XML(エクステンシブル・マークアップランゲージ)を業務システムに利用する動きが広がっている。特に,取引先からの調達業務に必要なEDI(電子データ交換)システムにXMLを適用する企業が増えてきた。各社は,XMLが今後の標準データ形式になりそうな点や,データ構造を容易に変更できる点などに注目している。このほか,社内のワークフロー管理システムにXMLを利用する企業も登場した。

表1●XML(エクステンシブル・マークアップ・ランゲージ)を業務に利用する主な企業
 企業間取引に伴うEDI(電子データ交換)など,業務システムにXMLが適用されるケースが増えてきた(表1[拡大表示])。XMLの業務利用に取り組む企業は一様に,XMLの利点に注目している。特に,従来のHTML(ハイパーテキスト・マークアップ・ランゲージ)と違い,<日付> や <価格>といったタグを利用者が独自に設定し,タグの中に記述されたデータの意味を自由に定義できる点である。

 EDIへのXML適用に取り組む企業の代表例がTOTOだ。同社は,部品や原材料の調達に使うEDIシステムにXMLを利用し,業務効率の向上を図る。顕微鏡など精密機械の販売を手がけるライカ マイクロシステムズ(東京都品川区)は,経理システムのデータをXML形式で管理し,ドイツ本社の経理システムと容易にデータを交換できるようにする。一方,住友電気工業はXML技術を使ったワークフロー管理システムを導入した。

取引先や商品が増えても容易に対応

 TOTOは,2000年6月に稼働させる調達用のEDIシステムにXMLを利用する。Webブラウザを使い,100社以上の取引先から消耗品や部品,原材料などを購入しやすくする。「今後標準になるXMLを使えば,取引先を拡大できる。将来はオークション形式で取引を行い,最も良い条件を提示したメーカーから調達できるようにする」(竹下正宏購買部長)考えだ。

 EDIシステムでは,注文データをXML形式に変換して取引先に送ったり,取引先からXML形式で受け取った見積もり・納期回答データを通常の形式に変換する(図1[拡大表示])。こうしたデータは社内システムでも扱うため,通常の形式でデータベースに格納する。これらをWebブラウザから読み書きできるように,HTMLページ作成機能も併せ持つ。

 TOTOの全13事業部と子会社の購買担当者は,商品マスターに含まれる部品の一覧などをWebブラウザに表示し,購入したい部品を選んで数量や希望納期などを入力する。この見積もり依頼データはデータベースに格納された後,<日付> や <型番>,<数量>といったタグを持つXML形式に変換され,指定したすべての取引先に送られる。

 取引先のシステムは,XMLのタグを認識してデータの構造や意味を理解するためのDTD(文書型定義)を持つ。DTDには,タグ同士の関係や,それぞれのタグで扱うデータの形式などが定義されている。これにより,TOTOから受け取ったXMLデータをシステムが解釈し,必要なデータを取り出して処理したり,見積もりや納期回答などのデータをXML形式で返信することができる。

 同様に,TOTOの調達システムもDTDを持つので,取引先から受け取ったXMLデータを解釈して処理できる。TOTOの購買担当者は,見積もりや納期回答などのデータをWebブラウザに表示し,最も条件の良い取引先に注文を出せる。この仕組みがEDIシステムでは威力を発揮する。「取引先や取り扱い商品が増えても,DTDの内容を書き換えるだけで容易に対応できる」(TOTOのシステム構築を担当しているNTTデータの吉武宏昭氏)からだ。

親会社との経理システムの違いを解決

図1●TOTOの調達用EDIシステムの仕組み。各事業部の利用者はデータベース内のマスター・データや納期回答データをWebブラウザを使って参照できる。消耗品メーカーや部品・原材料メーカーとの間で,注文や見積もり,納期回答などのデータをXML形式でやり取りできるようにした
 ライカ マイクロシステムズは2000年春に稼働予定の新経理システムで,経理データをXML形式で管理することにした。同社と異なる仕様の経理システムを運用しているドイツ本社に対して,容易に経理データを渡せるようにするのが狙いだ。TOTOなどのEDIシステムと違い,ドイツ本社のシステムに,DTDなどXMLを処理するための環境を用意しなくてもXMLデータを送信できる。

