「VISUALIZE fx+」,SGIの製品(右)は米NVIDIAのカードを採用している |
さらに今回初めて,Linuxを搭載した3次元グラフィックス・ワークステーションが登場した(写真4[拡大表示])。この分野でもWindows NT対Linuxの競合が始まる。HPとSGIが参考出展した製品は,どちらもWindows NTでも稼働する。両社とも今春に正式出荷する見込みだ。
このほかでは,IBMが1999年12月からソース・コードを公開していたメインフレーム「S/390」向けLinuxの技術的な詳細を明らかにした。S/390には複数の論理区間を設定して別々のOSを実行する機能がある。Linuxも論理区画を割り当てて動かす。正式な出荷時期は未定。