 ドイツ本社は経理システムに「SAP R/3」を利用している。ライカはさまざまな状況判断からR/3を使わないで新経理システムを構築することを決定。ドイツ本社のR/3システムに手を加えなくても,日本からデータを渡せる仕組みを作ることにした。XMLデータ自体に,XMLデータを処理するためのスクリプトを埋め込み,ドイツ本社の経理担当者がWebブラウザに表示するときに処理を実行できるようにする。スクリプトには,XMLのタグを認識して必要なデータを取り出し,R/3のデータ形式に変換して,データベースに格納する,という処理を記述しておく。

 例えば,ドイツ本社の経理担当者がライカ社員の交通費を処理するには,まずWebブラウザから日本のWebサーバーにアクセスする。経理データの一覧を表示して「交通費」を選択し,XML形式の交通費データを表示する。画面中のデータ処理用ボタンを押すとスクリプトが実行され,交通費データをR/3のデータ形式に変換してR/3のデータベースに格納する。このように,DTDを使わなくてもXMLデータを容易に交換できる。

特許申請のワークフロー管理に活用

図2●住友電気工業のワークフロー管理システムで,特許申請業務のワークフローをXML形式のデータで定義している例。ワークフローの工程,各工程で実行する処理内容,処理を実行するきっかけとなるイベントを,それぞれ<STATE_DECL>,<ACTION_DECL>,<EVENT_DECL>といったタグで定義する
 住友電気工業はソフト開発部門を対象に,ソフト修正業務やソフト技術の特許申請業務のワークフロー管理にXMLを利用している。各工程の担当者が読み書きする文書の形式としてXMLを採用しただけでなく,ワークフローの定義にもXMLを使っている点が特徴だ。同社は,組織の再編などがあってもワークフローの定義を容易に変更できる点を評価。1999年10月に稼働させた。

 例えば特許申請業務では,出願依頼書を作成した技術者が上司に検討を依頼したり,上司が部下から受け取った出願依頼書を承認して,特許担当の知的財産部に提出する,といった作業の流れがある。ワークフローを定義したXMLページ(図2[拡大表示])では,作業の各工程を<STATE_DECL>というタグで定義。同様に,各工程で実行する処理の内容を<ACTION_DECL>タグで,処理を実行するためのきっかけになる“イベント”を<EVENT_DECL>タグで,それぞれ定義している。図に示した<ACTION_DECL>タグの例では,「出願依頼検討要求」という識別子(<ID>タグ)を持ち,処理内容として「flow-visitor@tokyo.sei.co.jp」というあて先にメールを送信するよう定義されている。

 具体的な作業の流れはこうだ。特許を申請したい技術者は,Webブラウザに出願依頼書のWebページを表示する。出願内容を入力すると,そのデータはデータベースに格納される。これを受けて,ワークフロー管理のプログラムが起動されて,前述したワークフロー定義のXMLページを参照し,「出願依頼検討要求」という識別子を持った処理を実行する。つまり,出願者の上司に対して,出願依頼があった旨をメールで送信する。

 メールを受け取った上司は,メールに記されたURLのWebページ,つまり部下が作成した出願依頼書をWebブラウザに表示。必要に応じて内容を修正してから承認すると,そのデータがデータベースに格納される。あとは同様に,ワークフロー管理のプログラムが知的財産部の担当者にメールで通知する,という具合だ。

年間15億円のコスト削減を見込む

 このほかでは,東芝が昨年6月から,XMLを使ったパソコン部品の調達システムを運用している。以前は「EIAJ」など業界標準のEDIシステムを導入していたが,「専用クライアントを使うなど手間がかかることもあって,広く普及するまでには至らなかった」(保田宏ISセンター サプライチェーンマネジメントシステム部EDIセンター参事)。Webブラウザを利用できるXMLなら普及が期待できると判断した。

 ポータル・サイト大手のアスキーイーシー(東京都新宿区)は,オンライン・ショッピングのシステムにXMLを採用した。顧客からの注文データなどをXML形式で格納し,メーカーや卸,物流業者に送信できる。「まだ,ほとんどの取引先がXMLデータを扱えるシステムを持っていないのが悩み」(アスキーイーシーの玉舎直人常務)だが,今後の業界動向を見据えて,XMLを使った仕組みを準備しておくのが得策だと判断した。

 XML利用で先行する企業は,大幅なコスト削減効果を見込んでいる。例えばTOTOは,「調達業務の効率化による人件費の削減や,オークション形式の取引による調達コストの削減などを合わせて,年間約15億円を削減できると見込んでいる」(調達管理グループの池田正昭氏)。

 ライカ マイクロシステムズも経理業務の効率化によって,「約3割のコスト削減効果がある」(安齊正道マネジャー)という。

(栗原 雅)